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距離感と特別と内緒話

思ったより短かったので副会長視点を足したら長くなりました。

途中から副会長視点です。

翌日、いつものように登校していたのだが由紀と会わない。

由紀が一緒にいないときはたいていろくなことがない。あの親友は天才的に面倒事を避ける予知能力があるので、由紀がいないということは私が面倒事に巻き込まれると言うことだ。

背後から最近急激に聞き慣れた声がふってきた。


「おはよう、中原。」


わぁい、今一番私の心を占めている人物が現れましたよ!色んな意味で!


「……おはようございます、副会長。」

「微妙に逃げ腰だな。」


ずりずりと距離を開けたらずずいと詰められた。


「この状況で二人で登校は限りなく誤解を生みますよ。」

「気にするな。男女が一緒にいれば付き合ってるのかなと邪推するのはよくある心理だ。」


それはそうですが、問題は副会長の場合、邪推する人数が多すぎることですよ……。


「クラスメイトとお昼一緒に食べにくくなっちゃうじゃないですか…。」

「……ぼっちになったら俺が一緒に食べてやるから安心しろ。」

「あ、親友は一緒にいてくれるので大丈夫です。」

「そこは即答するなよ…。」


副会長とお弁当の組み合わせにろくな思い出がないからいやです。

などと世間話をしながら、なんやかんやで一緒に登校してしまった。

結局ものすごく見られてる。


「これは副会長を見てるだけ副会長を見てるだけ私は空気私は霞私はいない……。」

「……おい、現実逃避するのやめろ。安心しろ、ちゃんとお前も注目されてる。」


副会長が、可哀そうなものを見る目で優しく現実を教えて下さった。

似たようなやり取り親友としたなぁ…。


そのまま門を通過したが、門で出待ちの儀式をしていた副会長のファンは、副会長にいつも通り遠巻きにきゃっきゃと挨拶していたけれど、私のことはおおむねスルーしてくれた。

睨まれるか、後で呼び出しをされるかさてどちらだろうと考えていると、空気のようにファンをスルーした副会長が戦々恐々としている私に大丈夫だ、と言うように話しかけてきた。


「端末見てみろ。」


言われて端末を見てみた。どうやら学園に入ると通知されるメールのようだ。

何だろうと見てみると、見出しが「生徒会広報、副会長より」となっていた。


『今回の騒ぎのせいで非常に不愉快な思いをしています。私が友人を作ろうが、恋人を作ろうが、関係のない第三者に根掘り葉掘り聞かれ、面白可笑しく騒がれることは迷惑です。芸能人でもないのに関係のない他人にプライベートを暴かれ、その結果、大切な相手との縁を失うことだけは絶対したくありません。放っておいて下さらないならば敵対します。以上。』


副会長からの公式見解メールらしい。

最後の一文が怖いね。敵対するんだって、副会長が。


「本当はこんな声明文を出すこと事態がばかばかしいと思うんだがな…。たぶんこれが一番有効だろう。」


副会長はちょっと呆れたように言った。どうやらメールを出すのが芸能人みたいで嫌だったらしい。

私はそのメールを見ながら、疑問に思ったことを口に出した。


「なんで異性の友達が出来ました。って書かないんですか?わりとあっさり面倒事の半分が解決しますよ?」

「今後、似たようなことがあるたびに、いちいち対応するのはめんどくさいから、一括で済ませようと思ってな。」


確かに。ん?というか私と副会長ってなんだ?友達なんだろうか…?


「副会長。私と副会長って友達なんですか?」


私の質問に対して副会長はしばらく考えてから、にやりと意地悪く言った。


「……恋人なのか?」

「違いますね!」


でも、だったら友達なのだろうか…?ぶっちゃけ激しい違和感がある。

私がうーんと悩んでいると、副会長がちょいちょいと内緒話をする風だったので、私もちょっと顔を寄せる。

耳元で副会長が囁いた。


「じゃ、秘密の共有者…で。」

「ぎゃーっ!!耳がっ!!」


予想よりなんか色っぽく囁かれて耳がくすぐったかった。耳を押さえて飛び退くと、マナーモードに入りかかってる副会長がいた。

……ちっくしょう!!隙あらばからかう方向性か!絶対面白がってる!

