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アピールと兄弟

「遅っ!今さら?まぁ、ようやく自覚したようでなによりじゃないの。おめでとう。」


お昼を由紀と一緒に食べながら、自分の気持ちを自覚したよと私が告げたときの由紀の言葉がこれだった。


「今さら!?あ、ありがとう……?まだ付き合ったりしたわけじゃないんだけど……。」

「え?なんでさっさと告白しないの。両想い確定してるんだから何も怖がることないじゃない?」


私はお箸の手をとめて、由紀の言葉に小さく唸るように言い訳した。


「だ、だって……なんか逆にタイミングがみつからなくて……。告白ってどんなタイミングでいつすればいいの?」

「私に聞かないでほしいんだけど。なんかいつもみたいにいちゃいちゃしている時にでも、さらっと言えばいいんじゃないの?」


一緒にいることは増えたけれど、今まで通り会話したりしているだけだから、由紀が言うような甘い空気なんてないんだけどなぁ。

相手の気持ちも知っていて、しかも両思いだなんていうものすごく贅沢な状況で、こんな悩みを持つなんてずうずうしいと思うけれど、告白するタイミングをください。

由紀が呆れたように呟いた。


「その自覚した魔会での時に、そのまま言ってしまえば一番簡単だったのに……。」

「うぅ、今なら私もそう思う。」


後悔しても、もう遅い。魔会は終わって日常が帰ってきた今、副会長とはいつも通りのやりとりしかしていないのだ。なんかこう、きっかけがあればいいのに……。

悩める私に、由紀が投げやりなアドバイスをくれた。


「とりあえず、副会長に好きですって行動なりなんなりアピールでもしてみれば?そしたら副会長の方から気付いて雰囲気作りしてくれるかもしれないよ。」


なるほど。好きでいてもらっているからって、好意に甘えてばかりいちゃだめだってことだ。自分で努力した上で、あわよくば副会長に協力してもらおうという前向きな作戦だ。

私はさっそく今日の放課後から、副会長へのアピール大作戦を決行することにした。






「弟?あぁ、たしかにその学校に通っているな。青い髪にオレンジの瞳だ。名前は星陵皐せいりょうさつき。お前が会ったその人物で間違いないだろうな。」


放課後、この間の休日のことを副会長に聞いてみたら、案の定あの美少年は副会長の弟だったようだ。


「じゃあ弟君が会いに来た知り合いって、斎先輩のことだったんですね。」

「いや……昨日は皐は家に来なかったから、もしかしたら学校の友達が近くに住んでるのかもしれないな。」

「そうだったんですか。頭よさそうで親切な弟君ですね。愛想のいい子でした。」


私が笑って言うと、副会長はからかうように返してきた。


「言っておくが、皐は裸眼だからな。あと、皐が眼鏡をかけても惚れるなよ。」

「惚れませんよ。だ、だって私には斎先輩がいるんですから…ね!」


言った後でじわじわと恥ずかしくなってきた。


「おい、美耶子。」

「ちょ、ちょっとこっち見ないでください……。」

「……赤面するぐらいなら言わなきゃいいのに。」


呆れた口調で言われてしまった。

だって、ちょっとでもアピールしようと思ったんですよ!恥ずかしい思いをしたわりには、普通に流されてしまったんだけど…………なんで?

気を取り直して次の作戦だ!


「い、斎先輩、斎先輩!」

「はいはい。」


私は斎先輩の前に、手の平を上に向けて差し出してみた。


「て、手っ!」

「はい。」


グーの形の手をぽんと乗せられた。


「ち、違う!お手じゃないです!あの……手を繋ぎたい、的な……。」


ぼそぼそと言うと、副会長にため息をつかれた。


「何を考えているのか知らないが……お前、意識して口説き文句言おうとすると全然駄目だな。びっくりするほどわざとらしいし。」

「え…え?そうなんですか!?ドキッとしないんですか!?」

「しない。」


なんてことだ。私のアピールは下手くそかつバレバレだったようだ。駄目だったよ親友……。


「なんだー……。」


アピールするのは諦めて、普通に手を繋いでみた。

副会長が繋いだ手を見て、私に質問した。


「ちなみにこれはなんで繋いでみた?」

「え?これは普通に、斎先輩と繋ぎたいなと思っただけなんですけど……だめでした?」


いつもは副会長が繋ごうと言ってくれるので、今日は私から繋ぎにいっただけなんだけれど……。

由紀だと私が無言で手を繋いだら、そのまま腕組みまで自然に持っていってくれる。なんてイケメン力の高い親友だ。

副会長は少し笑って、そのまま無言で恋人繋ぎに繋ぎ直してくれた。

照れくさくて嬉しくて、ちょっと繋いだ腕をぶんぶん振ってみた。


「ふへへー。」


嬉しくて繋いだ手を見ながらにこにこしていると、副会長が私をじっと見ていた。

……子供っぽい行動に呆れた?それとも笑い方が変な子だから引かれた?


