六章 [原点(ジパング)]
「ほら、いい加減起きてください。音速越えた位でへばりすぎですよ」
「軽く人間の限界超えんじゃねぇよ!?……って、あれ。俺って今まで寝てたのか?」
「ええ、そりゃもう。まぁ、勝手に連れ出した私もいけませんし。なるべく日が沈む前に終わらせたいんです」
動かすのがダルい身体を起こし、空を仰ぐ。
紅に染まりつつある広大な空が俺を見ている。
手にはアスファルトの冷たい感覚があった。ここは道路か?
「おい、ここは何処なんだ」
全く見覚えのない道路の真ん中。周りには幾つもの電柱。
見渡す限りの使われていない様な田圃。
奥に聳えるのは入道雲と緑が生い茂った山。そしてバックに太陽。
ハッキリ言って田舎だ。
「此処は[原点]。ある一種の空想世界です。この世界の[一部]の一部。私達が住む世界の断片的な空間なのです」
「よくわからん、分かりやすく話せ」
「私も良く分かりません」
「あんな剛腕で連れてきたのはアンタだろうが………!!」
それにしてもどうして俺はコイツに此処に連れて来られたんだ。ただ事では無いのか?
前世やら秩序やら。俺は元々そういう展開は好きだが、信じられる物とか現実と虚構の見分け位はつく。
「一見、この世界は別の時空への干渉が起きている様です。分かりやすく言うと、恐らくこれはパラレルワールド」
「煩い。もういい、帰らせてくれ。元来た道を辿って帰れるだろ」
「いえ、私が此処に貴方を引っ張って来たのでは無く、元々此処に転移されてきた様です。良く記憶がありません」
転移?能力系統の一種か?また何かやらかしたのか?
「いえ、外傷的な現象は受けていないと思います。流石の私でも移動中に転移能力を受ければ分かります」
だったらなんだ?これは全て定められた現象とでも言うのか。
「まぁ、そう言った物の方が正しいかも。貴方を引っ張った時点で記憶は飛んでいます。そうして起きたら此処にいた。簡単に言えば―――」
「迷った。だろ………?」
と俺が言葉を遮って言うと、コクリと頷いた。
待て、簡単に言えば、これって帰れなくない?
*
「すいませーん。誰か居ますかー?」
誰かが答え終わる内にガシガシと家に足を踏み入れる。生活していた跡は在るが、もぬけの殻だ。
「妙ですね、此処まで人が居ないと………」
「全てのきっかけは誰だっての。はぁ………」
俺がガックリと頭を下に向けると、一枚の新聞が目に入った。その年代日付を見ると、[平成27年 8月27日(土)]と書いてある。
「なぁ、平成って今から何時ぐらい前だ?」
「平成ですか………?丁度今から一千年程前ですけど………。あ」
「何だ。どうかしたのか?」
唐突に後ろから声が聞こえる。俺が振り替えると、その手には電波趙音響が握られていた。古く言うと、当時では[ラジオ]と言われていた物だ。
「ちょっとつけてみましょうか………?」
「ああ、そうしてくれ」
俺が催促すると、小さなスイッチの様な物を押す。
《ガチャン》
小さなかな切り音が鳴り響き、小刻みに小さな音が鳴り続く。
「おい、何も鳴らないけど………もしかして、何処か壊れてるんじゃねぇのか!?」
「まぁ、その可能性も在りますね………。でも、どうしてでしょう」
そこで次は俺が閃く。古文で聞いた事がある。昔では[電池]という物で電化製品を動かしていたと聞いた事がある。
「そうだ。電池だ!!恐らくそれは電池が無い!!」
「………!流石です!!天才ですか!?」
「誉める前に先ずは電池を捜すんだ!!電化製品があるという事は、恐らくこの家にも在る筈だ!」
「ですが、電池ってどんな物ですか………?」
*
「こ、これでしょうか………!?」
もうかれこれ電池を探すのに十分以上立っている気がする。この家には時計も明かりもなく、光るのは月明かりだけ。
姿形も分からないその[電池]を探すだけの必死さを客観的に見たら随分シュールだ。
「うーん、一応差してみよう」
その円柱の形をした左右に出っ張りのあるそれは、以外にもラジオ後ろにはまった。
《ガチャリ、ギギギ………》
暫くそのかな切り音が鳴り続くと、ふとした瞬間に音は途切れ、恐ろしい程の静寂に包まれる。
「結局これでも無いのか………!」
「す、少し休憩でもしましょうか………」
流石に疲れて地面に手を着けて座り込む。そこで、ふと下腹部に違和感が走る。
何かが体に当たっている。その付近をまさぐると、そこには小型携帯端末があった。
「なぁ、これって使えるか?」
俺はその端末を掲げて見せると、アイツは目を光らせた。
「おお、ではそれで電話を………って、流石にそんな昔の化石の様な物を扱える程私は万能じゃ無いのです………」
そうして、二人は徐々に闇夜へと誘われていく。月明かりが照らす丘へ。
ちょらーっす。音韻です。六章になりました。と言っても、まだ凄い事は起きません。次回、新キャラ来るか?