球技大会とペンネのプレゼント
私が副会長の斎呼びになれない……。
翌日から普通に学園生活を送っている。
特に変わったことなどない。しいて言えば、風紀委員の人から『斎様のロッカーキーが変わったわ!しかもたまにポケットから出して眺めてる!!もしかしてプレゼントか何か!?』と異様に鋭い指摘がメールで着て、恥ずかしい思いをしたぐらいだ。どこまで見てるんだよ…。1時間目の休み時間にメールがきたんだけど…。
晴天の本日は球技大会だ。
クラス対抗戦で、午前中いっぱい使って行われる。
球技大会は魔法禁止の純粋な身体能力のみでの勝負なので、A、Bクラスが有利とは限らないのだ。
うちのクラスもここぞとばかりにやる気になっている。
うちのクラスは仲もいいし、そこそこいい成績出せるんじゃないだろうか?
私は体育さほど得意でないから、正直早く終わってほしいと考えている。
とりあえずたっぷりと日焼け止めを塗っておいた。天気がいいから定期的に塗り直した方がいいかもしれない。
魔法による不正をなくすため、また魔具が登場した。今回の魔具は試合中だけつける仕様で、終われば外せるようになっていた。
たしか副会長の学年は来週球技大会のはずだ。試合中だけとはいえ、勝ち進んだら試合中はつけ続けなければならない。
副会長は大丈夫だろうか…。
まぁ今心配しても仕方がないので、私は自分の出場するバレーボールに集中することにする。
バレーとバスケはグラウンドで行われるので日差しがきつい。
体育館で行われる卓球とかを選べばよかったと心から後悔した。
私のチームは三回戦敗退だった。
そんなに活躍していなくても日差しのせいで汗をかいた。
由紀が活躍しているであろうバスケの試合を応援しに行く前に、水分を補充しようと思い自販機のある食堂の方へ向かう。
向かっている途中の廊下でにゃおん、と鳴き声がした。
声の方に振り向くと、ペンネがいた。
「あれ?ペンネだ!どうしたの?こんなところで。」
ペンネに駆け寄ろうとしてはたと気付く。
私は今汗と土まみれの体操着だ。この姿を副会長に見られたくはない。
「ペンネ…。今副…斎先輩とリンクしてる…?してるなら切ってほしいんだけど。」
ペンネがふるふると首を横に振ったので、安堵して駆け寄る。
もしかして鼻のいいペンネに汗の匂いは辛いかもしれないと思ったので、いつもよりちょっと距離をとった。
ペンネが地面に置いていたペットボトルを鼻先で押しやったので、手に取ってみるとひんやり冷たいスポーツドリンクだった。
「ペンネ、これもしかして私にくれるの?」
「にゃおん。」
「斎先輩から?」
ふるふると首を振られた。
「え?……じゃあペンネから!?」
「にゃおん!」
え?どうやって買ったの…。
と思っていたら、私の疑問を察したのだろうペンネがどこから出してきたのか、男物の財布を咥えていた。
やな予感がしてきた。
「……まさかそれ副会長のじゃないよね…?」
「にゃおん!」
「駄目だよ!!勝手にお財布からお金使ったら!!」
ペンネが目に見えてしょぼんとした。うぅ、可哀そうだけど、ペンネのためにも駄目なことはちゃんと言っておかないと…。
「ペンネ。私に飲み物をくれた気持ちは嬉しいんだけど、副会長のお財布から勝手にお金をとったらだめなの。いくらペンネが副会長の使い魔でも、それはやっちゃだめなことだと思うの。一緒に謝りに行くから副会長に自分からちゃんと謝ろ?」
「にゃぉ……。」
ペンネがやったことは、副会長がリンクを繋げばすぐにばれる。なのでペンネは副会長に基本的に隠し事が出来ないのだけれど、やっぱり悪いことをしたときに、ばれるのと自分で告白するのは全然違うと思うから、ペンネに自分から告げるように促す。
善は急げなので副会長にさっさと会いに行こうと思う。まぁ今は休み時間なので、普通に考えれば教室にいるだろう。
副会長の教室……行くのやだなぁ…。しかも私は今、汗かいた体操着なんだけど。
授業中に行けば話題の眼鏡姿が見れるんだろうけれど、休み時間は外してそうだしなぁ…。
というか私教室に行っていいんだろうか?
失礼かもしれないが、呼びだした方がかえって迷惑にならないかもしれない…。
「どっちがいいのかわかんない…。メールしてみよう。」
ということで『星陵斎』宛てにメールを出した。
うん……慣れない。
すぐに、副会長から『今、移動教室だから途中で寄り道して向かう。そこで待っててくれ。』とメールが返ってきたのでペンネと二人で待つことに。
しばらくすると遠くから足音が聞こえてきたので、副会長かなーとひょっこり顔をのぞかせると片手に教科書とノートを抱えた副会長が足早にやってきたところだった。
「呼びだしてしまってすみません、副会長。移動教室だったんですね。」
「いや、気にするな。それより美耶子、名前。」
「あ、はい副…斎先輩。」
油断するとすぐ副会長に戻る。名前はすでにちゃんと覚えてるので、副会長に戻しちゃだめだろうか?
