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僕と灰色の女の子

ペンネ視点です。

もしかしたらペンネへの印象が変わってしまうかもしれないのでご注意ください。

生まれて初めて見たものは、ご主人だった。

ご主人はがりがりの小さなパジャマ少年で、ご主人の年齢にしてはやたらと小さくて細い腕で僕を抱きあげて、しげしげと眺めた。


「出来た……っ!猫だっ!僕の使い魔だ……!!」


感動に震えたような声とキラキラした瞳で、僕の誕生を心から喜んだ。

それがなんだかくすぐったくて、にゃおんと鳴いたら、さらに声を上げて喜んだ。

そしてご主人は僕を床におろして、しばらく僕がご主人の部屋を匂いを嗅いでうろうろしているのを、楽しそうに眺めながら後ろをついてまわっていたのだが、途中で急にぜいぜいと苦しそうな咳をし始めた。ご主人は咳をしながらのろのろと引きずるような足取りで、ほとんど倒れ込むようにベッドにもぐりこんだ。

僕はご主人の突然の不調にびっくりして、にゃおんと鳴いてご主人のベッドに飛び乗って様子をうかがった。

ぺろりと頬を舐めると、ご主人が苦しそうな息をしながら僕をひと撫でして命令した。


「僕の目と耳となって、世界を見せて。」


その瞬間、ご主人と感覚が繋がったのがわかった。ご主人はそのまま眠ってしまった。


ご主人に 世界を見せるのが 僕の役割


僕は開いていた窓からひらりと身を躍らせた。

屋根や塀を伝って周囲を散策する。

目的もなくあちこちを見て、面白そうな風景を瞳に映した。


人が全く入っていない駄菓子屋、存在のよくわからない信号機、なんとなく目にとまった赤いポストなどとにかく色んなものを見て回った。

すると頭の中でご主人の声がした。


―――公園、公園に行ってみたい!―――


ご主人は公園に行きたいらしい。

知識としては知っている。ご主人が持っている知識や記憶を、僕も共有してるようだ。

公園、公園とうろうろと移動していると、子供達の声が聞こえた。


公園は子供が遊ぶ場所だから、子供の声のする方にきっとある!


声を頼りに進んでいくと、大きな公園の入口が見えた。


あった、公園!


嬉しくなって駆けだした。

だがもう後一息で公園というところで、僕はぐらりと意識がぶれそうになった。


体が……分解されてしまいそうだ……。


僕は意識と体の構築を維持するのに精一杯になった。こんなところで倒れてはいけない!足をじりじりと動かして前に進んだ。

けれど……数歩歩いたところでぐらりと世界が傾いて、僕は地面に倒れ込んだ。

構築された魔力が、ほろほろと零れていきそうだ。網目からすり抜けていきそうな魔力を必死で体にとどめる。


―――猫、ねこっ!!しっかりして!どうしたの?ねこ―――


あぁ、ご主人が心配している。

泣いている。


誰か、…………誰か助けて……ご主人が泣いているんだ。


消えても別にいいんだけど、僕が消えると泣いてしまうんだ……。


もう瞼を開けていることもできなくて、ゆっくりと視界が暗闇に閉ざされた。


せっかく喜んでくれたんだ。なのに僕が消えたら、さみしがり屋のご主人はきっと泣いてしまうから。


だから 誰か……僕を助けて…………。



「…――――ちゃん、猫ちゃん?どうしたの?怪我したの?」



空から降ってきた声音が、僕にとっての運命の出会いだった。


女の子の声は僕を抱えて走りまわった。

そしてしばらくしたら、体を弄られている感覚がした。

ご主人以外に体を弄られるのは酷く不快な感じがしたけれど、不快感と引き換えに僕の体は落ち着きを取り戻した。

ようやく体が安定した頃に女の子の魔力を注がれた。一緒に微妙な歌を聞かされたけれど、苦しそうに意識を失っているご主人が、なんだかその歌声に安堵したみたいだったから、黙って女の子の膝の上でまるくなっていた。



