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雑談とときめき


翌日は由紀と一緒に登校し、副会長と会わなかったなと思っていると、午前中にメールが来ていた。

『お昼を一緒に食べたい。もしよかったら勉強室においで?』とあったので、せっかくだから行ってみることにした。副会長とお昼ご飯の組み合わせが今までろくなことがなかったので、ちょっと払拭しておきたいなと思ったのが本音だ。


お昼の時間になったので久々に別館の勉強室にやってくると、副会長は先に到着していたらしく、おいでおいでと手招きをしてくれたので隣に座った。


お弁当を食べながら、私が魔会の借り物に出場させられそうだと愚痴ると、副会長が楽しそうに笑って言った。


「お前もあの苦しみを一緒に味わうといい。あれは完全に晒し者だぞ。なら俺もお前の名前書いておこうかな…。衣装どうしようか……。」

「書かなくていいです!!……ちなみに斎先輩は去年何の衣装になったんですか?」


副会長が割と真剣に悩みだしたので、阻止するために質問した。

私の質問に副会長は、なんでもないことのようにさらりと答えた。


「執事。」

「そんなぁっ!?なぜ私は後一年早く生まれていなかったの!!」


机に額をガツンとやりそうな勢いで猛烈に後悔した。

去年魔会を見れたら執事な副会長が見れたのに……っ!!

つまり去年執事をしたということは、今年は執事の可能性が低いということだ。さてなんだろう……?


「副会長は何になると思いますか?」

「さぁな、本気で興味がないからな。やたらと無駄に凝った衣装を着せられるのはどの道同じだ。」


遠い目をしながら言っている。

ふと私に目を向けて質問してきた。


「ちなみにお前は俺の衣装はどんな希望を出すつもりなんだ?」


私はその質問にちょっと考え込みながら答えた。


「本当は執事って書こうと思ってたんですけど、去年してるんじゃ望みが薄そうですしね。白衣とかにしようかなぁ……。」


などと言っていると、副会長が急にそっぽを向いてくしゃみをした。

止まらなかったのかそのまま何度かくしゃみをしている。くしゃみというか…咳かな?いち、に、さん……。


「四回なので風邪ですね。」

「……なにが?」

「あれ、言いません?くしゃみひとつは良い噂、ふたつめは悪い噂、みっつめが誰かに惚れられてよっつめがただの風邪っていうやつ。」

「あぁ…くしゃみ、みっつが惚れられるってのだけは知ってるな。他の回数にもあったのか。」

「色々言い方とかバリエーションがあるみたいですけど、だいたい似たようなものみたいですね。それよりも大丈夫ですか?本当に風邪かもしれませんよ?」


私が言うと、副会長はちょっと鼻をすすりながら答える。


「引き始めかもな。魔力酔いと症状が似てるから分かりにくくて困る。咳が出たら風邪、出なかったら魔力酔いだな。」


ここ最近気温の変化がちょっと激しいから体調を崩したのかもしれない、と副会長は言った。

そういえば副会長は割と体調崩しやすいんだったっけ。


「斎先輩は結構体調崩しやすいんですよね。」

「元々病弱だったからな。今は健康体だが根本的な部分が丈夫じゃないのかもな……。」


そう答える副会長はちょっと眉を寄せていた。自分の体に軽いコンプレックスがあるのだろう。

私のほとんど風邪を引かない健康体をおすそ分け出来ればいいのに。この話題だと暗くなりそうなので、ちょっと反らすことにした。


「熱測る方法って言えば、中学の時に保険医に教えてもらったんですけど、おでことかより首の後ろの付け根あたりを触って熱かったら熱があるってわかる方法があるんですよ。」


言いながら私が自分の首の後ろに手をまわして実践すると、副会長もやってみようとしたのだが、きちんとボタンを留めてネクタイを締めている副会長は首の後ろに手を入れられない。

そこで副会長はネクタイに手を掛けシュルッと少し緩めてボタンを軽く外した。

その仕草に猛烈にテンションが上がってしまった。

そんな意図などなかったのに、副会長にネクタイシュルッをやってもらった!!伏し目がちで少し顎をクイッとしていた。片手でボタンを緩める姿もとても色っぽい。見えそうで見えない鎖骨に繋がる首筋のラインが素晴らしい。

相変わらず副会長は細やかな仕草がパーフェクトにときめく萌え男子ですね!ここに眼鏡さえあれば完璧なのにっ!!