「で、何の用なんだ?」
「ペンネのことなんですけど、実は…――。」
簡単な事情を説明すると、私の後ろで小さくなっていたペンネが、にゃおんと小さく鳴いた。
「いつもいつもごめんで済むと思うなよ……。」
副会長は、ため息をつきながら呆れている。
ペンネはすかさず副会長の足にすり寄りごろごろ言っている。ちゃっかりさんだなぁ。
そしてこういうペンネの勝手な行動は、わりとよくあることのようだ。ペンネと副会長は主従というよりは、悪戯っ子の弟に手を焼いている兄といった感じだ。
「斎先輩。これペットボトル代です。」
「いや、それはペンネからのプレゼントだから素直に受け取っておけばいい。美耶子が気にすることじゃない。」
お金を払おうとしたが断られたので、ありがたくもらうことにした。
「お前の学年は今日が球技大会なんだな。何に出てるんだ?」
「バレーですけど、もう負けちゃいました。今からは応援なんです。」
「そうか、天気がいいから応援するだけでも水分はちゃんととっとけよ。じゃあな。」
時間がないので副会長はさっさと行ってしまった。
……もしかして寄り道って言っていたけれど、回り道とか正反対の道に寄らせてしまったのではないだろうか……?
だとしたら申し訳ないことをしたな…。
改めてペットボトルのお礼をペンネに告げて、ペンネと別れてクラスの応援に向かった。
「由紀ー!女子バスケの方はどうなった?」
「あ、美耶子!私達次準決勝だよ!」
「え?ほんとに?すごいじゃん!」
「うち女子バスケ部が2人いるからね。そりゃあそこそこ強いよ。」
「由紀もスポーツ得意だからね。応援するよ!頑張ってね!」
それから由紀のいる女子バスケチームを応援していたのだが、女子バスケ部2人と元経験者が3人いるという本気チームに負けてしまった。ちなみにそのチームが女子バスケ部門の優勝者だ。
「もー!何あれ強すぎ!編成がおかしいでしょ!?魔法とかじゃなくて完全に技術で負けたのが超絶悔しい!!」
「仕方ないよ…。でも由紀のチームも強かったんだもん。あのチームとさえ当たらなければ決勝いってたよ!」
「決勝であのチームに負けただろうけどね。」
まぁ、そうだろうね。私は横でふてくされている親友をなだめながら、他のみんなと一緒にクラスの男子の応援などをしていた。
クラスメイトから、なんとか機嫌を回復させて由紀に男子の応援をさせろと指示がでた。
男子には美人の応援が必須らしい。そんなものなのだろうか?
とりあえず由紀をうまいことなだめて男子の応援をさせる。
「いっけー!田中そこ突っ込めー!!馬鹿、なぁんでそこでゴール狙うの!パス回せっ!!」
親友よ。真剣に応援するのはいいんだが、たぶん求められているのはもっと可愛い応援だと思うんだ。
恐ろしいことに男子はそんな男気溢れる応援でも嬉しいらしく、さっきまでよりちょっと動きがよくなったような気がする。
いや……由紀の応援が嬉しいというか、由紀監督に叱られるのが怖いのかもしれない。どっちだろう…。わからないが結果オーライなので黙っておこう。
そんな感じで、私にとっては非常に平和に球技大会は終了した。
ちなみにうちのクラスは総合2位の成績だった。なかなかいいんじゃないだろうかと私は思うのだが、魔法を使っていなかったのにAクラスが総合優勝したという事実にみんな打ちのめされていた。
それは純粋に、Aクラスに優秀な人材が多いということだろう。すごいね。
午後からの授業は午前中の疲労で、全然身が入らなかった。
他のみんなも同様で、特にお昼休み後すぐの授業は爆睡者が続出した。内容が古典の授業だったのでなおさらだろう。理科系の授業でもやばかったかもしれない。
私も眠たくて仕方がなかった。
副会長からは『お疲れ様。』というメールが着ていた。『ありがとうございまzzZ…』と送ったら『起きろ∵(´ε(○=(゜Д゜;)』と返ってきた。ちょっと笑った。
眠たい午後の授業をなんとか乗り切って1日を終えた。
ペンネのプレゼントのスポーツドリンクは大事に飲んだ。
そういえば副会長は、球技大会は何の種目に出るんだろう。
見てみたい気もするけれど、副会長と会長はたしか同じクラスで友人だったはずだ。たぶん色んな女子が殺到してそうで、怖いのから見に行くのはやめておこう。
ペンネ経由で、飲み物をお返しするのならありかもしれない。
そんなことを考えながら、眠りについた。