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後悔と告白

私どのようにして教室に戻ったかは、さっさと忘れてしまおう。

すぐに副会長と私がどっかに消えたという噂が流れてきて、私が副会長と一緒に授業をさぼったということはすでに周知の事実だ。

別に直接私に話を聞きにきたり害を加えることがないだけで、噂自体は常に水面下で行われている。

そのことについていろいろ思うことはあるが、風紀委員の人からの『途中から体調もよくなったようで、びっくりするほど活躍していました。よかったわ!』というメールが着たので気にしないことにした。関係ないが、風紀委員の人はバドミントンで優勝してクラスに貢献したらしい。あの人も何気にすごく優秀だなぁ。

しかし、活躍して勝ち進めば進むほど、魔具リングの負担が辛くなるだろうから、そこまで頑張らなくてもいいと思うのだけれど、たぶん体調が戻って嬉しかったのだろう。

とかのほほんと考えていたのに、由紀にばっさりと否定された。


「そりゃあ美耶子が頑張れって言ったら頑張るんじゃない?男子ってそういうものでしょ?たとえそれで後半失速しようがね…。」


本当にばっさりと切り捨てられた。後半は勢いに任せてペース配分を間違えた、うちのクラスの男子チームを皮肉っているのだろう。

由紀が見てるから頑張っただろうに、なんとも哀れだ…。


「じゃあ、やっぱり応援なんてしない方がよかったね。」

「いいんじゃないの?本人が応援しろって言ったからしたんでしょ?」


由紀は投げやりだ。クラスの女子がはしゃいでいるのが煩わしいのだろう。由紀は窓際なので、休み時間のたびに女子がそばできゃあきゃあ言ってるのがたまらないらしい。


副会長は大丈夫だろうか。魔具と副会長の抱えている秘密との相性が悪すぎる。

教師にだけでも打ち明けることが出来れば、対策をとってもらえるのに…。いや、せめてもっと事前にわかっていれば……。

ん?事前に……?

私は……事前に魔具が使われることを知っていた…。

だって私の方が先に球技大会を行ったんだから。

しかも私はその時に魔具を見て、副会長はどうするんだろうとまで考えた。

ここまで思い至った瞬間、すぅっと頭の中が冷たくなった。

私、事前に知っていたのにどうして副会長に魔具の話を伝えなかったの!!

そうすれば、事前に伝えてさえいれば、副会長は何らかの対策をとれたんじゃないだろうか…?

それなのに、忘れたまま伝えずに、当日に心配して様子を見に行って、魔力を奪うことで体調を何とか整えた。

これってわざと恩を着せるような酷い行為じゃないだろうか……。

私……副会長に…最低なことをした。


「……ちょっと美耶子、どうしたの?顔色悪いよ…?」

「どうしよう由紀……。私最低かもしれない……。」


私の顔色が目に見えて真っ青らしく、由紀は「こんな休み時間の教室じゃなくて、お昼休みにちゃんと話そう。」と言ってくれた。



お昼休みに、いつもの校舎裏にきてお弁当を食べて、由紀に自分の考えたことを話した。もちろん副会長のことは言えないので、例え話にした。


「例えばね…。由紀がものすごく犬嫌いだったとして、私がさっき通ってきた道には犬がいるってことを私は知ってたの。けれど、私の次に由紀がその道を通るって私はわかっていたのに、私は犬がいることを告げなかったの。犬がいて、あぁこの道を通る時由紀は大丈夫かなって一瞬でもちゃんと気付いていたのに、私は結局それを由紀に伝え忘れてしまったの。

それで、いざ由紀がその道を通った後に思い出して、慌てて駆けつけて犬から由紀を守ってあげたの。」


私がぽつぽつと語る例え話を、由紀は黙って聞いてくれた。


「私は由紀に感謝されたし、私は由紀を守ったつもりだった。けれど本当に守ってあげるのならば、私は事前にあの道には犬がいるよって由紀に教えてあげるべきだったんだって気付いたの。

そうすれば由紀は違う道を選んだかもしれないし、少なくとも不意打ちで犬に驚いたりせずに、心の準備とか対策がとれたと思うの。それを告げずに由紀が危なくなってから助けに行って感謝されるのってすごく卑怯な気がした。それで由紀を助けた気持ちになった自分がすごく嫌。それに由紀だって冷静になれば、私が先に犬のことを知ってたんだから教えてくれればよかったのにって考えると思ったら、怖くなった。」

「なるほどね…。たぶんそんな感じのことを副会長にやらかしたんだね。詳しくは聞かないけど。」


由紀はさらりと告げた。


「美耶子はどうしたいの?」

「怖いの…。副会長に恩着せがましいことしちゃったことも、それを副会長に気づかれて嫌な奴だなって思われるのも怖いの。……副会長に嫌われちゃうのが一番怖い…。」


あぁ、私は嫌な奴だなって思った。

まず副会長を危険にさらしたことへの謝罪とか反省が出てくるべきなんだろう。それなのに私は自分本位で副会長に嫌われることを恐れてるんだ。


「……確かにその例えで私が犬嫌いなら、あとから冷静に、美耶子が一言教えてくれればよかったのにって思ったかもね。」


由紀の指摘に私はぎゅっと拳を握った。当たり前だ。


「でも、そんなことで美耶子を嫌な子って思ったりしないし、やっぱり美耶子に助けてもらったことを感謝していると思うよ。」


由紀は、私の握った拳を柔らかく包んで言った。


「美耶子が後悔してるなら、私はまず美耶子に言い訳して欲しい。美耶子の後悔を全部聞いて、美耶子が謝ってくれるなら許してあげる。

何も言わずに勝手に後悔して、勝手に距離を取られるのが一番嫌だと思う。だから、ちゃんと副会長にも全部話なよ?その上で嫌な子って思われても、それは美耶子の行動だから仕方ないし、謝ってくれないなら許すチャンスもあげられないよ。」