私が口を手で押さえながら内心じたばた興奮していると、首の後ろに手をやって測ってみた副会長がうーんと言いながら答えた。


「自分の体温だからよくわからな…………美耶子、お前は何に大興奮してるんだ……?」


怪訝な顔でじとっと睨まれた。


「いえ……予期せぬ斎先輩のネクタイシュルッにちょっとときめいてました……。惜しむらくは斎先輩が眼鏡をしていなかったことですね。」

「お前の変態性はどんな時もぶれないな……。」


呆れたようにしみじみと言われてしまった。


「そんな!!斎先輩さりげなく私を変態と認識してたんですか!?」


ちょっとショックだ。


「私は普通の人よりちょっとだけ…仕草やら好みへのこだわりが強いだけですよ!ワインならソムリエとか、料理なら評論家や美食家とか、一定のものに強烈に妥協しない人種っているじゃないですか。私もそんな感じで眼鏡と鎖骨に並々ならぬこだわりを持っているだけですよ!ソムリエなんですよ、マイスターなんですよ!」

「眼鏡男子狂いの鎖骨フェチの変態だろ。」


私の熱弁をばっさりと要約された。酷い、せめてマニアって言ってほしい。

そして副会長は、悟りを開いたような慈愛のまなざしでフッと笑って優しく私に言った。


「大丈夫だ、美耶子。お前の多少変態的な部分も含めて丸ごと好きだからな?」

「う、嬉しくない!!そんな器の広さを発揮されても、びっくりするほどときめきませんからね!?」

「顔は赤いぞ?」

「ち、違います!これは照れてるとかときめいてるとかじゃありませんからね!お、怒ってるんですっ!」


私がさらに真っ赤になりながら反論すると、目を細めてにやにやと笑う副会長は私の言葉を繰り返した。


「そうかそうか、美耶子は怒ってるんだな。真っ赤になりながら……。」

「そ、そうですよ!怒ってるんですからね。間違えちゃだめですよ!!」

「真っ赤になって、怒った美耶子も可愛いな。」

「ふぁ……っ!?」


私の反応が期待通りだったんだろう。満足したらしい副会長は、ただし…と注意をするように続けた。


「まぁ変態的な思考でも俺のこと考えてる分にはいいから、他のやつにときめいたりするなよ?」


まだ頬の熱が引かない私は、自分の火照った頬を押さえながら、ジト目で副会長を睨みつけて言い返す。


「斎先輩がいるのに他の人にときめいたりしませんよ。」


言った途端に、副会長が呼吸を止めて目を見開いた。え?な、何。


「…………それは眼鏡をかけてる俺が、お前の理想の副会長像だから、他の眼鏡男子にはときめかないって意味だよな……?」


妙に慎重に、言い聞かせるような口調で副会長が確認してきた。


「それも否定しませんけど、斎先輩が言ったんじゃないですか。俺だけ見てろって。それに私の一番近くにいる男子は斎先輩ですよ?だから私が見てるのは斎先輩だけで……ちょ、ちょっと!なんでそっぽ向くんですか!!」


恥ずかしい思いをして正直に言ったのに、途中で思いっきりそっぽを向かれた。

さらに腕で顔を隠すようにしてそっぽを向いたまま、たいそうなため息をつかれた。


「はぁ……お前に他意はないってわかってても、ちょっと嬉しいと思うのが悔しいな……。くそっ、ちょっとこっち見るな。にやけて気持ち悪い顔になってる自信がある。」

「え!そんなこと言われたら俄然見たくなるじゃないですか!大丈夫です。斎先輩の多少気持ち悪い部分も含めて丸ごとかっこいいと思ってますよ!」

「そんな優しさはいらん!」


ぎゃあぎゃあと続く副会長と私の攻防は、予鈴が鳴るまで続いた。



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