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勉強会と穏やかな時間

副会長の弟君と出会ってから数日。

特に何もない穏やかな日々を過ごしていた。途中でテスト週間があったので、副会長にまた勉強を見てもらった。

久しぶりに勉強室での時間がやってきた。


「あの、以前はペンネに魔力を渡すついでって感じで見てもらいましたが、今回は私が教えてもらいっぱなしになっちゃいますけど、いいんですか?」

「気にするな。勉強を見るのは俺がお前と一緒にいたい口実だ。それに気になるなら、またペンネに魔力を少し与えてくれればいい。」


優しくそう言ってくれた副会長の言葉が嬉しくて、ドキドキして勉強を疎かにしないようにしようと小さく自分に活を入れた。

そんなやりとりがありながら、勉強室で二人で真面目に勉強をした。

以前と変わらず、私は自力で問題を解く。副会長は以前のように間違っている部分だけを指摘し、私はそれを自力で、たまにヒントをもらいつつ解いていく。

副会長はその合間に自分の勉強をしていた。ペンネは私の膝に頭を乗せて寝ころんでいる。

カリカリとシャーペンを走らせる音、ページをめくる音、開けっ放しにしている窓からそよそよと心地よい風が時々運ばれてきて、穏やかで静かな空間だった。

私は隣にいる副会長を時々意識しながらも、リラックスしながら問題に向きあい集中している自分がいることに、少し不思議な気分がして面白かった。

くすりと笑うと、副会長が問いかけてきた。


「どうしたんだ?」

「いえ……以前勉強を見てもらった時が、段々副会長と親しく話せるようになった時期だったなぁと思ったんです。今思えば、ほとんど副会長が私の緊張をほぐす為に、話題を合わせてくれたりしたおかげだったんですね。」

「そういえば……そんな時もあったなぁ。昔みたいに感じるが、そんなに前の話じゃないんだったな、そういえば。」

「ちょっと懐かしいですね。」


私が笑うと、副会長もあの時を懐かしむように笑った。


「そういえば……ちょうどあの時だったか。お前に眼鏡の悪戯をしかけたのは……。」


副会長が思い出したのか、くつくつと笑いだした。

私も思い出して真っ赤になって反論した。


「あ、あれは!!……私も調子に乗りましたけど、騙す副会長が悪いんですよぅ……。」


むっとした表情を作ると、ごめんごめんと笑って返された。


「でも眼鏡目当てとはいえ、初めてお前から俺に興味持って歩み寄ってきた出来事だったからな。今考えると少し嬉しい出来事だな。お前それまでは俺にわりと緊張して、借りてきた猫みたいだったしな。」

「え?なんかそう言われると、眼鏡に興味を持っていた欲望まみれの私がいたたまれなくなるんですけど……。」


そんな切ないポジティブを発揮されると、眼鏡につられた自分の浅ましさが申し訳ない。

過去の自分の行動は変わらないけれど、とりあえず今はそんなことないってことだけはちゃんと伝えておかなければならない。

でも少し照れくさいので、恥ずかしさを紛らわすように、私は副会長の肩に頭をこてんとぶつけた。


「美耶子?」

「あの……今は違いますからね?」


副会長の服の裾をぎゅっと握ってつぶやいた。


「今は斎先輩が私の一番ですよ。」


私からは副会長の表情はわからないけれど、副会長は私の頭にこてんと自分の頭を乗せた。


「俺も美耶子が一番だ。」


柔らかい声音に表情が見えなくても副会長が笑っているのがわかった。


「ところで美耶子。俺としてはもう少しこうやって休憩したいんだが、一応勉強をみる約束だからな……。」


私のノートを覗き込んだ副会長が、指を差してひとつの文章をとんとんと叩いた。


「ここの英文間違ってるぞ。」

「え?あれ……。」


私は副会長にもたれていた頭を起こして、副会長が指摘した英文を確認する。副会長は頑張れ、と笑い自分の勉強を再開した。

私はまた英文とにらめっこし、副会長は私を時々横目で確認しながら私のミスを指摘し、自分のテスト勉強をしている。しばらくして少しおしゃべりしながら休憩をとって、また次の問題に取り組んだ。

