妹にメロメロです
記憶が戻ったのは3歳の頃で、それまでは普通にのんびりと赤ちゃん時代~幼児期をすごした。
思い出したきっかけは……そうそう、両親の海外赴任が終って日本に帰ってきた時に本家へと挨拶に行った時の事だ。
母の「お義兄さんは、相変わらずイカゲソ三昧かしらねぇ。」なんていう、良く分からない会話を聞きながら妹のりりんと手を繋いで両親の後をチョコチョコと歩いた。
どうやらその家には、私達と同い年の男の子が居るらしい。
「従兄の明日太とも初顔合わせだな。」
「仲良くなれると良いわねぇ。」
なんて、2人が笑うのに首を傾げていたのは今ではちょっと笑える。
その時考えてたのは、大好きな妹がそいつにいじめられたり、はたまたそいつの事を好きになり過ぎなければ良いなと、そんな事を考えていたのだ。
「いらっしゃい、おじ様、おば様。」
本家に着くと私達と同じ位の年頃の男の子を抱えた、優しげな顔立ちの青年が真っ先に客間に現れる。
「柴君お久しぶり。」
「お元気そうでなによりです。」
「あら、柴君だけ? まりあはどうしたのかしら……?」
まりあと言うのは私達の姉らしい。
産まれた時には顔を見に来たらしいのだが、両親が海外赴任している間は本家にお世話になっていて、まだきちんと顔を合わせた事が無く、そう言う名前を良く聞くなと言う程度の認識だ。
「まいあちゃん、いうの?」
「今、ちょっと手が離せないみたいだけど、すぐに来るからね。」
ちょっと待て!
このくそイケメン、可愛い妹の頭を気軽に撫でるんじゃない!!
ぶっちゃけて言うなら、私はこの時既に妹にメロメロだった。
3歳児の私が、同じ3歳の妹に骨抜きだったのだ。
大事な事だからもう一度言おう。
私は、3歳にして既に妹を溺愛していた。
だから、気軽に彼女の頭を撫でた青年に対して、拳を振り上げて抗議の雄たけびを上げると勇敢にも殴りかかったのだ。
すぐに頭を抑えられて、振り回した拳は届かなかったけれど。
「柴君、ごめんねぇ……。この子、りりんの事が好き過ぎてたまにこうなるのよぉ……。」
「ああ、こっちの小さい方の子がりりんちゃんなんですね。じゃあ、君は蘭ちゃんか。」
彼はしゃがみこんで、私と視線を合わせると優しく微笑みながら頭を撫でる。
おマセな女の子なら、それだけで陥落しそうな破壊力のあるその笑顔は、しかし私には効果が無い。
その時の私には分からなかったが、今なら分かる。
記憶が戻ろうが戻るまいが、私の心は常に男であったからだ、と。
キッと、彼を睨みつけたところで、不穏な気配を感じたらしい妹がぐずりはじめて我に返る。
「らんたん、けんか、めー!」
可愛い可愛い妹に、涙目でそんな風に言われたらもう、もう駄目だ。
「りりん、かぁーいぃー!!!!!」
私は思わず叫ぶと、妹を抱きしめて頬に額にキスの雨を降らせてしまった。
もう、くそイケメンの事はその時点で頭にない。
「えーっと……。」
困った顔をして、ヤツは両親と何か話していたが、その内抱えていた子供を私達の側に残して部屋を出ていった。
「蘭ちゃん、それ位にしなておかないと、りりんちゃんがもうフラフラになってるわよ?」
母の言葉にハッとなって、腕の中の妹を見ると、確かに目を回しかけている。
慌てて彼女から手を離し、母と一緒に介抱しているとりりんに向かう興味津々な視線に気が付く。
視線を辿ると、さっきまであのくそイケメンに抱えられていた幼児(男)の姿。
「明日太君、ごめんねぇ。蘭ちゃんが暴走しちゃうと、こう言う事が良くあるのよぉ。」
苦笑混じりに、幼児に向かって言い訳する母に一言言いたい。
そんな事言われても、幼児に理解できるか!
私は出来たけど。
って、そんな事はどうでもいい。
問題はその明日太だ。
こいつ、前世の私の孫じゃないか?
マジマジとそいつを見て、そう判断した瞬間。
前世の後半になって起こった事や、やってしまった事の記憶が怒涛の様によみがえってきて、その衝撃に身体が傾ぐ。
「え?! 蘭ちゃん?!」
慌てた声を上げる母の声を聞きながら、一気に戻ってきた数百年分の記憶の衝撃に意識が遠のく。
勿論、当時の私が孫達や子供達に行った所業も全てだ。
でも、それでも。
りりんは誰にも渡さない!
お巡りさん大変です。
変態幼女が現れました。