止まない雨
雨が降り続いている。
数時間という程度では無く、ここ四年間雨が止んだことは一切無い。四年前の六月六日から、雨は僕らから太陽を奪った。外で遊ぶ楽しみを奪った。そして、雨は。
僕から、両親を奪った。
忘れもしない四年前の六月六日。この雨が降り始めた日。僕ら家族を乗せて山道を走る車は、雨のせいで山のふもとに滑り落ちた。なぜか僕だけが助かり、両親は帰らぬ人となった。
僕は、雨が嫌いだ。
四年間雨が降り続くこの町で、世界で、それを受け入れている世間も大嫌いだ。
この四年間で世間も大きく変わった。
生まれてから太陽がそこにあったのと同じ様に、雨が降っている事を当たり前にしたのだ。地下道が多く開発されたり、雨に便利な商品が発売されたり、雨に関連付けたイベントを開催したり。誰も彼も、雨を良いものと扱う。雨を正当化する。
雨のせいで、事故率も着実に増加しているというのにも関わらず。
自分に関係の無い事だから、と。自分が生きているこの世の中が楽しくあれば他の事は考えず、気にもせず、ただ雨に浮かれて、今楽しめている事だけを重んじて。そんな、勝手な世の中だ。僕の両親は、こんな奴らよりも先に命を落とした。しかも、彼らは殺人鬼とも言える雨を喜んでいる。僕は、それがどうしても許せない。
もう、家の中で雨の音を聞くのは限界だった。
僕は刃物を持って、雨の中、傘も差さずに外に出た。
町は相変わらず浮かれている。そんな浮かれている奴らを殺しても、僕に罪は無い。僕は悪くない。これは両親の敵討ちも同然だ。僕は絶対に、間違っていない。
それからは、ただ乱暴に刃物を振り回した。
透明な雨が赤色に染色されていく。夢中になって振り回していたら、僕は足元の水溜りに足を滑らせて盛大に頭を打った。そのまま、意識は遠退いていく。
大嫌いな雨に塗れて、僕は死んでいく。
やっと、雨が止むのだろう。
ピッ、ピッ、ピー。
静かな病室に、機械音が鳴り響いた。
「ご臨終、ですね。今日は久々に雨が降っていて、彼、とても苦しそうな顔をしていました」
看護婦がそう言うと、医師は目を伏せてこう言った。
「いつも、雨が降ると彼はそういう顔をしていたよ。もしかしたら。もしかしたら、だが。彼が両親を亡くして、意識を無くしたあの日から……」
――彼の心の中には、あの日の雨が降り続いていたのかもしれないな。