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サンドイッチと介抱

ペンネについて行くこと30分。

ほとんどは電車に乗っていた時間だ。ペンネが民家によじ登り、屋根を渡って行こうとしたのはさすがに止めた。

ユキヒョウのペンネならやってもさほど怒られないかもしれないが、人型のペンネと私が上ると絶対に怒られる。

電車で最短距離を移動して、あとはひたすら魔法で強化した足に、さらに加速魔法を付与しながらひたすら走った。


高層マンションの玄関にやってきて、ペンネが登録キーをかざすと私も一緒に入ることが出来た。

そのままエレベーターで11階まで上がると、奥から二つ目の表札が「星陵」だった。


「…副会長は家にいるの?でもどうやって入るの、ペンネ?」


新しい綺麗なマンションだし、セキュリティーもしっかりしてるだろう。防犯対策に玄関扉の耐魔法、阻害は万全だろう。開けようと魔法をかけた瞬間警備システムに通報が行くかもしれない。

中の副会長が意識がなかったら、私は入ることが出来ない。

なので聞いたらペンネは使い魔認証で玄関をすり抜け、内側でガチャリと鍵をあけて私を招き入れた。

そんな手段があるのか…。つまり私はペンネのお客として招かれたわけだ。


「…お、お邪魔しまーす。副会長?副会長ー!?」


玄関で靴をさっさと脱ぎ捨てて、廊下をすたすたと進むペンネを追いかけてリビングに入った。


副会長はリビングで倒れていた。

慌ててペンネと二人で駆け寄った。


「副会長!?どうしたんですか、しっかりしてください!!」


仰向けにすると呼吸が浅く、びっしりと汗をかき、ものすごく体温が高かった。身体からは視覚化されるほどの、膨大な藍色の魔力が漏れ出している。

意識を完全に失っている。


「病院に!えっと魔法治療院の方がいいのかな…?なんせ救急車を……え、ちょ、ペンネ携帯返して!!」


慌てて携帯を取り出したら、ペンネに取り上げられた。

ぶんぶんと首を横に振っている。病院に連れていくことはだめらしい。私を連れてきたのは、副会長を病院に連れていくためじゃなかったの?


「これ…私に何とか出来るの…?」


副会長は以前私を介抱してくれたことがあったけど、私に同じ真似が出来るとは……ん?


「もしかして…あの時の私と同じ…魔力酔いしてるの!?」


ペンネがこくこくと頷く。正解のようだ。ならばあの時の副会長がしてくれたように、魔力を奪ってしまえばいいんだ。


「ただ、私が副会長から魔力をもらったら、逆に私が魔力飽和を起こしちゃう…。もらった魔力をどうすれば…。」


そこでペンネがぎゅっと私の手を握る。


「ペンネに…渡せって…?それでペンネは大丈夫なの…?ペンネは倒れたりしない?」


ペンネは力強くにっこり笑って、こくんとうなずく。大丈夫のようだ。


「ええっと、私が副会長から魔力を奪い、自分の魔力に変換してそのままペンネに渡す。私の魔力に変換してる過程で、副会長の魔力は大きく減少するから、ペンネに移してもペンネの容量を超えることはない…という感じであってるかな?ペンネにはちゃんと魔力消費の能力もあるんだよね?」


私が確認のためにペンネに問いかける。ペンネも私の言葉にしっかりとうなずいてくれた。私が変換して取り込んだ副会長の魔力で倒れたことを考えると、私と副会長の魔力量の差はものすごくあるはずだ。