ぎりっと睨みつけるとようやっと笑いの波がおさまった副会長が、先ほどまでのことをなかったかのようにけろりとした顔で聞いてきた。


「そういえば、お前今日の放課後用事あるか?」

「何もないですよ?勉強室ですか?」


ここでけろりと答えるところが私が単純と呼ばれる所以なのだろうか。

副会長が予定を聞くと言うことは呼び出したいのだろう。


「あぁ、頼みたいことがあってな。」

「大丈夫ですよ。じゃあ行きますね。」

「俺は今日日直と掃除当番だから少し遅くなるかもしれない。先に到着したら待っててくれ。」

「わかりました。それじゃあここで、また放課後に。」

「あぁ、またな。」


そのまま副会長と別れて教室へと向かった。

注目は浴びたけど、一人になってからも特に誰に声をかけられることもなかった。


「おはよー由紀。」

「おはよう…。あんた周りの目を気にしないにも程があるよ…。」


由紀に呆れ顔で言われた。


「え?めちゃくちゃびくびくしながら登校した私になんてこと言うのさ?」

「副会長と堂々と仲良く登校してきたじゃない。途中内緒話してからかわれてたし。あれ、はたから見たら、普通にいちゃついてるだけにしか見えないよ。」


そんな馬鹿な!?普通に副会長と会話してただけなのに…!!


「美耶子は親しい男子の友達ほぼいないから、女子と同じノリで副会長と接してたらそりゃあ距離感近く見えるよ。それに副会長も友達少なさそうだから、お互い無駄に距離感が近いんだろうね。

どっちも心を許した人間にはたいていのこと許しそうだからものすごい親密になりそうなタイプだもん。結果、カップルの様ないちゃつき具合になる、と…。」

「うぅ…そんなつもりないのにそれは不味い…っ!!副会長とちょっと距離感考えてみるよぅ…。」


私の距離感って近いのかなぁ…と由紀におずおずと尋ねると、「私との距離感めちゃくちゃ近いじゃない。」と当然のごとく言われてしまった。え、全く意識してなかったんだけど私…。

まぁ内弁慶で、慣れるほど図々しく甘え出すからかな…?


副会長との距離感見直してみた方がいいのかもなぁ~…。



放課後、普通に堂々と生徒会館の勉強室に向かった。

こそこそと出入りに気をつけなくていいのが楽だ。


勉強室に向かうとペンネがまっていた。にゃおんと鳴いてすり寄ってくるペンネは相変わらず可愛い。

副会長はまだ来ていなかったので、ペンネとじゃれながら時間をつぶした。

ペンネは猫用のおもちゃとか好きなんだろうかと疑問に思い、試しにねこじゃらしを買って目の前でふりふりしてみたのだが、恐ろしい勢いで食いついてくれた。

初めは耳をぴくぴくさせながら「そんなものにつられたりしないやい!」みたいな感じで無反応だったが、目の前で左右にふりふりすると必ず顔がついてくる。

理性と本能の間で揺れ動く衝動はついに狩猟本能に傾いて、途中から本気で遊び始めた。

ペンネがもっともっととせがむので、やりすぎて手首が痛い。

そして段々眠たくなってきた。午後に魔法実技と体育があったせいだ。

もういいや。寝ちゃおう。

ペンネに副会長が来たら起こしてね、と言い残して机の上で組んだ腕にうつぶせになるように顔を乗せて寝ることにした。ペンネも私の真似をして、机の上で丸くなる。

二人でのびのびと夕日の差す勉強室で静かに眠った。







遅くなった。

まさか魔法実技で会長バカ二条院天理にじょういんてんりと当たるとは思わなかった。

なかなか決着がつかず、延長戦に突入して授業時間が終わってもまだ戦っていた。手を抜いて負けてもいいかと思ったが、白熱してるあいつに水を差すと後がめんどくさいし、ここで少しでも手を抜けば洒落にならないことになるのでこちらも本気で応戦するしかない。

