表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/52

雑貨屋とキーホルダー

「―――おい…起きろ…中原…起きろ!」


ううん、眠い…。起こさないで…。


「にゃおん。」


可愛い。……だが眠い…。


「中原、中原!起きろ!」


…起きます、起きます。起きてます…!目が開いてないだけです……。

……ぐぅ…。


だが、私の睡魔は、突然耳元に囁かれた艶やかな声で急激に覚醒した。


「中原…起きなさい。」

「みぎゃっ―――痛ぁっ!?」

「……痛っ!!」


左耳にくすぐったい息の感触と近距離で囁かれた声音に飛び跳ねるように上体を起こしたら、左後頭部が何かとぶつかった。

頭をさすりながらそちらを向くと、眉間付近を押さえて呻いている副会長がいた。


「いたた…え?もしかして今ぶつかったの副会長ですか!?ご、ごめんなさい!」

「いや……俺も半分は悪いから…。」


まだ若干痛みを堪えている副会長は、眉間をさすりながら呻くように言った。


「遅くなって悪かったな。」

「いえ…私もペンネと遊んだり、眠って待ってたので気にしないでください。」


そうらしいな、と笑う副会長の横にペンネがちょこんと座っていた。

副会長が私の隣に座ったところで、私は話を切り出した。


「えっと…そういえば今日は何の用事だったんですか?」


副会長はちょっと迷ったような感じで言いにくそうに答えた。


「実は……本当は魔力が満たされてきて、そろそろ放出したいと思っていたから、魔力の消費を手伝ってもらおうかと思って呼び出したんだが、今日の魔法実技で会長バカとあたってな…。全力で魔力を使ったから今は消費する必要がなくなってしまったんだ。」


私はその言葉を聞いてぎょっとした顔で尋ね返した。


「ちょっと待って下さい!!私が土曜日に魔力を半分以上は消費したはずです!それから自然に放出する魔力があってペンネがいて、授業や生活なんかで消費する魔力があるのに、もう上限まで溜まって来てたんですか!?魔力を生み出すのが早すぎませんか!?」

「当たり前だ。俺は魔力容量が人より多いんだぞ。当然魔力を生み出す力も容量に見合った大きさがある。普通なら消費する魔力の方が多いからバランスが保たれているが、俺は違うからな。使いきれない魔力が溜まって限界を迎えるんだ。目安としては微熱状態になったらそろそろやばくなる。」


そう言って副会長が片手を差し出してきたので握ってみる。

うん、ぬるい。冷たいと言うほどではないが、私の方が若干あったかい。


「……まぁ普通ですね。」

「今は魔力を使った後だからな。明日手をつないだら今のお前よりは体温が高いぞ。そして体調に左右されるが何もしなければ、だいたい3日から4日ぐらいで魔力がいっぱいになるな。普段はなるべく魔力を消費するようにして生活してるからな。」

「驚異的な魔力量ですね…。」


私とはとてもじゃないが比べ物にならない。


「ちなみに副会長と会長ってどっちが魔力量が多いんですか?」

「今はあいつの方が上だな。だが、あいつはもう成長が止まっているらしい。俺はまだ成長しているから、このままいけば魔力量ならあいつを上回るだろうな…。」

「それ…すごいことなんだと思うんですけど、大丈夫なんですか?」


だって副会長は消費魔力が幼いころに止まってしまっているのだ。なのに魔力量と生み出す魔力は依然として増え続けているらしい。

つまり成長と共に、どんどん危険が増していっているのだ。改めて、良く今まで無事だったなぁと思う。

いや、無事じゃなかったのかも知れない。定期的に体調を崩して休むらしいから、確実に身の危険が増しているのだ。


「……早く成長が止まってくれればいいんだがな…。放出出来ない魔力がどれほどあったって、邪魔でしかない。」


皮肉気に笑った副会長の表情は痛ましかった。

ペンネがにゃおん、と鳴いて副会長に額を擦りつける。

私も真似して繋いだままだった副会長の手をぎゅっと握った。

かける言葉が見つからない。


副会長は何も言わずにだまって私とペンネの好きなようにさせていた。



「もう用事はなくなってしまったし、せっかくだから一緒に帰るか。」


しばらくして副会長が切り出した言葉がそれだった。

私も特に用事がないので、そのまま一緒に帰ることにした。

ちなみにペンネは一緒に帰らない。基本的に登下校は自由に散歩させて、満足したら勝手に家に帰ってくるのだそうだ。


学園を出て、坂を下り、駅周辺に到着したところで今朝の由紀とのやり取りを思い出した。

そういえば距離感を考えるって言ってたっけ…。

今も普通にたまに雑談しながら肩を並べて隣を歩いているけど、これは距離感的には普通だよね…?

