デートと遊び
ちょっと短めです。
『ところで美耶子。明日デートしないか?』
「ふぐっ!!ぐふぐふ、ごっほ、げほげほ……じばぜん。」
電話越しの副会長が変なこと急に言うから、飲んでたオレンジジュースが鼻に逆流してきたじゃないか。めっちゃくちゃ鼻が痛い。
電話越しでよかった。こんな醜態を人に…ましてや副会長にお見せできない。
『おい、すごいむせ方したけど大丈夫か?』
「うぅ~鼻が…ずびっ、……すいません。びっくりして飲んでたジュースを吹き出しそうになってました。」
鼻から。
…急に変なこと言うのやめてほしい。メールはよくやりとりするけれど、珍しく電話してきたなぁと思ったら世間話しかしないからおかしいと思っていたんだ。
これを言うためか!……メールで言われたら冗談で返してしまいそうだもんな、私。
『……すまない?』
「気にしないでください。ちなみに明日は、私は服を買いに出かけるんだってさっき言ったじゃないですか。なんでその流れでそうなるんですか。あとデートじゃないです。」
そこはきっちりと線引きする。もうペアのキーホルダーの時のようにはいかない。
『お前親友と二人で遊びに行くのをデートっていうじゃないか。俺と二人で一緒に遊べばデートだろう?』
「えー…デートって女子同士で使うから許されるんですよ。斎先輩と二人で遊びに行くのをデートと言ってしまうと、本来の正しい意味の、文字通りデートになっちゃうじゃないですか。だめですよ!」
『別にいいじゃないか。気にするな。』
「というか、私はさっきから明日は服を買うんだって言ってるじゃないですか。遊びません。」
『俺がそれに付き合えばいいだけだろ?荷物持ちするぞ?』
「そんな大量に買わないから必要ないです。とにかくデートしません!それではおやすみなさいっ!」
携帯をすばやく切った。
勝ったな…!完全に勝利したと言っても過言ではない。ついに振り切って見せました、副会長を!
ちょっと冷静になって考えてみた。
なぜ副会長は私とデートをしたいと言ったのだろう。ただ単純に遊びたかった?それとも…………。
「それとも……いや、ないよね。副会長が私を好きなんて、ない。初対面で餃子姫って言われて次ににんにく姫だもん。他にも色々醜態は晒してきたし、副会長にとって、私はただの異性の友達。だからデートなんてしないんですよ…。」
だって、好きって言われてない。どれほど優しくされても、ドキッとしても勘違いしてはならない。
そうすれば私はずっと副会長と一緒にいられるんだから…。
「駄目だ…。考えがネガティブになってきちゃった…。もう寝よう。」
私は布団をかぶって眠りについた。
翌朝、ショッピングモールに到着した私を出迎えてくれた人がいた。
「おはよう美耶子。」
「……なぜいるんですか、副会長。」
にこやかに挨拶をする副会長だった。
私服の副会長は新鮮だな…。前、緊急事態で家に行った時は制服だったし。
特別おしゃれな格好をしているわけではないと思うのだが、スタイルと顔がいいせいだろうか、なんか様になっていてかっこいい。
ちくしょう。美男美女はよほど酷い恰好じゃない限り、何着てもだいたいかっこいいの法則は都市伝説じゃなかったのか!!
