明日太が思う事
僕には、生まれ月が4カ月しか違わない、同い年の従妹で尚且つハトコだという子が2人いる。
彼女達は父の弟の娘で、強い光を纏う姉の方が『蘭』、柔らかな藤色の光を纏う妹の方は『りりん』だ。
僕は何故か、生まれつき人の纏うオーラとかそう言ったイメージの物が見えるから、小さいうちはその色で個人の判別をしていた。
ちょっとだけ、よく見る夢とこの力に関わりがある様な気がするけれど、目が覚めるとその夢は僕の記憶に留まっていてくれる事はないので、確かな事は分からない。
ただ、なんだか自分の他の人生を傍から見ている様な感じだけが残っている。
そんな夢だ。
そう言えば今日見た夢はとても悲しくて、夜明け前に目が覚めてしまった。
いつもは平気なのに、暗い部屋に一人でいるのが怖くなって、お父さんとお母さんのベッドに潜り込んだ。
もうすぐ高学年になると言うのに、我ながら情けない。
そんな僕を優しくベッドに迎え入れてくれた僕の両親は、温かみを感じさせるオレンジの光を纏ってる。
兄も同じ系統の色合いだ。
優しくてあったかくて、大好きな家族は父と母、そして21歳も年の離れた兄と僕の4人。
僕は、母が43歳になってから産んだ子供だ。
いつか、父や母みたいな愛情にあふれた過程をもちたいなと言うのが僕の夢。
その為にはまず、兄の様な素敵な男性にならなくてはと思ってる。
黒く賢く優しげにが目標だ。
……ちょっと、難しいかもしれないけど頑張ろう。
そうそう、従妹達の事だ。
蘭の方は、背が高くてスラッとしていて、りりんはちんまりとして小柄。
そして二人の顔立ちはそれぞれ、父と母の容姿を別々に受け継いだのか全く似ていない。
むしろ、蘭は僕と双子なんじゃないかと言われる位だ。
僕と蘭の容姿が似ているのは、母同士が従姉妹関係にある上に双子の様に似ていたせいらしい。
背丈も大して変わらないし、服を交換したら小学生の内なら先生も誤魔化せるんじゃないだろうか?
母達が子供の頃にやった悪ふざけらしいけど、面白そうだから今度是非やってみたいな。
蘭もそう言う悪ふざけは割と好きだから乗ってくれるかもしれない。
ところで、この2人の従妹達の姉の蘭は、最初の内は少し苦手だった。
何をされたとかそういうのではなくて、本当に『なんとなく』。
蘭は『面倒見の良いお姉ちゃん』と言う感じで、僕にも優しく接してくれていたのに、何故か彼女が怖かった。
今でも、少しそう言う感覚はあるけれど。
そんな蘭が、たまに、僕に対して申し訳なさそうな表情を浮かべるのが今でも不思議だ。
「何かついてる?」
「ううん。……ごめんな……。」
たまに、蘭のその表情に耐えられなくて訊ねる事がある。
けれど、そうすると必ず帰ってくるのは否定と謝罪の言葉。
一体、彼女は僕に何を謝っているんだろう?
知りたいと思うその一方で、知るのはなんだか怖い。
理由を知ったら、今のこの関係が壊れてしまうんじゃないかと言う予感がするから。
普段は優しい蘭だけど、そんな彼女が僕に対して辛辣に対応して来る事もある。
それは、彼女の妹のりりんが関係して来る時。
彼女は妹のりりんの事が大好きで……。
溺愛と言って良い程に、大事に大事に甘やかしてる。
「りりんに近寄る男は、みんな敵!」
小4でも、意外と色恋沙汰と言うのはあるもので、りりんに告白してきた男子を蘭が追い払った後に、彼女はそんな事を言い出した。
少し、しつこくされていたのもあって、蘭が追い払うのをりりんと2人で見ていたのだけれど、鼻息荒く件の男子を見送る蘭の言葉に僕は目を丸くした。
「そんな事言って……。蘭もりりんもいつかは結婚するだろう?」
「まだそういうの、考えたくないなぁ……。」
「私が? りりんとならともかく、男と??」
『結婚』と言う言葉に対する、りりんの反応は想像通りだったものの、蘭の返答が意外すぎた。
え?
結婚する気、ないの??
というか、りりんとならするつもりなの???
「そもそもこの国は、女同士で結婚できないし……。」
「なら、私もりりんも結婚しない。」
「えええ……。」
「ぐぇぇ。蘭ちゃ、苦し……」
困った方向に即答だった。
思わず、自分の口から途方に暮れた声が漏れ、蘭に力任せに抱きしめられたりりんの口からは苦悶の声が上がった。
僕は大きくなったら、りりんと結婚したいのに。
結婚しないならしないで、蘭の問題だから仕方がないだろうとは思う。
でも、りりんは巻き込まないで上げて欲しい。
本人は結婚について是とも非とも考えて無さそうだし。
蘭にギュウと抱きしめられて、苦しげなりりんを解放しながら、僕は将来の為に何か打開策を考えなくてはと頭を捻る事にした。
ところで、妹のりりんはぽやーんとした雰囲気で、ちょこまかとした動きがとても可愛らしい女の子だ。
それは、初めて会った時からの感想というか印象。
きつい事を言う事もあるけれど、それも含めて、とても好き。
大人になったら、是非、彼女と結婚したいと思ってる。
どうしてそんなに好きなのかは自分でも良く分からないけれど、多分、一目惚れとかそういう類なんだろうと思う。
この『好き』と言う気持ちは、今ではもう自分の中に無くてはならない物になっている。
なぜなら、りりんの姿を見る度、言葉を交わす度に積み重なっていったものだから。
「明日太はモテるよねぇ。」
「そうかな?」
りりんとゆっくり言葉を交わす機会と言うのはそれほど多くない。
大概は蘭か両親のいずれかがいるから、どうしても本心を話しづらいのだ。
なので、2人で話せるのは学校の短い休み時間を縫ってするしかなく、それがまたもどかしい。
昼休みは、蘭も来ちゃうから3人で話す事になるから、授業の合間の短い休憩時間は貴重なんだ。
「うん。だから、ね?」
「うん……。」
ちょっと困った様な苦笑を浮かべるりりんに、嫌な予感を感じながらサッと周りに視線を向けると、何人もの女子が僕達の会話に耳を澄ませているのが見てとれる。
どの子も、覚えがある。
学年に60人しかいないから、全員の顔と名前が一致するのは当然だけれど、そう言う意味ではなく。
どの子も、バレンタインに『手作り』チョコをくれた子達だ。
……まさかの、本命チョコ?
お祭り騒ぎを楽しみたかった訳じゃなく??
僕は天を仰ぎたい気分になる。
「あんまり、休み時間の度に来ると誤解されちゃうよ?」
「……。」
あんまりだ。
僕は、りりんに本気なのに。
僕はしょんぼりと肩を落として教室に戻ると、りりんの誤解と言う名の理解を解きつつ、女の子達から距離を取る為の方法を考える事にした。
……蘭の事をどうするかも考えなきゃいけないのに、面倒事というのはどうしてポコポコと湧いて出てくるんだろう?
人間関係って、めんどくさいな。




