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お店めぐりと羞恥


ぶらぶらと歩いていると、セレクトショップらしい帽子屋さんがあった。


「あれ?こんなお店あったかなぁ…?」

「新しく出来たのかもな。」


面白そうなのでちょっと入ってみた。

男性物と女性物が半々ぐらいで置いてあった。副会長が帽子を適当にとって私の頭に乗せてきた。私は乗せられた帽子の角度を丁度いいように調節して副会長を見上げた。

副会長が意外というような表情で私を見て言った。


「意外と似合うな。」

「なんで似合わないと思ったもの乗せたんですか!?」


その後二人で、お互いに似合いそうな帽子を見つけては被せてみることにした。

何度か合わせてみた中で、キャスケットのような形のちょっと可愛らしいデザインの帽子があった。副会長がこれが一番可愛いと言い、私も形が気に入ったので、せっかくだからひとつ購入することにした。

丁度今の服装にもぴったり合っているので、そのままかぶっていくことにする。

副会長はあんまり帽子はかぶらないと言って買わなかった。


そんなやり取りをしていたらお昼近くになったのでご飯を食べようとなった。

休日なのでどこの店も混んでおり、かなり待たなくてはならなかったので、バーガーショップに入ることにした。

私が注文だけして先に席を確保し、後で副会長が商品を受け取って合流した。ちょっとこの間のコーヒーチェーン店を思い出した。あそこで名前呼びになったんだったっけ。


「斎先輩こっちです!」


手を振って副会長を呼んだ。

私がバーガーのセットを頼み、副会長はセットにもうひとつ単品でバーガーをつけていた。


「そのバーガーって美味しいですか?」


私は副会長が食べていた新作バーガーの味を尋ねてみた。

前からちょっと気になってはいたのだが、美味しいかどうか分からないので買う気になれなかったのだ。

副会長みたいにふたつ買うならひとつは冒険してみてもいいと思うのだけれど、さすがにひとつで外れを引きたくない。

副会長は食べながらうーんと迷い、答えた。


「なんというか…普通?めちゃくちゃうまいわけでもだめなわけでもない感じだな。食べてみるか?」


副会長がバーガーをずいっと差し出してきたので、受け取って一口かじって返した。

うん……。普通だ。


「こう、コメントしがたい感じに良くも悪くもないんですね。逆にすごい。」


そんな会話をしながら、私がセットひとつ食べてる間に、副会長はセットとバーガーひとつ食べ終わっていた。さすが男子、食べるの早いなぁ。

私はまだポテトが少し残ってるのでそれをゆっくり食べながらふと何気なく切り出した。


「そういえば副会長の誕生日っていつですか?」

「ん?今日。」


なんてことないかのように、ジュースを啜りながら言われてびっくりしてしまった。


「え!?なんで言ってくれなかったんですか!お祝いしたのに!!」

「自分から誕生日だから祝って下さいって自己申告はしづらいだろ……。」


してくれても良かったのに……。


「もしかして副会長が今日やたら強引に遊ぼうと言っていたのは……。」

「せっかくだから、祝わなくてもいいから一緒にいてほしいと思ってな。」


けろっと言われた。なるほど、だから電話で断られても待ち伏せしてたんだ。どれだけ一緒に遊びたいのかと思っていたが、ちゃんと理由があったのだ。


「じゃあ、今日は斎先輩の誕生日を祝って一日一緒に遊びましょう!」

「いいのか?お前服買いに来たんだろ?」

「服はいつでも買えますけど、斎先輩のお誕生日は今日しかないんですから。プレゼントはないですけど、目いっぱい遊びましょうよ!」


ということで、午後からは一緒に遊ぶ事をメインにしようと話しあった。

基本的にはぐだぐだとお店巡りをしながら、途中ゲームセンターコーナーがあったのでそこに入った。

UFOキャッチャーの可愛いストラップつきぬいぐるみが気になったので全力でとることにした。

副会長に横から指示をしてもらいながら私が操作をする。

こういうのは自分で手に入れるのが醍醐味だと思っている。とってほしいなんて可愛い女子力などない!


