三章 [燃えし業焔の鎖(レイド アロウ)]
もう既にむさ苦しい暑さが地を這うこの世界では、何も失う物も無いと思っていた。
既に十五分前から来ていた俺の隣に座る彼女。名は皇 連花は涼しげにオレンジジュースを飲み干す。
まぁ、このぐらい奢るのが男ってもんだとは弁えているつもりだ。
さっきからにこやかにオレンジジュースを飲んでいる姿しか見せない彼女だったが、急に目を反らした。
気まずくなったので在ろうか、まぁ、今までほぼ会話をしていないからな。
ここで俺は会話を切り出す。
「言わない様にしてたんだが………あんたさ。一度も俺と会話なんかしてねぇのに、どうして俺なんかに声を掛けたんだ?別に理由は分かってるんだけど………さ」
俺がそう言うと、何故か彼女の顔は晴れ渡る様な清々しい笑顔に包まれた。おいおい、今の反応はガッカリした反応じゃ無いのか?
「本当ですか………!?いやぁ流石学校屈指の「異端者」中の「異端者」!!話が早いって事は素晴らしいことですねぇ!」
「いやいや、俺に話し掛けた理由って、ただ俺の事が………、その………好きだからじゃ無いの――――」
「へ………!?いや、勝手にそんな口実を付けては困ります!!飛んだナルシストさんですね!!」
………。
「えぇっと、話は変わるけど、あんたって何処の組………?」
「何を言ってるんですか、ユーモアにも豊んでいるなんてやはりぱーふぇくとな生徒さんなんですね。同じクラスですよ?流石ぱーふぇくと!!」
いやぱーふぇくと煩い。
同じクラスだって?有り得ない。見た事も無い。
いや、もしかすると彼女は何らかの理由で学校を休み、何らかの理由で俺に話し掛けようとした。
要するに、意味分からん。
「えぇ………。んじゃ、俺を呼んだ理由って………?」
「それは、貴方と「決闘」を申し込む事です」
この世界に置ける「決闘」とは、固有能力を持つ生徒が互いに決闘を申し込み、条件が互いに了承した場合にのみ与えられる特権だ。
その特権を持つ生徒にはタイムリミット迄、街に大量に設置されている主な決闘スペースに置いて決闘をする事ができる、が……。
「何だよ……、俺と決闘するだけに俺を呼び出したのか?」
「何言ってるんですか。貴方が居なければ決闘なんて出来ませんよ?」
この娘、厄介過ぎるな。
かったりぃし、暇だし負けるだけ負けて向こうに調子を乗らせるのが手だと考えた。
「………分かったよ。だけど、あんた負けて泣いても知らねぇぞ?」
わざとらしいハッタリを突いたつもりだったんだが、どうやら受け取られて嬉しかった様だ。
「分かりました。では、早速決闘場まで移動しましょう。あと、次[あんた]って呼び方したら決闘の前に消し去ります」
「冗談キツいぜ。んじゃ何て呼べば良いんだよ………?」
そもそも初対面だし、同じクラスだってことは分かったが、顔を合わせていないしな。
名前を聞くべきだろうが、やはりこういう女子に話し掛けるってのは慣れない。
「流石抜かり無いユーモアセンスです!!同じクラスの人が同じクラスの人の名前を覚えていないなんて在る筈が無いじゃないですか!!」
もうどうでもいいや。
*
着いた場所は脇道を何本も入った場所に在る小高い丘の上。
決闘場での損傷等は直ぐに街に張り巡らされている修復くん2号が治しに来てくれる優れものだ。
「ほら、来いよ。そのアンタの能力。見せて貰うぜ………?」
妙に真剣さを出して俺はそう言った。
まぁ、能力なんて使う気は無いんだけど。
俺がそう言った時だった。
辺りが急に高温になったと思うと、もう既に俺の体の節々から火傷の様な痛みが走る。
「だから、貴方、[あんた]って呼ぶなって言ってるでしょ………?」
え?もしかしてお怒りですか………!?
いやいやいや、たかがそんな呼び方位で………、マジで?
壮大過ぎるスケールで張り巡らされた熱風は俺の体に突き刺さる。
その彼女の怒気を纏った声量はこんな小高い丘でも、頂上から麓まで届く様な声量に聞こえたのは何故だろうか。
汗が止まらない。これは熱さによる汗じゃない。こりゃ………
恐怖による冷や汗だ。
「ちょ………ちょっと待てよ………!!」
「貴方が掛かってこいよと言ってきたので、全力で答えましょうと思いましてね」
全力のスケールが違い過ぎる!!!!
何だこりゃ!?こんな能力者なんてこの底辺学校に居たのか………!?
足がすくみガタガタ震える。
心臓が高鳴り汗が止まらない。
何だ。
何なんだ。
最早これは同じ人間に対する持つ感情じゃねぇ。
こりゃ自分よりも超常的な化け物に対する感情だ。
「能力適正値学校屈指なのに呆れますね。これが今までこの学校のエースだったなんて………ねぇ?」
「………」
「紹介が遅れました。私の名前は「永劫に揺らぐ深焔」又の名を………」
それは世界を揺るがすにも丁度良かった。
この公園中にも響き渡る。
俺の耳の中に永遠と木霊する。
そうして忘れることのできない永遠の鎖をひしがれた様に。
運命でさえも捻れるその言動は俺の過去に感じた恐怖よりも遥かに凌駕する言葉。
その名前は永遠に生き続ける。
「皇 連花。緋を具現し理を燃え溶かす者。とでも言っておきましょうかね。」
はい、三話です。メインヒロイン登場回です。結構日が空きましたが、また直ぐにでも投稿致しますので、またその時に。