「由紀……。」

「副会長とまだ一緒にいたいって思うならちゃんと謝ってみたら?そっからどうするかは副会長が決めてくれるよ。あんまり一人でうじうじ悩まない方がいい。美耶子はへこむと結構マイナス方向にしか思考回路が働かないから。」


由紀の言葉にちょっと気持ちが楽になった気がした。


「私が今しなくちゃならないのは、副会長に自分の気持ちを伝えて謝ることだよね…。」

「そうだね。美耶子が副会長と一緒にいる上で、どうしても気に病むことなら伝えて楽になっちゃいな!」

「ありがとう由紀。今日の放課後にでも時間もらってみる。」


由紀はちょっと考えた後で、にこっと笑って告げた。


「私が美耶子に教えてあげた、あの喫茶店に誘えばいいよ。静かに話し合える場所が必要でしょ?美味しい飲み物とおやつがあれば、結構人は寛容になるよ。」

「え?でも由紀…あのお店教えていいの?副会長が気にいっちゃうかもしれないよ?由紀はあのお店で副会長と鉢合わせしたくないでしょ…?」


由紀は平気、平気とぱたぱたと手を振った。


「副会長があの店にいるときは私はあの店を避けるから大丈夫だよ。」

「でもあのお店は由紀が見つけたお店なのに、由紀が遠慮するようになるなんて…。」

「私がいいって言ってるんだからいいの!」


由紀の優しさがやばい。


「由紀様!私をこれ以上惚れさせてどうしようっていうの!」

「ふふん。その辺の男なんて、私の存在感の前では霞んでしまえばいいんだよ。」


照れ隠しに茶化して抱きついたら、余裕の表情で受け止めてくれた。

親友がイケメン過ぎます。

私は親友に勇気をもらって、放課後に副会長に全部打ち明けてみようと思った。




放課後、副会長と一緒に喫茶店に向かい、そこで副会長に自分が思っていたことを全て打ち明けた。


副会長は、静かに私の話を全部聞いてくれた。

私が全部気持ちを吐露し終えて、怖くてぎゅっと俯いていると、コーヒーを一口飲んだ副会長が、少し呆れたような口調で切り出した。


「気にしすぎだ。」

「え…?」


私はその副会長の言葉にあっけにとられて副会長を見つめた。


「だ、だって…副会長のことは下手をすると、命に関わります。それを打ち明けてもらって、助けますって約束しました。」

「それはそうだが現実問題、どうしても美耶子が俺の体調のことに危機的意識が弱いのは仕方ないことだ。最近打ち明けられた秘密だし、自分のことではないから馴染みが薄くて当然なんだ。

俺はお前を責めることはしないし、嫌いになることもしない。むしろちゃんと助けにきてくれたことがとても嬉しかった。」

「でも…事前に言っていれば、副会長はもっと助かってましたよね…?」

「否定はしないな。だが仮定の話だし、どちらにせよ俺が美耶子に救われている事実に変わりはない。だいたい恩着せがましいと言うが、美耶子は俺に恩に着せても構わないんだぞ?球技大会の時も、家に駆けつけてくれた時も、自分の都合は全部投げ出してちゃんと助けてくれたじゃないか。俺はそれだけで十分だから。」


副会長は柔らかく笑って諭してくれる。

私は子供のようにしゅんとうなだれている。


「手。」

「はい?」

「手、出して。」


言われた通りに差し出すと、ぎゅっと握られた。


「前に、段々危なくなってくると体温が高くなるって言っただろ?あれな、誰かと手を繋がなきゃ自分の体温が高いかどうかなんてわかんないんだ。

体温があがっていても一人だと、なんか今日はものすごく寒いな、で終わることがあるからな…。だから美耶子が責任を感じてるのならばずっと俺の手を握ってろ。そして体温が高くなってたら俺に教えてくれ。それでチャラにしよう。」

「ずっと…手を繋いでいれば、私にもわかりますよね……?」

「別に俺はお前に秘密を打ち明けたが、体調管理をしてくれと言ったつもりはない。どうしようもなくなった時助けてもらえればありがたいが、基本的には秘密を一緒にもってくれる相手がいるだけで救われているからな。だから、そんなに気に病むなよ。重く考えすぎだ。」

「はい……。すいません、斎先輩。」


繋いだ手を見つめた。

私より大きな手は、今は私よりやや暖かい程度だ。

じーっと手を見つめていると、副会長が握っていた手を動かして、指と指を組み合わせるようにぴったりと握りなおしてきた。

副会長、手大きいなぁ…。指長い…。いいなぁ……。


「ドキッとしたか?」


副会長が、私を覗き込むように聞いてきた。


「?指が長くていいなと思ってました。」

「……美耶子。この手の繋ぎ方、俗になんて言うか知ってるか…?」

「恋人繋ぎですよ?……あ。」


瞬時に副会長が言いたいことを理解して真っ赤になった。びっくりして、手もほどいてテーブルの下にさっと隠した。

副会長はそのまま顔を覆ってうなだれている。


「遅ぇ……。前から思っていたが、お前ひとつのことを考え出すと、他への注意が散漫になるタイプだな。」

「うぐ…。ち、違います!ちょっと気付くのが遅れるだけで、気付かないわけではありません!鈍くなんかないですからね!!」

「微妙なラインだな……。」


その後なんとか副会長の認識を訂正しようと、一生懸命自分を売り込んだりしていた。


副会長の認識が覆ることはなかった。


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