派手で強力な魔法攻撃を遠慮なく打ちまくる天理に対し、複数の使い魔を操っていなし、防御させ、相殺させ、反撃する。力技でごり押ししようとしてくる天理を、手数と属性相性、連携で押し返す。

天理との魔法戦は楽しいのだが、長期戦になる。たいていはその日の体調やモチベーションで勝敗が分かれる。そのくらい実力が拮抗しているのだ。

教師も途中で止めてくれればいいのに、自分が担任だから大丈夫!このままホームルームを潰してしまえと率先して野次馬していた。仕事しろ。


ようやっと決着がついた時にはほっとした。なんとかホームルームの時間内に決着がつき、そのまま訓練場で簡単な連絡事項を済ませ、着替えたら各自勝手に解散という雑な終わり方だった。自由だな…それでいいのか……?

日直だからという理由で訓練場の簡単な片づけを任され、終えた後、更衣室で着替えていると、先に着替え終わって俺を待っていたらしい天理が話しかけてきた。


「偉く急いでるな。なんか用事でもあるのか?今日は委員も生徒会もなかったはずだろ…?」

「あぁ、中原を待たせてるからな。」


脱いだTシャツで軽く汗を拭って制服を着る。


「お前どんだけそいつのこと気に入ってるんだ……。俺との試合も早く終わりたそうに時間気にしてただろ。」

「あぁ、まぁな…。」


さっさとネクタイをつける。めんどくさい…。

若干返事も適当な俺を天理が意外そうな顔で見る。


「ところでその中原はどんなやつだ?可愛いのか?」


天理の言葉にちょっと考える。中原がどんな奴か…?


「外見は…灰色の髪のそこそこ可愛い普通の女子だ。あいつの親友の方がよほど目を引く美人だな。あぁ……写真写りが絶望的に悪いらしい。」


思い出してちょっと笑ってしまった。送られてきたあの写真は、本人の申告通り残念な写真写りの悪さだった。

つまりあいつの魅力の大半は、写真に写らない身にまとう雰囲気が大半を占めると言うことだろうか?大人しそうな第一印象だが、慣れてくるとくるくると表情が変わり、よく笑い、からかうとわかりやすく真っ赤になる姿がいいのだ。

確かにそれらも魅力なのだが、それだけではない。


「言われてみると、あいつのどこが、何がいいのか俺もわからないな…。」

「それはどうなんだ…?さすがに相手が可哀そうだぞ。」


だが……俺の心の一番柔らかいところに、初めて触れたのがあいつだった。

きっかけは幼いころの思い出だ。幼いころの約束を果たせると思って中原を特別視した。けれど今朝、中原の口から友達という言葉を聞いて、少し面白くなかった。俺が声明文の中で中原がどういう存在か明言しなかったのは、したくなかったからだ。

中原を友達と言い切ってしまえば、幼いころの約束も俺達の関係も、全てがそこで終わってしまうような気がした。だから明言しなかった。

特筆すべき長所があるわけではない中原と、なぜ一緒にいて楽しくて、そばにいたいと思うのだろう。


「なんかあるだろ。その中原だけの特別な部分とか。」

「特別な部分……?」


天理に指摘されて、ふとピタリと手が止まった。

中原は俺を特別扱いしない。されたことなどない。せいぜい眼鏡をかけた俺にテンションがあがる程度だ。けれどそれも眼鏡をかけた俺の姿が中原のツボらしいだけで、普段一緒に会話をしている時は、俺に非常に普通に接してくる。

以前そのことを指摘したときは「顔のいい人は遠くから見ていたいんです。別に中身に興味とかないから、関わり合いになる気がないですし。けど仲良くなるなら中身を重視します。副会長は、外見がたまたま遠くから眺めるのに適してるだけです。でも接していると段々中身が見えてきて、そっちが重要になってくるので外見は気にしなくなります。」と笑っていた。

実際、眼鏡をかけてるとき以外は、中原は俺を異性として一切意識していないように思う。俺をあまり見つめたりときめいたりはしない。たまに意識させようとからかったときにようやく照れる程度だ。それも半分くらいは単純に異性から急接近されて照れてる側面がある気がする。たまたま仲良くなった相手がたまたま俺だっただけだ。たぶん天理が相手でも、天理に仲良くなる気があればあいつは普通に仲良くできるだろう。

