第六話 俺は仲間を助けるために魔法使いを倒します
俺は仲間を助けるために魔法使いを倒します
俺たちはいきなり現れた悪魔の王の名の魔法使いから逃げるために空間の亀裂の中に入るのを余儀なくされたあとだった。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁあああぁぁぁぁああああああ」
亀裂の中は案外、いや意外にも不安定で体が何回も回転しているのような感覚が全身を包む。
そんな状態が何分か続いたがいきなり終わり、どこぞの場所に落ちる。
現在、俺たちは空の上に漂流していた。
「って、なんじゃそりゃあぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
俺は俺と同時放り出されたであろう京子の方を睨んだ。
「だってだって、信五さんが急かすから空になっちゃったんじゃないんですかぁ!」
京子もこんなことになるとは思っていなかったらしい。
「今から地面に移動はできないのか!」
俺は全身でバランスを取り叫ぶ。
「さっきので力を使い果たしました!」
「神様、マジ使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!!」
チクショウ! なんで俺のパートナーはこんなんなんだ! もっと強い神様にパートナーになってもらうべきだった!
「違う、今はそんなことを考えている時間はない。まずはどうやってこの状況を脱するかだ」
俺は辺りを見回した。見えるのは深い森と黒く染まった空だった。てか、ここは地球ですか?
「……これだ!」
俺は京子のいる場所までなんとかして行き着き京子を抱く。
「え? ええ!! ええぇぇぇぇえええええ!!!!!!!?????? なんですか! なんなんですか!!」
今は説明してる暇はない。この作戦にはタイミングと精神力が必要なんだ。
「行くぞ!」
俺は掛け声と同時に京子を上に投げる。
「はいぃぃぃぃぃいいいいいい??????」
投げられた京子は何がなんだかわからずおどおどしているが今は関係ない。
俺は体を狭ませ空気抵抗を弱める。
ここからが重要だ。俺はさっき辺りを見回して一番高いふわふわしていそうな木を見つけた。それを利用して着陸しようと思ったが問題は京子だ。あいつはそんなことできそうもないし、かと言って無理にやらせれば確実に失敗は逃れられないだろう。
だから、俺が先に着陸し、京子を下でキャッチする。それが一番だと思い今、実行に移している。
「行くぜ!」
俺は木に突っ込む前に一気に服を広げ最大限の空気抵抗を与えさせ少しでも着陸の被害を弱めた。
案の定、木は柔らかく難なく着地できた。
「あとは……」
きゃあぁぁぁぁああああっと声をあげながら落下してくる京子を俺はお姫様だっこの形でキャッチしすぐに下ろしてやる。
「あ、ありがとうございます……じゃなくて、やることをちゃんと言ってから行動に移してくれませんか!? 私かなり怖かったんですけど!?」
ああ、そりゃあ、悪かった……と言わないぞ? 助かっただけ得しただろ?
「で? ここはどこなんだ?」
俺は辺りを見回しながら聞く。
少なくてもここが日本や中国ではないことはわかる。例えるなら熱帯地方のジャングルだ。いや、それにしては熱くない。なら、ここはどこなんだ?
「何を言っているんですか! さっきの人が連れ去られたところですよ! まあ、ジャンプには失敗しましたけど、場所は合っています!」
胸を張って言っているがそこで胸を張るか?
「てことは出るところは違えど場所は合ってるってことか。さて、ここからどうやってあいつを探そうか」
俺が京子に言うと京子はなにも言わず俺の後ろの方を黙って指差した。
「なんだ?」
俺が振り向くとそこには――
「敵ですか」
そう、敵がいた。いたにはいたんだが数がすごいぞ。見ただけでも三百は超えてる。
「あそこだ! あそこに侵入者がいるぞ!」
ひとりの魔法使い(飛んでいる)が叫ぶ。
「なあ、あいつらって倒してもいいんだよな?」
俺が問う。
「はい。てか、倒してください!」
京子は慌てたように答えた。
「せっかくだ。腕試しにはなってくれよ!」
俺は駆け出した。魔法使いの大群に向かって。
「き、来たぞ!」
魔法使いが向かってくる俺を仲間に伝えるため叫んだがもう遅い。
「おせぇよ!」
叫んだ魔法使いを俺は容赦なく吹っ飛ばす。
「ほら行くぜ! 魔法使い無双だ!」
魔法使いたちは一瞬震えたがすぐに態勢を立て直し、防御態勢にはいる。
「守れぇ! 守るんだ!」
指揮官らしき人物が叫ぶ。
俺は他の魔法使いを無視し指揮官らしき人物のところまで走る。
「テメェが指揮官か!」
答えを聞く前に俺は吹っ飛ばした。
すると、魔法使いたちは指揮官を無くしオロオロしていたがすぐに防御から攻撃に切り替え俺を攻撃し始めた。
「いいねいいね! その調子だ! もっと俺を楽しませろや!」
俺は魔法使いを吹っ飛ばし、または魔法を破壊した。そうやって次々と魔法使いを一掃していった。
「はははは! よえぇなぁ!」
そんな攻撃は俺にとって攻撃でもなんでもないぜ!
「く、クソッ! なんだ、コイツは! ま、魔法が効かないぞ!」
魔法使いたちは皆一同に驚き、そして、恐怖の顔を浮かべている。
「お前らじゃ相手にもならんぞ! てか、俺がここに来たのはお前らと戦うためじゃない、俺の仲間の……えーっと、なんだっけ? と、とにかく、銀髪美少女を助けに来たんだ! 誰か知っている奴はいないか?」
魔法使いたちは信じられないといった顔で話し込む。
「や、奴は下級魔法使いだぞ! そ、それも恐れ多きことにベルゼブブ様に逆らったとのことだ。きっと今頃……」
俺は地面を上を足の裏で強打した。
なんだって?
