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花と思い出話

勉強室まではいつも通り、誰ともすれ違わなかった。ペンネの先導のおかげだろう。


昨日と同じく、私はペンネに魔力を渡し、副会長はそれを、陣を展開して調べてる。昨日と陣や、呪文が若干違うので、別の方向からアプローチしてるのかもしれない。


魔力を渡してるだけの私は手持無沙汰なので、書記の人からもらった灰色の花をくるくるとまわしながら、先ほどのことを考え続ける。


書記の人と別れた後、名字呼びに戻っていた。

やっぱりペンネを通して、話を聞いていたのだと思う。でも名字呼びに戻ったということは、副会長に嫌がらせ的な意味はなかったのかもしれない。

だったら何故あの場だけ名前で呼ばれたのだろう…。


あ、もしかして!


私は書記の人に「親しい人以外に呼ばれたくない。」と言った。逆にいえば、私を名前呼びする人は一定以上親しいということだ。

ペンネが私を見つけたのは、委員の人と別れた後で、書記の人と二人きりだった。


つまり副会長は、私が書記の人に助けてもらったことを知らない。しかも私は、さっさと逃げるための言葉を探して困っていた。

副会長がその場面から私達を見たら、書記の人が私を勝手に入ってきた一般生徒だと思い、問い詰めてるように見えるんじゃないかな…?

おまけにペンネが来た時の会話は、私が生徒会に用事があったことを、書記の人が信じてなかったところだったし。

ということは…助けに来てくれた…?

名前呼びしたのは、自分の親しい人だと証明するためだったのかな?だとしたらつじつまが合う。

書記の人なら、副会長が私のことを口止めするのも簡単そうだし。


たぶん、そういうことだね。

すっきりしてよかった!


自分の中での結論を出したてすっきりしたので、もらった花をくるくる弄る。

さっきまでそれどころじゃなかったから放置していたけれど、この花すごいなぁ…。

くるくると蔦が茎に絡まって、複雑で美しい模様のようだ。

肉厚な花弁は灰色で、一見枯れたように見える色なのに、花弁からほろほろと零れるように、琥珀色の光を湛えて瑞々しく咲いている。

うぬぼれじゃないなら私をイメージしたってことだよね…。だって私の髪と同じ色の花弁と、私の瞳と同じ色の光だ。まさかペンネにじゃないよね?

うわぁ、気障だなぁ…。

でも、これはちょっと、ときめいてしまう。

ちょっとした手品みたいな気軽さでくれたけれど、これさりげなくすごい魔法だと思う。

このお手本があっても、同じものを一瞬で作れと言われたら私は出来ないと思う。

想像力と、それを具象化する力、とりわけ必要なのが定着させる力だ。

自分の手の中で魔法で幻を見せるのはそんなに難しいことじゃない。でも魔法で作ったものを触れるように実体を与え、自分の手を離れてもその状態を維持することはとても難しい。