最初から一気に奪うぐらいでちょうどいいかもしれない。

私は深呼吸を一度して、ペンネの手をぎゅっと握り、もう片方の手で副会長の手を握る。

副会長は無防備な状態なので、私でも簡単に魔力を奪うことが出来た。というか飽和しすぎて魔力自身が外に出ようとしているせいだろう。

これは相当やばい状態な気がする。このまま悪化すれば命に関わるんじゃないの?今ですら危険な状態だし。

私は変換した魔力をうっかり自分で取り込んでしまわないように、自分の魔力ごとペンネに押し付ける勢いで流し込む。

ペンネはそれを受けて、身体全体で淡い燐光を放ち続けている。大量の魔力が放出されて視覚化されているのだろう。同じく視覚化されてる副会長の魔力とは違い、燐光を放ちながら、すぐにふわりと霧散する。正常に魔力を消費出来ているからだろう。

しばらくそのまま、魔力を奪って流す作業を続けていたのだが、なかなか副会長の魔力が減らない。

わずかには減少しているのだが、どれほど貯め込んでいたのか。次から次へと少し空間が出来るとすぐに、外に出ようとするように魔力が溢れてくる。


「何か…もっと効率よく、たくさん魔力を奪えないかな……。」


するとペンネが、繋いだ私の手を腕ごとぎゅっと自分の胸に抱きしめた。


「ペンネ…なにがしたいの?」


するとペンネに流している魔力の量が、少し増えた気がする。なんで?私は今もさっきも、変わらず全力で送り続けているのに…。


「…もしかして接触面積が増えると魔力も渡しやすくなるの?」


他に違いがないのでそういうことなのだろう。さっきまでは私は、ペンネと手しか触れていなかった。今は私の腕がペンネと接触している。

腕一本でこれならと思い、ペンネをグイっと抱きしめてみる。やっぱり比べ物にならないくらい、流せる魔力が増えた。


ならばその逆は……?


私は副会長の腕を胸元に抱え込んでみる。やっぱり、さっきより魔力が奪いやすくなった。

ならばやることはひとつだ。ペンネと二人で副会長の上半身を抱き起こし、そのまま私にもたれさせる。意識のない身体ってぐらぐらして重い。

頭を肩に乗せて固定し、上半身全体をぴったり密着させて抱きしめる。ペンネには、私の背中に抱きついてもらう。

副会長とペンネで私をサンドしたような形になった。これで両方との接触面積が増えて、奪うのも渡すのもやりやすくなるだろう。

案の定、先ほどまでとは比べ物にならないくらい、ペースが上がった。

そのまま意識を集中させて、ひたすら魔力を奪い、渡す作業を続けた。


今どれくらいの時間がたっているんだろう…?

ひたすら作業を続けていたら、ようやく副会長の魔力が漏れ出すのがとまり、徐々に魔力が奪いにくくなってきた。

たぶん今で、本来副会長が持っている魔力量になってきたのだろう。ただ、魔力飽和を起こした後なのだ。もう少し魔力を奪って、余裕を持たせておこう。

副会長は魔力が多いから、半分ぐらいまで奪ってもちょうどいいぐらいなんじゃないかな。

顔のすぐ横で聞こえる副会長の呼吸も、だいぶ楽になってきたようだ。よかった。

私とペンネの心にもやっと余裕が戻り、お互いに安堵の表情で笑いあう。

楽になるように、となんとなく副会長の背中を軽く叩きながら子守唄を歌う。ペンネが真似をして、私の背中を同じリズムで叩くのが可愛い。


トン、トトン、トン、トン


そうして子守唄が3週目に突入してきたころに、ようやっと魔力を渡す作業を終えた。

っていうか子守唄だから最後まで歌えなくて、同じところを延々ループしたりしてるんだよね。


ようやく作業を終えて大きく息を吐く。じっとしていたように見えて、ずっと魔法を使い続けていたのだ。めちゃくちゃしんどい。

そして、汗ぐっしょりで気持ち悪い。熱を出して体温の高い副会長と密着し、さらに背中からペンネにひっつかれていたのだ。集中していたので作業中は気付かなかったが、私も相当汗かいてた。


「うぅ…びっちょびちょで気持ち悪い…。副会長も汗ふかなきゃ今度は風邪ひくよね…。」


ようやく微熱程度に戻った副会長を、ペンネと二人でソファーに寝かせた。

副会長を寝かせるときに脇にどけたが、ソファーには取りこんだらしき洗濯物が置いてあったので、そこからタオルを拝借した。

決してタオルと一緒に干していたパンツとかは見てない。見てないんだ!