その後、僕は女の子に泣きながら公園に戻された。なぜか段ボールに入れられて、何度も謝られたけれど、僕としては体を安定させてくれた上に目的の公園に連れて来てくれたので、女の子にとても感謝している。


ありがとう、微妙な歌を歌う灰色の女の子。

ご主人は時々意識が途切れていたようだけど、僕はこの恩と君の魔力を、一生忘れないよ。




そして数年が経った。


生まれたときはまっ白な子猫だった僕だけれど、ご主人がどうせなら強い方がいい!と言って、テレビでたまたま見たらしいユキヒョウという動物に造り変えた。でも子供だ。大人にはしてくれないらしい。

子供のころは「僕よりおっきかったら抱っこ出来ない。」とか言ってたくせに、大きくなったらなったで「その姿の方が偵察に向いてるから、大きくなる必要はないだろ?」と取り合ってくれなかった。

僕より後に造られた他の使い魔達は大きいから、僕も大きくなりたいのに……。使い魔として僕が一番お兄さんなのに、僕が一番小柄なんだ…………。

でも不貞腐れていると「お前が大きくなったら気軽に召喚し続けられないだろ。」と言われた。

たしかに今のサイズだからマンションをうろうろ出来るし、常に召喚し続けてもらえるんだ。

それに大きくなったらご主人と一緒に寝ることが出来ないや。

じゃあ仕方ないと思うことにした。




そして今日も悠々と学園の敷地を散歩しながら、僕には最近悩みがあった。


ご主人の魔力の器と魔力を生み出す力が、僕が消費できる限界を徐々に超え出したのだ。

ご主人の技術の粋を集めてひたすら魔力を消費し続けることだけに特化した僕が、段々ご主人の生み出す魔力に負けてきている。

このままでは近いうちに、ご主人が魔力飽和を解消する手段がなくなってしまう。


あの恩人の女の子がいればいいのに……。


あの女の子の魔力に染まった僕は、ご主人の魔力だけでは本調子になれなくなった。

それでも今までは、僕の消費出力がご主人の魔力量より遥かに上だったから問題なかったけれど、このままだとだめだ。なんとかして女の子の魔力を手に入れて本調子にならないと、魔力消費が追い付かない。


僕が木の上で寝ころびながら思案している時だった。


たまたま、灰色の髪の女の子が歩いてきた。

ちょうど恩人の女の子のことを考えていた時だったから、びっくりした。

こそこそと様子をうかがうと、女の子はちょうど帰宅途中にこの場所を通ったらしい。

灰色の髪も、琥珀色の瞳も、明るい表情もあの時の恩人の女の子がそのまま成長したかのようだった。


きっとあの恩人の女の子だ!


僕はすぐに木から身を躍らせて、わざと悲鳴を上げて着地を失敗させた。


「みぎゃぉっ!」


僕の悲鳴に、灰色の髪の女の子がびくりと肩をすくませて僕の元に駆け寄ってきた。


「猫ちゃん、猫ちゃん?どうしたの!?怪我したの?」


あの時とほとんど変わらない声音。

慌てて僕に駆け寄ってきた。

おろおろと考えた後、治癒の魔法をかけてくれた。

魔力の通りが良すぎる。本来他人の使い魔に、ここまで魔力が綺麗に通ることなんてありえないんだ。

それに不快な感じがしない。恩人の女の子の魔力は、すでに半分僕に混ざり合っているからご主人の魔力と同じぐらい僕の一部なんだ。

そしてついでにと魔力まで渡してくれた。どうやら使い魔について詳しくないらしい。普通使い魔を持っている人は、他人の使い魔に魔力なんて渡さないんだ。


やっぱり、あの時の恩人の女の子だ!!


怪我を治癒した恩人の女の子は、この子だ!なんてすごい偶然なんだ!!

この子は僕の運命なのかもしれない。

いつだって僕を助けてくれる女の子なんだ!


恩人の女の子をご主人に合わせよう!