自分の魔力で実体を固定し、込めた魔力に応じてそれを維持させ続ける。使い魔を創ったり操ったりとはまた違った技能が求められる。

さすが生徒会の人だ。

私が書記の人と離れて20分以上経つが、まだ美しいままだ。魔力の光が零れていく姿すら美しい。たぶんこの光がなくなったら消えてしまうのだろう。


消えるまではこのときめきを堪能しよう、とにやにや花を見つめていたら、副会長が私をじっと見ていた。

いつの間にやらペンネの調査は終わっていたらしい。


「……えっと、ペンネへの供給はまだ続けてた方がいいでしょうか…?」

「…あぁ、続けてくれ。」


……。

…………。

めっちゃ見られてる。

無言で睨みつけるかのごとく見られてる…。

仕方ないので名残惜しいが、花を副会長の方に差し出す。


「…どういう意味だ?」

「……見られている気がしたので…これを調べたいのかと思って…。」


そうであってほしい。この花にさりげなく使用されてる、高度な魔法技能をじっくり見たいがゆえにこっちを睨んでいたのだと。

私のそんな希望は、副会長にざっくり否定された。


「…花には興味はない。そんな花ぐらい簡単に作れる。」


軽くおっしゃった。

じゃあやって見せて下さい、とか言えるわけがない。


「ペンネがお前の魔力を受け取れる謎について考えていた。」


なるほど。また私の魔力でも確認していたのかもしれない。


「何かわかったんですか?」

「………。」


どうしたんですか? そこで無言にならないでください。超、怖いです。

副会長が、やや身をこちらに乗り出すようにして、真剣な目で口を開いた。


「…お前は…。ペンネをどう思っている?」

「え?えっと…可愛くて紳士的な、副会長の使い魔です。」


素直な感想を言ってみた。


「そうではなくて。……もっと本質的な部分で、ペンネは俺にとってどういう存在だと認識している…?」


質問の意味が、わからなくなってきた。


「本質的…?えっと、ペンネは…副会長が創った、副会長の魔力を共有している、諜報目的の使い魔…です。」


考えて、言葉を選びながら、自分の認識を伝えてみる。

副会長はまだ黙って私を見つめている。真意を探るような副会長の目に、身体が竦んで緊張してしまっている。たぶん、ここでそらしてはいけない気がして、ひたすら刺すような薄金の瞳を見つめ続けた。

副会長はふぅっと息を吐いて視線を外したが、安堵したというよりは、求めていた答えと違って残念、といったところだろうか。

副会長が急に話題を切り替えた。


「……そういえばお前、以前に俺のネーミングセンスを笑っていたな。」

「…いえ、とても愛らしい名前だと思います。……あのときはすみませんでした。」


唐突に始まった話に一瞬何のことかわからなかったが、ペンネの名前の話だ。実は根に持ってますね。


「実はペンネの名付け親は俺ではない。」

「え?そうなんですか?」


衝撃の事実だ。それは笑ってしまって申し訳なかったな…。

では副会長の使い魔にペンネと名付けた勇者は誰だろう。


「子供のころ、公園で一緒に遊んだ少女が俺につけたあだ名だ。」

「…副会長のどこをどう取ればペンネになるのかわかりませんが…。」

「ちなみに、他の候補はお餅かグラタンだった…。」

「人のあだ名なのに全部食べ物ですね…。」


女の子はお腹がすいてたんだろうか…?副会長に食べ物のあだ名をつけて、どうする気だったんだ。


「…ペンネになってよかったですね。そのあだ名をペンネにあげたんですね。」


使い魔の名前にするぐらいだ。

大切な思い出なのだろう。もしかしたら初恋だったりするのかもしれない。

子供のころか…。そんな可愛い時代が、副会長にもあったんだ…。はっきり言ってまったく想像できない。


「可愛くて微笑ましい思い出ですね。」

「…そうかもな。まぁ顔も名前もわからない相手なんだがな…。」

「一緒に遊んでたんじゃないんですか?」

「一週間もなかったし、ほんの数十分ほどの時間だった。すぐに相手が引っ越してしまってそれ以来だ。」

「…それはちょっとさびしいお別れですね。」


なんだかせつない終わり方をしたらしい。


「いつかその女の子と再会できるといいですね。もしかしたら、この学園にいるかもしれませんし。」


そしたらまるで物語のようじゃないか!副会長は文句なくかっこいいんだし、相手の女の子もびっくりすることだろう。

そういうベタな展開も嫌いじゃない。野次馬根性でそっと見守りたいね。


副会長の意外な過去の思い出話を聞いたところで、今日は解散になった。

副会長は最後まで、何か私を探るような様子だった。


書記の人からもらった灰色の花は副会長の思い出話を聞いてる間に消えてしまった。

消える最後まで綺麗な燐光を放っていた。



今日は終始、副会長の様子がおかしかったように感じた。

なんだったんだろう…?




そして翌日、副会長は学園を欠席した。

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