「さて…汗をふかなきゃならないんだけど…。ペンネ、一人で脱がせて汗ふいて違う服着せるの出来そう?」


と、ここでペンネが人型から元のユキヒョウに戻った。

ペンネも私もきょとんとする。


「え?ペンネさん、今戻られるのちょっと困ります。もう一回人型になってくれないかな?副会長の着替えをお願いしたいの。」


ペンネは私の問いかけににゃおんと返事をして、その場でもぞもぞと足踏みをする。あれ変化の方法なんだろうか。玉乗りしてるみたいな仕草が可愛いな。

しばらくペンネのもぞもぞを堪能していたが、一向に変身する気配がない。


「……にゃおん…。」


出来ない…、と言いたげなしょんぼりした返事が返ってきた。困りますペンネさん。


「これ…私が着替えさせないとだめなの…?」


仕方がないので、副会長の服のボタンに手をかける。というか休日なのになぜ制服なんだろう。学校に行く用事でもあったのかな?


「えっと…。すいません、副会長失礼します。」


なんとなく先に謝罪はしておく。そのまま、ボタンをひとつひとつ外していく。ペンネには副会長の替えの服をもってくるようにお願いした。

否応なしに鎖骨が見える。副会長は完全に寝てる。もう早く起きてほしい。前みたいにドッキリとかじゃないの?

私今、意識のない副会長を脱がせております。

うん、文脈だけ見たら変態じゃないか…。

さっきまでの抱きしめ行為は副会長がやばい状態だったし、人命救助の意識が強かったから何も抵抗とか羞恥心がなかったが、副会長が下手に回復して、危機的状況が去ったせいで、私に羞恥心が生まれてきた。

恥ずかしいよ!私だって年頃の女子なんだ。かっこいい男子の服脱がせろみたいな展開に、ドキドキしないわけがない!


「か、風邪ひくから!こんなに汗ぐっしょりな服着たまま乾いたら、絶対風邪ひくから仕方なくやってるだけなんですからね!」


誰にともなく言い訳しつつ、ボタンを全部外し終えて、何とかシャツを引っぺがしたが、まだ残ってた。いやシャツのボタン何個か外した段階で見えてたんだけど、Tシャツ着てる。

めんどくさい…。シャツもだったけど、中に来てるTシャツはさらにぐっしょりと肌に張り付いてるんですけど…水かぶったような勢いだよ。


「副会長…。副会長起きて下さい…。」


ゆさゆさと揺さぶってみたが、起きてくれなかった。ここで寝たふり決められたら、私副会長を殴る自信があるけど、さすがにそれはないだろう。

意を決して、副会長の両腕を頭の上でまとめる。やだ、卑猥ですね。Tシャツを脱がせるためですからね。

そろそろと脱がす。これ変にゆっくり脱がす方が、逆に変態くさいのかも。なるべく気にしないようにして、さっさと脱がせてしまおう。

意識しないように…しないように………。


するよ!

無理だよこれ!!

絶対無理だよ!この状況で平静保てる女子とかいないよ!


そしてとてつもない疲労を感じた脱衣作業の後は、身体を拭かなければなりません。

もう誰か助けて下さい。

誰も助けてくれないので、もうちょっと頑張ります。キッチンで濡らして絞ったタオルで、丁寧に副会長の身体を拭いていく。額から首、胸からお腹にかけて拭いていく。

余計なことは何も考えるな。悟りを開く勢いで菩薩となれ私。

副会長がたまに身じろぎしながら、ちょっとかすれた声を漏らすのがもうだめです。やめて!呻くな。変な気分になるだろ!!ガムテープで塞いでしまいたい。

腕を拭いて、背中も頑張ってソファーの下に手をもぐりこませて拭いた。

上半身裸の副会長に抱きつく形で、ちょっと背中を浮かせて拭く。だって一人で持ち上げるの出来ないんだよ!