由紀とだってこんな感じで一緒に帰るから普通だよね…?あれ?由紀と一緒じゃダメなんだっけ?

ええっと…どうすればいいんだろう…。とりあえずもう距離感が分かんないから今日はこの辺で別れようかな…。


「あ、副会長。私用事を思い出しました!ちょっと買い物して帰るので、この辺で失礼しますね!」


さくっと別れてしまおうと適当に用事をでっち上げた。


「どうせ暇だし、俺も付き合おう。いいだろ?」

「あ、はい……。」


続く副会長の一言で私の作戦が失敗に終わった。


もちろん用事は嘘なので、どうしようか困った挙句、こっそり由紀に助けてメールを送った。

『馬鹿でしょ。』と返ってきたが『下着屋に行けば?』ともアドバイスしてくれた。そりゃあそこなら副会長は確実に気まずいから帰るよ。

でもさすがに副会長連れてそんなところ行く勇気はない…。他に!他になんかアドバイスください!って頼みこんだら『可愛い雑貨屋』と返ってきた。

由紀様に心の底から感謝して、前から目をつけていた可愛い雑貨屋に副会長を連れていく。

外見は西洋風な造りだが、外から見えるだけでも可愛いぬいぐるみや女性的な可愛らしい小物が陳列してるのがわかる。お客も女子ばかりだ。

ここなら副会長は入りづらいことだろう。

店の近くまで来てから副会長に一声かける。


「あの…目的の店ってここなんですけど…。どうします?男性は入りづらいかもしれないので副会長はやめておきますか?

私、結構物色する時間が長いので待たせてしまうのも悪いですし…。ここからなら駅もさほど遠くないので戻れますよ。」


帰っちゃっても全然仕方ないですよ~と遠回しに言ってみたのだが、副会長は店を軽く一瞥すると、別になんともなさげな表情でけろりと言った。


「いや?一人では無理だがお前と一緒なら入れるぞ?さ、行くぞ。」


と言ってすたすたと入ってしまった。


副会長が入ったとたん、店員やお客の女性が副会長に一斉に注目した。

たぶん男性客が珍しいというだけじゃないだろう。容姿がいいと大変ですね。

こそこそひそひそと自分のことを囁かれているのは副会長もわかっているだろうに、副会長は平気で物珍しげに店内を物色している。

近くに可愛いウサギのぬいぐるみがあったので、副会長の腕に抱きつかせて「副会長とウサギ」とタイトルをつけると、副会長もウサギのぬいぐるみを手にとって、ぬいぐるみで私のウサギをパンチした。「パァン!」という効果音までわざわざつけてくれた。

本当に副会長は妙なところですごくノリがいい。

周りの女性客は副会長がぬいぐるみとじゃれてる姿を物珍しげに見ているが、副会長は全く気にしていないようだ。

副会長のメンタル強いな…。


「で、お前は何を見に来たんだ?」

「あ、いえ…えっと…。そう、キーホルダー!可愛いキーホルダー欲しかったんですよ!ロッカーのカギにつけてたキーホルダーが千切れたみたいでなくなってたんで。」


我ながらうまい言い訳だ。クラスのロッカーのカギはみんな同じなので、なくしたりしたとき見分けれるように女子はたいていキーホルダーをつける。カギは小さくて無くしやすいので、男子でも目印代わりにつけてる人はそれなりにいたはずだ。

私は今までつけていなかったのだが、可愛いのがあればこれを機につけたらいい。

ということでキーホルダーコーナーを物色する。

色々あるなぁ…。どれも可愛い。

その中でふと気になったのがジグソーパズルのピースの形のキーホルダーだった。


「あ、これいいな。」


ひょいとつまみあげたらもう一つ一緒についてきた。どうやらこれはペアのキーホルダーらしい。リングも二つついてるから、外して別々に持つことも可能なようだ。

シルバーのピースは二つぴったりはまっていて、綺麗な模様が入っている。

同じものがもう一つあったので、くっついてるピースを外してもうひとつのピースにはめようとしてみる。

私が何かごそごそやっているのに気がついた副会長が、私の背後から手元を覗き込んできた。


「……お前何やってるんだ?」

「いや…こういうのって、本当にペアのものとしかぴったり合わないのか気になりません?」

「結構くだらないこと考えるな。そこは夢を見とけよ…。」


こういうペアのって、そういうのを確かめさせないためなのか袋に入っていることが多いから、こういうむき出しのやつはついつい試したくなる。

ちなみに私が検証したそのキーホルダーは、偶然かもしれないがもうひとつとはうまくかみ合わなかった。もうひとつ同じものがあれば確実なのだが、あいにく二つしかなかったのでわからない。