普通に挨拶をして、会話をして、メールをして、心配したらかけつけて、一緒にご飯を食べて笑って…それらは中原にとって、親しい誰かと当たり前にする行動なのだろう。

特別優しいわけじゃない。特別親切なわけでもない。特別可愛いわけでもない、中原は普通の女の子だ。けれど、何気なくて分かりにくいほど、人として当たり前に優しくて、当たり前のように誰かに親切にすることが出来て、自然と誰かの心配をしたり出来る、誰とでもそこそこ仲良くなれる普通の女の子が中原だ。


誰でも普通に、当たり前のように大切に出来る中原の、その特別な存在とはなんだろう?


どんな相手でもありのままに受け止めて、特別視せずに接してくれる普通の女の子。

そんな普通な女の子が、自分だけを特別に見てくれたら……?


「……特別な部分なんかなくていいんだ。」


すとんと自分の気持ちに答えが出たような気がした。


教室に戻って掃除と日誌を終わらせて天理と別れ、生徒会館へ向かう。

勉強室にたどりつくと、ペンネが俺をにゃおんと出迎え、中原は机にうつぶせて眠っていた。

以前に俺が寝たふりをしたので、あれの仕返しかとペンネの記憶を読んだが、普通に疲れて眠くなっただけのようだ。

ペンネが言われた通り中原を起こそうとしたので、俺はしーっと人差し指をたててペンネに静かにするように言った。

中原の髪は、長く差し込む夕日に照らされて、半分ほどが綺麗に夕陽色に染まっていた。

そういえば、中原は自分の白寄りの薄い灰色な髪の色があまり好きではないらしく、灰色と言われるのを嫌がって、自分ではかたくなに鼠色だ!と主張していた。どっちも一緒だと思うのだが、中原的に大事な部分らしい。

俺は夕陽色になっていない部分の髪をひと房つまみあげる。夕陽色の髪は綺麗だが、やはりこの鼠色が俺にとって特別なんだ。

中原は俺の髪色が綺麗で羨ましいと言っていたが、俺はこの鼠色が好きだ。

中原の性格によく似ていると思う。

どんな色にもなんとなく染まる。けれど純白ほど自分を主張しないし、はっきりしない曖昧な色味だ。けれどまっ白よりもほんのり暖かい。


俺の中で灰色が特別な色になった。


俺は中原の耳元に顔を寄せて、内緒話をするように囁きかけた。


「……中原のことが好きです。だから俺だけを、中原の特別にしてください。」


中原は、耳に息があたってくすぐったかったのか少し身じろぎはしたが、またすぐに穏やかな寝息を立てている。

今朝も思ったが、こいつ耳元で囁かれるのに弱いのかもしれない。

むにゃむにゃと寝言を言っている。


「ん……わぁ…眼鏡ぇ…やっぱり…副会長にはめがね……。」


おおむねどんな夢を見てるのか把握した。

そしてこの「副会長」は記号としての副会長だろう。残念ながら俺のことではない。俺の眼鏡姿にあいつがテンションをあげてるのも、あいつの想像する知的な眼鏡の似合う理想の副会長像に、たまたま副会長という肩書の俺がはまっていたからというだけの理由だからな。


「……がねの……く、かいちょ…が、すき…んにゃ…。」


どきっとしたのと同時にイラッとした。

前後の内容から察するに「眼鏡の副会長が好きなんです。」と言ったのだろう。おそらく理想的な副会長像という意味でだ。

自分のことではないとわかっていても、せっかく「副会長が好き」という単語を中原の口から聞けたのに、副会長の部分がほぼ会長と聞こえた。


「会長は俺じゃなくて天理だ……。ちゃんと俺を呼べ、馬鹿。」


とりあえずこれまでは気にしなかったが、副会長ではなく名前で呼ばせよう。切実に。

そんなことを考えながら、ようやくペンネと一緒に中原を起こした。


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