「デートは嫌だと言ったから、偶然会ったからそのまま一緒に遊ばないか?みたいな流れで行こうかと思ってな。」
「また力技の偶然できましたね…。」
「あのまま遊ぼうって言っても無駄な気がしたからな。ということでこれはデートではない。
休日に偶然出会って、そのまま一緒に同じところに行っているだけだ。一緒に昼も食べるが、俺はお前に奢ったりしない。飽きたら俺は勝手に帰るので気にしなくて構わない。これでどうだ?」
確かに……そこまで明確に決めてしまえば、それは一緒に遊んでいるのであってデートじゃない気がする。
「わかりました。じゃあ一緒にお店巡りしましょう!」
「あぁ。じゃあ行くか。」
そのまま副会長がモールの中に入ろうとしたところで思い出し、背後からするりと手をとって繋いだ。
びっくりしたらしい副会長が、ぎょっとして振り返った。
「どうした?」
「え?手を繋いでくれってこないだ言ったので繋いでみました。今日は平熱ですね、よかった。」
笑って返すと、副会長は照れてるのかちょっと赤くなっていた。
照れられるとこちらも恥ずかしくなってきたので、パッと離した。
副会長は、離された自分の手を見て、ちょっと拗ねたように言った。
「惜しいことしたな……。繋いだままにすればよかった。」
副会長が私の手をじっと見つめてきたので、繋ぎませんと宣言してお店巡りを始めた。
「斎先輩、ここ寄りましょう、ここ!」
「嫌だ。絶対いやだ。」
私と副会長はお店の前でじりじりと攻防戦を繰り広げていた。
もちろんメガネ屋さんの前です。
腕をぐいぐい引っ張って駄々をこねる。
「ね?ね?ちょっとだけ!ちょっとだけだから!!ほんの15眼鏡ぐらい堪能したら出ますからっ!」
「何の単位だ!?十分堪能してるじゃねぇか!!」
「う~…うぅ~…!!」
腕にしがみついて譲らないとばかり駄々をこねていると、途中で副会長が不自然なくらい、ぴたりと折れた。
「おい、わかった…。わかったから腕離せ…。」
ここで離したらダッシュで逃げたりしないだろうか…?副会長に逃げられると絶対追いつけない自信がある。
私は逃さないとばかりにしっかりとしがみついて確認する。
「逃げませんか…?」
副会長はますます気まずそうに視線をそらす。
「逃げないから、腕、離そう。美耶子……。」
なんだろう?副会長はなにかやましいことでもあるのだろうか?
とりあえず信用して腕を開放すると、副会長は大きくため息をついた。
「どうしたんですか?そんなに眼鏡屋さん嫌ですか…?」
さすがに本気で嫌なら諦めようと思ったのだが、副会長は「そうじゃない…。」と疲れたように眼鏡屋さんに入っていった。
そこからは至福の時間だった。
私服の副会長が、私がかけて!と渡した眼鏡をかけてくれた。中指で眼鏡をくいっと押し上げる仕草もやってくれた!!
眼鏡ってずれた眼鏡を直す瞬間と、かける一瞬、外す一瞬が素晴らしいと思うんです。もちろん装着中はいわずもがなですけどね!ちょっと伏し目がちに眼鏡をかけられるともうたまりませんね!副会長はそういうのを無意識にちゃんと押さえてくれているところが素晴らしい。さすが副会長、素敵です副会長!
副会長は丸い形よりもどちらかといえばオーバルやスクウェアのような横長のレンズの形の方が似合うようだ。副会長の持っている眼鏡は上部分にハーフリムだが、リムはあってもなくてもどんなものでも似合うことが分かった。
色々な種類の眼鏡をかけてもらったが、私の見立てもあるだろうが、副会長はたいていの眼鏡をいい感じに装着している。
知的なメタルフレームの眼鏡の副会長。個性的でカジュアルな太めのリムの眼鏡の副会長。
眼鏡の副会長最高!万歳っ!!
あぁ…フレームについてる値札タグが本気で邪魔だ…。引きちぎりたい…。
「もう副会長は眼鏡モデルになればいいと思うんですよ。写真集が出たら私買います!」
副会長は辟易しながら伏し目がちに眼鏡を外した。一瞬目をつむるのもたまりません!
「ならないからな。…さてそろそろいくぞ。冷やかしの癖に堪能しすぎだ。」
副会長がさっさと外に出て行ってしまったので、私は丁寧に眼鏡を元に戻して後を追った。
美耶子の胸は平均よりややあります。だから何ということはないです。
ただ、当たると感触を堪能するのには困りません。それだけです。