「う~うぅ~あとちょっとなのにっ!!」


どうしても後少しの所でぬいぐるみがうまくはまってしまっているのだ。店員さんに何度も直してもらったけれど、うまくいかない。

既に千二百円UFO銀行に預けているのだ。悔しい!あとちょっとなのに…っ!


「斎先輩!ちょっとここに立っててくれませんか?私千円両替してきます。」

「小銭がなくなったのなら諦めたらいいのに……。」

「いやです!既に千二百円貢いでいるのにここで諦めたら無駄になっちゃいます。」

「お前将来賭け事は絶対にやっちゃだめだぞ。」


呆れたように言う副会長を残して、私は両替機を探しに行った。


戻ってきて、また副会長に指示をもらいながら再び挑戦する。

すると、うまくぬいぐるみの頭に片方のアームをめりこませて、押し出そうとする。ほとんど完璧と言っていいポイントにアームを下ろすことが出来たのに、ぬいぐるみの顔がぐにょりとなっただけで終わった。

どれだけ弱いんだこのアーム!!

諦めて次の小銭を入れようとしたところで副会長が声を上げた。


「おい美耶子!なんかひっかかってる!」


私がすぐにアームを確認すると、めり込ませたのとは別のアームに、どうやったのか別のぬいぐるみのチェーンがひっかかっていた。

そしてアームがゆっくりとスタートの地点に戻っていく。アームと一緒にチェーンがひっかかっているぬいぐるみもぐらぐらと釣りあげられている。


「落ちないで!途中で落ちないでっ!!」


祈るように副会長と見守っていると、スタート地点にがこんと戻った衝撃でチェーンが外れてぬいぐるみが落ちる。落ちた先はゴールの落とし口だ。

受け口のところに手を入れると、手の平サイズのぬいぐるみが出てきた。

副会長を見上げてぽかんとつぶやいた。


「とれちゃった……。」


二人で顔を見合せて笑った。


「すごいな!こんな漫画みたいなことあるんだな。」

「全然狙ってなかったのにかえって高度なテクニックでゲットしちゃいましたよ!」


私が欲しかったのとは表情が違うのだが、これはこれで可愛いので取り替えてもらわずにこれを戦利品にすることにした。さっそく鞄につけてみた。可愛い。

その後、モグラたたきをして得点を競ったり、シューティングゲームを一緒にしたりした。


結果からいえば、モグラたたき以外は副会長の圧勝だった。

モグラたたきだけは私の方が四点差で勝利した。


「やはり運動神経の差なのかな……。」

「違うんじゃないか?」


そんなやり取りをしながら、美味しいクレープ屋さんがあるので食べに行こうと移動しているところだった。

急に片足がかくんとバランスを崩して、私はそのままこけそうになった。


「きゃっ――――!!」


そのまま転倒すると思ったのだが、副会長に脇から掬われるようにして抱きとめられた。


「っびっくりした……。おい、大丈夫か?」

「は、はい……。すいません、ありがとうございます。」


そのまま起き上がろうとしたのだが、靴のヒールが根元から外れてしまっていた。

お気に入りの靴だったので修理に出しながら長く愛用していたのだが、もう寿命だったのだろう。何も今日じゃなくてもいいのに……。


「こけた原因はこれか。」


副会長が片手で私を支えたまま、落ちていたヒールを拾いあげながら言った。


「クレープより先に靴屋だな。」

「すいません……お願いします。」


すると、副会長が私の前に背中を向けてしゃがみこんだ。


「え?なんですか……すごく嫌な予感がします。」

「おんぶ。早く乗れ。」

「いいです、いいです!歩けます!なんならちょっと肩を貸してくれるとありがたいです!」

「お前靴屋の場所覚えてないのか?逆方向だからかなり歩くんだよ。諦めて乗れ。それともお姫様抱っこがいいのか?」

「おんぶで!抱っこは嫌です!!……うぅ、失礼します。」


おずおずと副会長におぶさり首を締めないように注意しながら腕をまわした。

私が体重を預けたことを確認すると、副会長が私の膝を掬いあげながらゆっくりと立ち上がった。

視界がちょっと高い。そしてすごく見られている。


「斎先輩めちゃくちゃ恥ずかしいです……。」

「安心しろ。俺も実は恥ずかしい。」

「ですよね、すいません……。」


