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恋敵は前世の孫  作者: 霧聖羅
2章 小学生
12/27

ファーストキスはレモン味

 葵ちゃんは、翌週の土曜日に遊びに来る事になった。

なんだかんだで習い事やら、親の用事に付き合ったりとかで流石に今週は無理だったのだ。

りりんにその話をすると、意外そうな顔に目を瞬いた。


「蘭ちゃんがお友達連れてくるなんて珍しいね。」

「そう言うりりんだって、友達連れてきた事無い様な気がするケド?」

「うーん……。来たがってる子はいるんだけど、凛ちゃんのコレクション目当てっぽくってちょっとねぇ……。」


 凛ちゃんと言うのは、今生の母の事だ。

母のコレクションと言う事は、あの漫画とかアニメDVDとかゲームとかが目当てって事だろうか?

確かにソレがお目当てじゃ、ちょっと招く気にはならないな……。


「ソレは確かに微妙……。」

「でしょ?」

「そう言うんじゃない友達はいないの?」

「明日太と蘭ちゃん。」

「身内じゃない……。」


 ポテチを摘まみながら口にされる妹の返答に、思わず苦笑が浮かぶ。

明日太にしろ私にしろ、ソレは友達とは言わないだろう。


「それなりに楽しくおしゃべりする相手は一応2~3人いるけど……。どこからが友達なのかが良く分からないんだよね。」

「えええ? それ、その子達は友達のつもりじゃないの?」

「うーん……。マウンティングされてる気がする時があるから違うんじゃないかなぁ?」

「……難しい言葉知ってるね。」



私のりりんをマウンティングだと?

許せんな。



 心の中で、後で仕返しするリストに入れてやろうと思いながら、名前を訊ねると聞こえないフリをされてしまった。

心の声がダダ漏れだったか?


「明日太の事が好きみたいなんだよね。なんか、明日太はネガティブキャンペーン始めるらしいからその内収まるんじゃないかなぁ。」

「何そのネガティブキャンペーンって?」

「クラスの男子と下ネタに興じるんだって。」

「……大声で?」

「明日太が声を張らなくても、他の男子が結構声大きいから混ざってるだけでいいんじゃないかって言ってたよ。」

「へぇ……。」



明日太はソレで良いのか?

私がアイツの立場だったら、なんか心が痛くなる気がしてとてもじゃないけどやれる気がしない。

と言うか、それでネガティブキャンペーンになるのかって部分がはなはだ疑問だ。

『無理に下ネタ男子に巻き込まれた可哀相な吹雪君』になるんじゃないのか??



「それって、りりんの為だったりするの?」

「多分、本人がその話題に混ざりたいんじゃないかな。」

「まじで?」

「明日太って、涼しげな顔してサラッと下ネタと言うかエロネタ口にしてるけど……蘭ちゃん気付いてなかった?」

「全く。全然気が付いてなかったよ。」

「最近、ドサクサに紛れて抱きついて来ようとするのは避ける事にした。」

「そんな事もするの!?」

「蘭ちゃんはされない?? 結構、オープンスケベだよぉ?」



まじか!

全然気が付いてなかった。

だって、小4だよ?

色気づくの早くないか?!



「最近の子って怖い……。」


 ポロリとおっさんくさい言葉が口から飛び出す。

りりんはソレを聞いて、ソファひっくり返ってゲラゲラと爆笑し始めた。



だって、真面目にそう思ったんだもん。

仕方ないじゃないか。

そして、りりん。

ちょっとはしたない。

女の子がそんな大股広げて笑い転げちゃ駄目でしょう!



「婚約者がいない子達の中には、恋人作ってる子もいるよぉ??」

「なんと?!」


 青天の霹靂!

聞いてみたら、2年生の時にはファーストキスがどうこうという会話があったらしい。

最近の小学生、ちょっと進みすぎじゃないの?!

驚きと共に、恐ろしさも感じてしまう、私はきっと今時の子供じゃないのだ。

……ちょっとだけ、今時の子供じゃなくてもいいかなと思ったのは内緒。


「こないださ……」

「うん?」

「昔の少女マンガ見てたら、『ファーストキスはレモンの味』とか書いてあったけど、ホントかなぁ?」


 ファーストキス繋がりで、なんだかアホな質問が飛んできた。



アレは、こう……。

イメージ的なナニカで、本当にレモンの味がするんじゃなくレモンみたいに甘酸っぱいって言う意味合いだと思うんだけどね。

こう、嬉し恥ずかし恋せよ乙女的な?



 心の中でツッコミを入れつつ、私は適当な相槌を打ち、キャンディボックスを漁ってみる。



お、あったあった。



 レモン味のキャンディを口に放り込んで転がしながら、りりんの元に戻ると、未だソファに転がったままの彼女に圧し掛かる様にして唇をそっと重ねた。

物心が付いてから初めての口付けだから、ファーストキスと言えなくもないと思う。

驚いた様に目を瞬くりりんを至近距離で見詰めて、下唇を舌でなぞる。


「……ん……。」


 9歳の物とは思えない、色っぽい喘ぎ声が彼女の口から漏れて、心拍が上がった様な気がした。

ゆっくりと彼女の唇を嬲り、微かに開いた唇の中へと舌を侵入させその口内を思う存分味わい尽くすと、最後にキャンディをその中へと移す。

トロンとした目で、私が離れるのをぼんやりとみているりりんの額に口付けを落としてから、からかう様に言葉を投げかける。


「ファーストキスの味、した?」


 彼女はそっと唇に手を当てると、頬を赤く染めて視線を逸らしながら微かに頷いた。


「蘭ちゃんの、えっち……。」



よし。

おかわりオッケーって方向で理解した!



 ああ、やっと幼稚園に入ってからこのかた我慢してきたキスが解禁だ!

頬を赤らめつつ、私の方をチラチラとみてくるりりんを見ながら、私は心からの笑みを浮かべた。

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