「えっと……なんですか?」

「……お前変に頑張らない方がちゃんと口説けてるぞ。」

「え?あれ?」


どういうことだ。私の頑張りはなんだったんだろう。



途中で公園に寄り道して、自販機で買ってきた飲み物を飲みつつ休憩することにした。

私はミルクティー味の紅茶の缶を、副会長は缶コーヒーを購入して、公園のベンチに座ってまったりする。


「ところで美耶子はなんでいきなり俺を口説こうと思ったんだ?」


紅茶を拭きだすかと思った。


「え、えぇ!えっと、その……あの……。」


副会長は楽しそうににやにやしている。

副会長側の、ベンチにおいていた手に副会長の手がそっと重なった。


「い、斎先輩……あの、手……。」

「ん?またお手してほしいのか?」

「ち、違……えっと、私の手を、敷いてます、よ……?」


目を細めて私を見つめる副会長は、柔らかい声でからかうように言った。


「わざと、だよ。」


そう言って重ねた指を、ひとつひとつ繋ぐように絡めた。

私は真っ赤になりながら必死に考えた。

これはチャンスなのではないだろうか。

向こうの方でちびっ子が遊んでいるが、人気の少ない公園。副会長の質問、繋いだ手。この流れで告白してしまえばいいんじゃないだろうか。

こ、心の準備が出来てなかったけれど、この雰囲気ならいけるかもしれない!

ひねり出ろっ!私の中の勇気的な何か!!

私はごくりと唾を飲み込んで、がっちがちに緊張したまま震える声で副会長に告げた。


「あ、あの……斎先輩。」

「ん?」

「私、その……い、斎しぇんぱいのこ……――」

「あれ?兄さん。こんなところで何してるんですか?」

「……皐……?」


私の一世一代の告白は無情な声に遮られた。

……っていうか噛んだ。死にたい……。

完全に私情で声のした方を睨みつけると、白い学ランに身を包んだ青い髪の少年、副会長の弟君がいた。

弟君は副会長を睨みつけるようにして、きつい口調で言った。


「こんなところでなにしてるんですか。」

「どこで何しようと俺の勝手だろう。お前こそこんなところまで来てどうした。お前の学校の最寄り駅はこっち方面じゃないだろう?」

「兄さんを探してこんなところまできたに決まっているでしょう!」


弟君はつかつかと歩み寄って来て、鞄の中から封筒を差し出した。


「きちんと渡しましたから、ちゃんと目を通しておいてください。」


副会長は淡々とそれを受け取って鞄にしまった。


「毎度思うが、郵送してくれればちゃんと見る。わざわざお前が持ってくる必要はないぞ。」


副会長の言葉に、弟君は嫌そうに眉をしかめ、顔いっぱいに不満をあらわにしながら吐き捨てるように言った。


「俺だって彼女といちゃついてる兄のところになんて、足を運びたくありません。にやにやしている兄さんなんて信じられない!

そうやって浮ついてるから副会長どまり、主席もとったりとらなかったりしてるんですよ。俺は生徒会長で主席の座を守り続けています。兄さんとは違って、俺は家の期待を背負ってるんだからな!」


副会長はその言葉を静かに聞いて、「そうか。」とだけ呟いた。

そこで弟君はようやく私に目を向けたのだが、私の顔を見てしばらくフリーズした。

私も若干気まずい。


「えっと……この間の雨の時は、傘に入れてくれてありがとうね。」

「あ……あぁ、いえ。気にしないでください……。」


私の言葉に気まずそうに目をそらして取り繕った。


「用事がそれだけならもう行くぞ。美耶子、行こうか。」


副会長は私にだけ声音を柔らかくして、手を繋いだまま弟君に「じゃあな。」と声をかけて、すたすたと横を通り過ぎてしまった。

弟君も副会長を一瞥もすることもなく、そのまま遠くを睨みつけるように微動だにしなかった。

副会長と一緒に公園を出てきた私は、副会長になんと声をかけていいのかわからない。

さっき弟君の話をしたときは、副会長は普通に弟君について答えてくれたから、特に何もないのかと思っていたけれど、先ほどのやり取りからはものすごく確執があるように感じた。

公園を出てしばらく無言で歩き続けて、ぴたりと立ち止まった副会長が、私に背中を向けたままそっと呟いた。


「ごめんな。気まずかっただろ。」


背中からでは副会長の表情はうかがえない。声は淡々としていて、感情を読むことが出来ない。


「私は平気です。斎先輩は大丈夫ですか……?」


副会長は私の言葉にくるりと振り向いた。副会長は静かに、困った顔で笑っていた。


「わりと本気で平気だな。皐は俺にああやって突っかかってくるが、俺自身は皐に対して思うところがまるでない。どう接していいかわからずに、持てあましていると言うのが本音だな。」


副会長はなんでもなさそうに苦笑しながらそう言った。私は副会長になんて声をかけていいのか、わからなかった。

副会長は、空気を切り替えるように私に尋ねてきた。


「そういえば、公園で何を言おうとしてたんだ?」

「え?あ……あぁ、なんでしたっけ?忘れちゃいました。思い出したらまた言いますね。」


笑ってごまかしておいた。

この流れで告白は無理だ。というかどう考えてもそれどころじゃない。

その後一緒に駅まで向かい、改札で別れた。

電車の中で、先ほどの副会長と弟君とのやり取りを思い出していた。


「私の知ってる兄弟って、もっとお互いに遠慮のない感じがしたんだけどな……。」


どうしても、自分がよく知る従兄弟達と比べてしまう。

兄弟ってもっと気安くて、遠慮がなくて、罵倒し合っていたりしても、そこには信頼関係の様なものが当たり前にあるものなのだと思っていた。

副会長が父親と不仲なのは以前聞いていたけれど、弟とも確執があっただなんて……。

けれど、私が口出しするような問題じゃないし、してはいけないだろう。

私がどれほど考えたって解決するような問題ではないけれど、もやもやしてずっと悩んでしまった。

明日には気持ちを切り替えて、私は私にできる形で副会長に寄り添おう、と静かに決意した。


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