帰路 三
第五艦隊は必死の抵抗を行った。駆逐艦に対して射撃を集中させ接近されないよう牽制した。反乱軍の砲撃は雷撃隊への流れ弾の危険性があるため、弱まっていた。対艦榴弾では艦隊を離れ高速で進む駆逐艦には炸裂するタイミングが間に合わず、頼みの綱は対空砲のみとなっていた。
反乱軍の駆逐艦は攻撃艇が搭載する魚雷よりはるかに強力なロケットモーターで高速に進む射程の長いものを積んでいる。当然炸薬量も多く命中すればたとえ戦艦でもひとたまりもない。
第五艦隊の奮闘もむなしく反乱軍の駆逐艦は弾幕をかいくぐり最初にアリアンに対して魚雷を発射した。戦闘艇を超えるサイズの魚雷が第五艦隊に襲いかかろうとしている。
『左舷上方、下方より魚雷接近!数
は五です!』
二方向から進んでくる魚雷を回避するのは至難の技である。
「上げ舵二〇!面舵いっぱい!」
マクシム大佐の号令で艦は右斜め上方に回避行動をとった。発射された五発の魚雷は艦の上と下を抜けていったが、一発の魚雷が艦首に命中した。艦首が吹き飛び、飛び散った船体の破片が艦橋にも飛んで来た。破片が艦橋に衝突した衝撃が床を通してマクシム大佐の足にも伝わった。
『空気漏れ発生!被害区画閉鎖します!』
命中した魚雷の被害は空気が排出されていない区画にまで及び、何人もの乗員が外へ放り出された。艦首は跡形もなくなっており、無残にも艦内をさらけ出している。それでもアリアンはまだ航行を続けることができた。
『対空砲火!魚雷の迎撃を最優先にしろ!』
戦闘指揮所の砲術長が叫ぶ。反乱軍の駆逐艦は再び魚雷を発射し、ポレオットに命中した。左舷中央、艦尾に被雷したポレオットは機関が完全に停止。更に弾薬庫に引火、爆発を起こし船体は中央から真っ二つに裂けた。
『ポレオット撃沈!』
「火星人どもが・・!」
チェルノフ艦隊司令はもはや反乱軍に対する怒りを隠そうとしなかった。
第五艦隊は雷撃に対して回避行動を行ったために本来の航路から大きく外れ、敵艦隊を引きつけようというチェルノフ艦隊司令の思惑通り反乱軍の雷撃隊もそれを追った。
駆逐艦は肉眼で確認できるほどの距離まで接近してきている。
「ここまで接近するとは舐められたものだな・・・。マクシム艦長、通信士に司令部へ打電させろ。〝敵艦隊追撃回避できず 残存空母駆逐艦を除き第五艦隊帰投を断念す〟だ」
弾幕もまばらになった第五艦隊に反乱軍の雷撃隊は魚雷を向けながら更に接近した。
「我々を捉える気か」
反乱軍は生き残った戦艦と巡洋艦を拿捕するつもりなのである。
しばらく地球も月も拝むことはできなくなりそうだとマクシム大佐も諦めかけていた時だった。
「か、艦長!敵駆逐艦撃沈!」
「何だと!?」
副長の報告にマクシム大佐もチェルノフ艦隊司令も驚愕した。マクシム大佐は双眼鏡で敵駆逐艦を見た。
それはなんとも言えない奇怪な光景だった。反乱軍の雷撃隊の内一隻は既に大破し、他の駆逐艦を見ると船体がに赤熱化し溶けはじめているように見えた。
「航海長!レーダーは!」
『敵艦隊と我々以外捉えていません!』
反乱軍の駆逐艦は次々と爆沈し雷撃隊は全滅した。何が起きているのか誰一人理解するものはいなかった。
「全艦機関の出力を限界まであげろ!すぐにこの宙域から離脱する!」
チェルノフ艦隊司令の判断は早かった。傷だらけの第五艦隊は最後の力を振り絞り、月へ向けて加速した。その際第五艦隊の巡洋艦リュウセイも突如赤熱化し爆沈した。
反乱軍の艦隊も異変に気付いたらしく第五艦隊から離れ始めていた。反乱軍の駆逐艦が沈んだ原因もわからないまま第五艦隊は宙域を離脱し、別働の空母と駆逐艦に合流するための針路をとった。