きっと子の女の子が、ご主人のことも助けてくれるに違いない。

ご主人はさびしがり屋なんだ。いつも心のどこかが寂しそうだから。

僕のことを助けてくれた恩人の女の子なら、きっとご主人も好きになるにきまってる。

だって僕はご主人の人格を元に造られたんだ。

僕が恩人の女の子を気に入ってるってことは、きっとご主人も気に入るってことだよね。

僕は子供の時のご主人がベースだから、今のご主人とはちょっと違うんだけど、まぁ似たようなものだよね。


恩人の女の子が魔力を渡し終えたので、僕はごろごろと喉を鳴らして女の子にすり寄った。

恩人の女の子はにこやかに笑って僕を撫でてくれた。


「じゃあね、猫ちゃん。今度からは気をつけるんだよ。」


笑って手を振ってくれたのににゃおんと鳴いて、僕もくるりと踵を返した。


生徒会館に向かい、ご主人を探した。

ご主人は生徒会室にいた。


「あぁ、ペンネか。ちょうどよかった。今から帰るぞ。」


ご主人は僕に声をかけた。

僕は足元でにゃおんと鳴いて、ご主人に記憶をみて!と言った。

ご主人は膝を折って屈んで、僕の額に手を置いた。


「……っ!お前怪我したのか!?」


ご主人は僕を抱きあげてあちこち確認して傷がないかを確認した。こしょこしょと体を撫でまわされるのがくすぐったい。


「怪我はその灰色の髪の女子が治したんだな。……妙だな……なんでお前に魔力を通せたんだ?気になるな。少し調べてみるか……。」


ご主人はぶつぶつと考えをつぶやいている。

いつまでも抱っこされたままは嫌なので、にゃおんと鳴いて抗議した。ご主人はあぁ、とようやく気付いて降ろしてくれた。

ご主人はきっとすぐ恩人の女の子を見つけるだろう。

今回はちゃんと僕の目を通して姿だって見てるんだから。

昔の時はご主人は意識を失ってたから覚えてないし、なぜかその後、遊んだ女の子を恩人だと勘違いしているようだけれど、あの女の子はぼくにとってはただの遊び相手で、僕にとっての恩人はあの灰色の髪の女の子なんだ。

僕がきちんとご主人と会話できたら訂正してあげられるんだけれど、僕とご主人は感情を繋げてるだけなのでニュアンスを伝えることくらいしかできない。

それでもきちんと僕の意思が伝わっているのは、単純にご主人が僕の表情から言いたいことを考えてくれているにすぎない。

まぁいいや。

ご主人は僕の恩人に興味を持ってくれた。あとはご主人に任せよう。

僕も灰色だし、僕の恩人も灰色だ。きっとご主人は灰色に縁があるに違いない。僕はご主人がどうするのか、わくわくとした。



そしてそれから僕は長い長い時間、ご主人と恩人の女の子の様子をずっとそばで見守ることになるんだ。






僕の恩人。灰色の髪の女の子、みにゃ……にゃ、……みやこ。


僕はみやこが大好きだ。

みやこは柔らかいし膝枕が気持ちいいんだ。みやこも僕のことを大好きだし、僕が構ってほしい時だけ遊んでくれるし、魔力をもらえば調子が良くなる。

みやこは灰色の髪をあまり気に入ってないけれど、僕はなかなかお気に入りだ。僕の色でもある灰色は、ご主人とみやこが僕を造った証だから。

あと使い魔達の間では、忠実に本物の動物を模すご主人が唯一、本物のユキヒョウと違うオリジナル要素を加えた特別カラーな僕は、特別扱いされていて羨ましがられてるんだ。

僕はみやこにしきれないほどの感謝がある。


だってみやこは、僕がご主人を泣かせないで済んだ恩人だから。

ご主人に喜びと愛情をくれた人だから。ご主人のことをとっても大好きだから。


みやこは僕の運命の人だから。


みやこのことを考えていたら、みやこに構ってほしくなったので甘えに行こう。

みやこは笑顔で僕を膝枕してくれる。

僕はみやこに向かってにゃおんと鳴いた。



僕の運命の、灰色の髪の女の子。

大好きだよ、みやこ!


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