私のいる場所
「プルルルル‥プルルルル‥」ホットラインが鳴った。女医の佐久医師が電話を取る。そのやりとりを聞き耳を立てて、情報を得る。「はい、天使病院、NICUの佐久です‥。‥はい、25週、前期破水、カイザーですね。わかりました、今から伺います。」
ここは周産期母子医療センター、新生児集中治療室、通称NICU。業界では『N』と呼ばれている。ここには正常分娩の37週未満で生まれる小さな赤ちゃんや、先天性の疾患を持った赤ちゃんが運ばれて来る。
今日もまた1人運ばれて来ることになるだろう。「お友だちがくるよ、みんなで頑張ろうね」小さなお部屋(保育器)に入った小さな天使の検温をしながから声をかけて保育器の扉を静かに閉める。
「今日もまた忙しくなるかな。さてさて、入院準備をして待つか‥」と、他のスタッフと協力して小さな天使のお部屋の準備を始める。これが私の日常である。
私、秋野美李愛は中堅‥と言っても、看護師になって10年になる。主任という立場にもなり、部下も出来た。主任になんてなる気はなかったのだが、やはりこの世界は役職や資格がないと将来厳しい。資格を取ればいいものの、私は何を血迷ったか、主任になることを選んだ。正直管理職なんて興味ないのに。でも、選んだものは仕方がない。やるしかないのだ。
ここは天使病院、総合周産期母子医療センター。NICU(Neonatal Intensive Care Unit)と、GCU(Growing Care Unit)を持ち合わせている。小さな天使たちは『N』『G』合わせて、60名が収容できる。60人いれば、60通りのドラマがある。嬉しい出来事もあれば、辛い出来事。
殺伐とした中にも、日々ドラマチックなことがあり、刺激的な日々だ。
今日もまた一つ、その刺激的な出来事が始まろうとしていた。