恥ずかしいので顔を隠したくて副会長のうなじに顔を押し付けた。

とたんに副会長がびくっとした。


「っ!!……美耶子、顔上げろ!息がくすぐったい。」


なるほど、副会長はうなじが弱い、と。

今いじると落とされそうなので、今度気が向いたときに怒られない程度にいたずらしよう。

私はもうひとつの気になったことを尋ねた。実は初対面でも思っていたのだが、今回も感じたので気のせいではないだろう。


「副会長なんか良い匂いするんですけど、香水つけてたりします?」

「……お前はおぶわれてる間に何をしてるんだ。そういうのって普通男子が女子に言うセリフじゃないのか。……特に香水とかはつけてない。」


つまり素で良い匂いがする人間だと言うことか!!なにそれずるい。匂いまでイケメンなのか。


そんなこんなしているうちにようやく靴屋に到着した。

店内の椅子に下ろしてもらい、靴を物色する。


「女子の靴って小さいな。」


副会長も一緒に物色しながらそう感想を漏らした。


「まぁ男子よりは小さいですよ。ディスプレイしてあるものは小さめのサイズ陳列してることも多いですし。」

「どれがいいとか全く分からないな。」

「基本的にはインスピレーションですよ。あ、これいいな的な。斎先輩が靴選ぶ時もそうですよね?」

「そんなもんか。」


そんな会話をしながら靴を選んでサイズを出してもらったりしながらぴったり合うのを探す。

何度か履き替えた後、ようやく良いのがあったので、その場で購入して履いていくことにした。服買うようにお金を持って来ていてよかった。


その後改めてクレープ屋さんに向かい、クレープを購入した。私のお勧めのクレープ屋さんで、副会長が誕生日なので私が奢ることにした。靴の迷惑料も兼ねている。

そばの憩いスペースで並んで座って食べる。ここのクレープが好きでたまに食べているのだ。今日も美味しい。

私はいつもお気に入りのものしか食べないので他のクレープを食べたことがない。なので副会長のクレープが気になるなーと思っていたら、完全にばれていたらしく、一口食べるか?と聞いてくれた。

ものすごく甘やかされている自覚があったので、私のクレープも一口食べてもらった。

うまうまと食べていると、副会長が私を見て笑いながら、自分の口元をとんとんと差して指摘してきた。


「美耶子、ここにクリームついてるぞ。」

「え?…………とれました?」


言われた部分を拭ってみたのだが、まだとれてなかったらしく、副会長が手を伸ばしてきた。

大人しくしていると、口のそばを親指の腹で拭われた。ちょっと唇に指が当たって恥ずかしかった。

副会長は親指のクリームを二、三秒どうしようかと見つめた後、そのままぺろりと舐めてしまった。


「……え?ちょっ!?拭いて下さいよ!!」


真っ赤になって抗議すると、副会長が私を見て不思議そうに言った。


「お前の照れる基準がわからなくなってきた。食べ物の間接キスは気にしないくせに拭ったクリーム食べるのは照れるのか……?」

「だって拭ったの食べるとか恋人みたいじゃないですか!」

「食べさせあうのも恋人っぽくないか?」

「それは由紀としたことがあるので。」


私の答えに、副会長が一瞬考えた後、確認するように質問をしてきた。


「美耶子。誰かと手を繋いだり、腕を組んで歩いたことはるか?」

「由紀とあります。」

「お互いのを一口ずつ食べさせあうのは?」

「由紀とよくします。」

「おんぶされたり、口元を拭って食べられたことは?」

「ないです。」

「……なるほど。お前の照れる基準は女友達としたことがあるかどうかなんだな……。」


副会長はぐったりしたような顔で結論に達したらしい。

諭すような口調で私に言った。


「頼むから、もうちょっと俺が異性だっていう認識持って意識してくれ。」

「別に斎先輩を女の子だとは思っていませんよ。ちゃんと男子だって認識してます。」


副会長はなんでもないことのようにさらりと言った。


「とりあえず、俺を恋愛対象の異性として認識してくれ。でないと俺が困るから。」



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