ようやく終わったころには、とてつもない疲労を感じて床に座り込んでしまった。

魔法の作業より、ずっと体力と精神力をごりごりと持っていかれた気がする。

ペンネが持ってきた替えのシャツを着せて、ペンネに副会長の着ていたシャツを渡す。微妙に嫌そうな顔で咥えながらどこかに運んで行った。脱衣所にでも置いとくのだろう。

その後戻ってきたペンネが、咥えていたTシャツを私に渡してきた。


「洗濯済みのTシャツだけど、これがどうしたの?」


受け取ったままきょとんとペンネを見つめると、ペンネが私の服をペタペタと押してきた。汗かいてるんだから、今は服に触らないで欲しい。


「ん?もしかしてこれを替わりに着ろってことなの?」


尋ねると、そう!というように、にゃおんと鳴いた。有難く借りてしまおう。

さすがに寝てるとはいえ、副会長とペンネの前で服を着替えるのは抵抗があるので、洗面所でも借りようかと思ったら、ペンネがついて来いと言わんばかりに歩いて行くのでついて行くと、廊下の途中の扉の前でちょこんと座った。


「ここで着替えたらいいってこと?」


ペンネがにゃおんと返事をするのを確認して、そろっと扉を開けた。

寝室だった。ペンネが案内したのだし、副会長の寝室だろう。え?勝手に入っていいのここ!?

ペンネが案内したんだから私のせいじゃない、と言い訳しながらすばやく服を着替えた。私にはちょっと大きめのTシャツを着て、少し部屋の中を見まわした。

めちゃくちゃ綺麗というわけでもなく、かといって散らかっているというわけでもない具合に、部屋には生活臭が溢れていた。

ベッドのそばには寝る前に読んだのであろう本が数冊積んであるし、机の上にはやりかけの勉強道具が開いたままになっている。

ちょっと親近感を覚えながらふと机の上を見ると、眼鏡ケースがあった。

もちろん無言でそれを持ちだした。

廊下で待っていたペンネとリビングに戻り、副会長に眼鏡ケースから取り出した眼鏡をかけて、携帯で一枚だけ写真をとっておいた。

眠れる眼鏡の副会長の写真、ゲットだぜ。

一枚だけなのは、私の良心が咎めたからだ。撮られた時点で一緒かもしれないが、複数は自重して撮らなかった。

副会長、大丈夫です。絶対に他の人に見せたり、ファンクラブに見せたりしないことだけは固く誓います。

ついでにペンネにも写真撮ってもいいですかと尋ねると、ノリノリでポーズを決めてくれたので、ペンネ単体を数枚、寝てる副会長とのツーショットを一枚だけ、私とのツーショットを数枚撮った。

眼鏡をはずしてケースに戻し、リビングのテーブルに置いた。

と、ここで私もちょっと眠たくなってきた。時計を確認すると3時半だった。3時間近くずっと魔力の変換作業をして、その後さらに疲れる着替え作業があったので、私もだいぶ疲れているのだろう。


「ふあぁ~…やばい。一回眠いと思ったら、ものすごく眠たくなってきた…。」


副会長が寝てる反対のソファーに座り込むと、さらに睡魔が襲ってくる。


そのまま絶妙な沈み心地のソファーの誘惑に負けて、私はのろのろとソファーに頭を預ける。


「ちょっと…寝る…。おやすみ、ペンネ…。」


ペンネが私の胸元に乗ってきたので、ペンネを抱き枕にして、ペンネの心地よい重みを感じながら眠りについた。

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