そんなやりとりを繰り返しながら、静かな勉強時間を過ごした。






「そういえば、斎先輩。今回のテストは魔具リングについてはどうするんですか?」


ある日の勉強会で、私は休憩の間に気になっていたことを尋ねてみた。

私の質問に、副会長は冷静に答えた。


「前回のように不意打ちじゃないから対策はとれる。学校に到着するまでの時間を使って、可能な限り魔力を消費してから登校すればいいだけの話だ。」

「大丈夫……ですか?」


不安から尋ねると、私をなだめるように優しく笑って、副会長は言った。


「大丈夫だ。今回はテストも五日間じゃなくて三日間で終わるからな。」

「私に出来ることはありますか?前みたいにペンネに魔力を渡すのを手伝ったりした方がいいですか?」

「いや、万が一美耶子が魔力酔いにでもなったら困るから手伝わなくてもいい。美耶子は美耶子で自分のテストに集中してくれ。俺のことは心配しなくても大丈夫だ。」


副会長がそういうのなら、私はテストに集中した方がいいのだろう……。

やはりそれでも少し心配で、私が微妙な顔で納得したのを感じたのだろう副会長は、くすくすと笑いながら「……じゃあ、ひとつだけ協力してくれないか?」と問いかけてきた。

私はぱっと顔をあげて副会長を見た。


「はい!私に出来ることなら何でも言って下さい!」


意気込んで言うと、副会長ににっこりと要求された。


「抱きしめてくれ。嫌なら逃げていいぞ?」

「りょ、了解です…!」

「え……?」


私は立ち上がり、座ったままなぜだかびっくりしている表情の副会長をそのまま抱きしめようと腕を広げて、頭を包み込むように手をまわした。


「待て待て……おい!ちょっと待て、美耶子!!」

「ひゃわぁっ!!」


慌てた副会長が目の前の私の腰を掴んで引きはがそうとしたのだが、びっくりしてこそばくて奇声をあげてしまった。やめて、脇腹くすぐったいんです。

副会長は私の脇腹を掴んで動けないように固定したまま、ため息を吐いた。こ、こしょばい……。

呼吸をとめたままの私に気づくことなく、副会長はうなだれたまま文句を言った。


「嫌だと言うと思って言ったのに、まさか本気でやろうとするとは思わなかった。というか、なぜ立った。」

「……っ斎先輩。手を放してください。く、くすぐった……ぃ。」

「……そういわれると、無性にくすぐりたくなるのはなんでだろうな?」

「っ……!真顔で真剣に言わないでくださいっ!!」


くすぐったさで真っ赤になった私が叫ぶと、副会長は悪い悪いと言いながら素直に手を放してくれた。

ほっとして体の力を抜くと、腕をぐいっとひっぱられて、そのまま副会長の腕の中にすっぽりと抱きとめられた。


「抱きしめさせてくれ。嫌なら逃げていいぞ。」


言葉とは裏腹に抱きしめる力は緩められなかった。そのことが妙に恥ずかしくて、私は小さくつぶやいた。


「逃げませんよ。」

「そうか、よかった。」


安心するように小さく笑った副会長の息が頭にかかってくすぐったくて、私も笑った。


「この協力にはどんな意味があるんですか?」

「テスト三日間は気を張り続けなくてはならないし、美耶子にも会えないからな。充電だ。」

「……斎先輩、ドキドキします。」

「俺もしてるからお揃いだな。」

「絶対嘘です。」

「本当だ。」

「うそ。」

「ほんと。」


囁きあうように言い合いながら、休憩時間が終わるまで副会長に抱きしめられていた。

正直、副会長の腕の中にいた間よりも、休憩時間を終わりにしてあらためて勉強を再開した後の方が、なんとなく恥ずかしかった。







「……実はあの時、告白した方がよかったのかな……?」


テスト最終日、私は一人下校しながら考えていた。

勉強会の休憩中は穏やかで二人きりの時間がずっと続いていたが、テスト前週間の最中に告白とか、勉強を教わっているのにそれはないのでは?と思い自重していた。

副会長とはテスト週間前の最後の勉強会以来、会っていない。

テスト期間は各々、自分の勉強に集中するために会わなかったので、テストが返ってきたら、報告がてら副会長に会いに行こうと考えた。

昨日の夜電話で確認したら、懸念していた魔具はさほど問題にはならなかったようだ。熱も微熱程度で抑えられ、生徒会長と主席争いを出来るくらい、ちゃんと頭も働いたらしい。良かった。


「うん。テストも終わったし、今からなら何の懸念もなく告白出来るよね。」


結論を出して気合を入れ直し、駅に到着したので定期をとりだす準備をしながら歩いていると、改札のところでまさかの人物に出会った。


「星陵皐……君?」


弟君は、私を見つけると駆け寄って来て、丁寧に挨拶をした。


「はい。突然すみません。ちょっとお時間をいただいてもいいですか?」




ということで、二人でこの間会った公園にやってきた。ここからなら駅からもさほど離れていないし、人気がない。

二人でベンチに座る。……気まずい。

どうすればいいんだろう。とりあえず自己紹介とかした方がいいかな。

私は弟君にくるりと向き直って、努めて明るく話しかけた。


「えっと、改めてになっちゃうんだけれど、私は中原美耶子です。中原と呼んでください。よろしくね。」

「はい、じゃあ中原先輩と呼ばせてください。俺は星陵皐です。兄と紛らわしいので、皐と呼んでください。よろしくお願いします。」

「あ、うん、わかった。ありがとう。」


お互い座ったままぺこりと頭を下げてお辞儀した。なんだこれ?


「えっと、それで……皐君。私に用事って何かな?」


おそらく副会長関連なのだろうと察しはつくが、ほとんど初対面に等しい私に何の用事だろう。

弟君は私をじっと見つめた後、少しためらうような間をおいて、しっかりとした口調で私に告げた。


「はい、今日はお願いがあって来ました。……兄と別れて下さい。」


びっくりしすぎて固まってしまった。

付き合うどころか告白すらまだしていないのに、好きな人の弟君から別れてくれと言われてしまった。


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