なんとなくこれがいいと思ったので、キーホルダーはこれにしようと思う。

ただペアなので二つ買わなくてはならない。正直二つもいらない。値段を見たが、一人で買うにはちょっと高い。まぁペアだしね。


「副会長。キーホルダーは決まりました。もういいので出ましょうか。」

「買わなくていいのか?」

「気に入ったやつがペアなんで、今度、友達連れてまた見に来ます。友達が気に入ってくれたら割り勘して買って、二人でお揃いにしようかなと思って…。そこそこ高いし勝手に買うのはあれなんで。」


ふーん、と言った副会長は私が見ていたキーホルダーを見て何気ない口調でつぶやいた。


「じゃあ俺と半分ずつ持つか?綺麗なデザインだし悪くないと思う。」

「いや!それはいいです!!」

「でも、お前これが気に入ったんだろ?友達が気に入らなければ買えないじゃないか。俺なら今買ったらいいんだから手間がなくていいだろ?」

「いや…あの…でも………。」


由紀とペアアイテムを持っても、女子特有の「お揃い」なだけだ。けれど、副会長とペアアイテムを持つと完全に「ペア」がただしく「ペア」になってしまう。


「……副会長は…私とペアを持つことについてどう思ってるんですか?」


平然とペアアイテムを買おうと提案する副会長に、おずおずと真意を尋ねる。


「別に何も問題ないが?」


問題しかないように感じるのは私だけだろうか……。


「中原は俺とペアを持つのはいやか?」

「え?い、いやってわけじゃないですけど……。」

「なら決まりだな。」


副会長はペアのキーホルダーを手に取ると、そのままさっさとレジへ向かってしまった。


「あ、…え?副会長っ!?」


気付いた時には既にお会計が終わっていた。

簡易包装されたらしい二つの包みを持って副会長が戻って来て、ほい、と片方を私に渡した。


「気に入ったキーホルダーが手に入ってよかったな。」


副会長はにこやかに笑っている。私が動揺してるのが申し訳ないくらい平然としている。なんでこの人平気なんだ。実際今だって店員さんとかに超見られてるんだけどっ!!

これ完全に彼氏が彼女にペアのキーホルダープレゼントした体じゃないか……。

違う!断じて違う!!

私はお財布を取り出して、キーホルダーの半額分を副会長に渡した。


「これは割り勘して買った、たまたま同じデザインのキーホルダーを持ってるだけです!ただのお揃いです!」

「はいはい、これはただのお揃いだ。」


副会長はくすくす笑いながら、素直に私のお金を受け取った。


お店から出ると副会長がさっそく袋を開けて、自分のロッカーのカギにもともとついていたキーホルダーを外し、先ほど買ったジグソーのキーホルダーにつけ替えてチャラチャラと鳴らしている。


「わざわざ前のやつを外さなくても二つつければいいんじゃないですか?」

「あんまりキーホルダーをじゃらじゃらとつけるのは好きじゃないからな。ひとつでいい。」


ならわざわざつけ替えなくても、別の何かにつければよかったのに…。


「お前はつけないのか?」

「え?つけますよ?」


キーホルダーを買う用事と言った手前、つけなくては嘘がばれてしまう。

私も自分のロッカーのカギを取り出して、ジグソーのキーホルダーをとりつけた。


「これお前の方が花模様で、俺の方が葉っぱ模様なんだな。」


副会長に言われて、互いのキーホルダーを見比べてみると、確かに私の持っている方は花がモチーフになってる。


「もしかして、これ二つ合わせてひとつの花になるんじゃないのかな…?」

「ちょっとくっつけてみろ。」


私が何気なくつぶやいたら、副会長がピースをぴったりとくっつけてみた。

そしてくっつけるとひとつの一輪の花が出来上がった。なるほど、うまく出来たデザインだなぁ…。

そしてくっつけていて気付いた。


「これおんなじキーホルダーを、同じようにロッカーのカギにつけたら、完全にペアになっちゃうじゃないですか!!」

「……気付くのが遅すぎるだろう…。将来騙されないか心配だな。」


憐れむような目で笑われた。

完全に手の平で転がされている。


こうして私は副会長とペアのキーホルダーを手に入れてしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