逆らった?
ベルゼブブに?
ふざけるな! あいつは勝手に約束され、勝手に破ったと言われただけだろうが!
「ふざけるな」
俺の口から声が漏れる。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」
魔法使いたちは一歩後ずさる。
「てめぇらの勝手な思い違いと考えで勝手に決めんなよ! 相手は悪くないぞ! 悪いのはそのベルゼブブじゃないか! なんであいつが罰を受けなきゃならないんだ!」
「あいつ、今呼び捨てで……」「こ、殺されるぞ、あいつ」などの声がするが関係ない。そいつの方から来てくれるのなら願ったりだ。ベルゼブブが間違っていることを俺の拳で教えてやらぁ!
「出せよ。ベルゼブブを出しやがれ!」
俺が叫ぶ。それに応えたのは聞き覚えのない大人のものだった。
「今は処刑の準備中でね。この私でよかったら君の相手をしてあげないこともないよ?」
二枚の大きな悪魔の羽を生やして飛んでいるナイスガイは俺にそう言ってきた。
「誰だ、お前は!」
「そう、早まるな。私はルシファー。文字通りルシファーと契約した魔術師さ」
俺の周りに戦意損失したみたいに倒れていた魔法使いたちは一気に戦意を取り戻したかのように立ち上がり雄叫びをあげる。
「サタンの別名ってことだけはあるってことか」
「果たしてそれだけかな?」
今、目の前を飛んでいた悪魔ルシファーは一瞬で消えて気づくと俺の後ろに立っていた。
「な、なに!?」
俺が振り向く瞬間を与えないかのようにルシファーは俺の腹を蹴ってきた。
「ぶはっ!」
小腸や大腸がかき乱されたみたいな感覚がする。
「私とサタンはほとんど同じだ。強さにもさほどの変わりはない。それがどういうことかわかるかな?」
ニコッと微笑みながら言ってくるナイスガイ。
「は、はは。ナイスガイさんよ。笑顔の裏に何らかの恨みが込もっているように感じるのは気のせいかい?」
俺も負けじと微笑みながら言ってやる。
「おやおや、それは気づいても言わないのがナイスガイなんだけどね!」
言っている最中に消えて言い終わる前には俺は今度は膝を蹴られた。
「クッ」
こんな戦いをすればこのあとの戦いどころか今後一切戦いすらできなくなるぞ。
「わかっただろう? 君と私では基本スペックが違いすぎるんだよ。ここで帰ってくれるのなら君の命までは取らないよ。どうする?」
聞かなくてもわかっているんだろ? 俺がどうするかなんてよ。
答えはノーだ!
「お前のいう事を聞くのは俺のしょうには合わん! ここで倒れるのはテメェだけだ!」
ナイスガイは少し驚き、そして、何が面白かったのか笑っている。
「な、にが面白いんだ」
「いやいや、すまない。本当にサタンの言う通りだと思ってね」
サタンの言う通り? サタンがこの状況を予知でもしていたとでもいうのか?
「どういうことだ?」
「君には是非ともサタンと戦って欲しいね。でも、先に私が見つけてしまった。その先に何が待っているのかはもはや神のみぞ知るってやつさ。だが、君はきっとサタンまで追いつく、いや、きっと追い越してしまうかもしれないな。それはこっちとしても最悪の事態だ。いや、それ以前の問題か」
何を言っているのかまったくわかんないぞ? 誰か、こいつの言っていることを訳してくれ!
「おやおや、その顔は意味わかんないといった顔だね。まあ、簡単に言うと私を君の仲間にしてくれということだ」
はい? なんで今のやり取りでそういう結果に行き着くんだ?
「実はね? 今君にした攻撃は一撃で人間界にいる生物は百パーセント死んでしまう攻撃なんだ。君も感じただろう? 中身が移動する感覚を。だが、君はその攻撃を二回受けても死ななかった。これは由々しき事態なんだ。今の攻撃で人間が死なないということは」
俺の中にただ疑問だけが広がっていく。
「まあ、これも簡単に言うと君は必ず死ぬ攻撃を受けても死ななかった。そういうことだよ」
最初っからそう言えや!
「どうかな? 君たちの仲間にしてはくれないかな?」
俺が京子方を見ると京子は断固としてダメと首を振っている。
だが、俺はその逆の考えを持っていた。
「その前に一つ聞きたい」
「なにかな?」
俺が聞きたいのはただ一つ。
「俺の元にあいつを忍ばせ俺を討とうという作戦を立てたのはサタンか?」
ナイスガイは首を縦に振っている。そうか、なら話は早いな。俺が一番しなくちゃならんことはサタンの野郎をぶちのめすことだ。
「いいぜ。ただし、条件付きだ」
ナイスガイは首を傾げながら条件を聞く態勢に入っている。
「お前にやってもらいたい事が三つある」
「なんだい?」
「一つ目は今後一切俺達の前に魔法使いを出さないでもらいたい」
これは銀髪美少女の処刑の時間までの時間稼ぎをさせないためだ。
「二つ目に現在のベルゼブブの場所を知りたい」
これは銀髪美少女の場所を知ると同時にベルゼブブを殴れるからだ。
「最後にサタンの居場所を言ってもらおうか」
今まで温厚な顔をしていたナイスガイが困った顔になった。
「な、なぜだい?」
これはきっと三つ目の質問だろうな。
「俺が今、一番ムカついてるからだ」
俺が言うとナイスガイは溜め息をしてからやれやれと首を振っている。
「奴は倒せないよ。魔王なんだ。名のとおり、ね」
なんだそれ。俺を止めるのにそんな言葉は俺を馬鹿にした言葉だな。
「名前がなんだ? 要は強さなんだよ。俺は必ず勝つさ。そのサタンとやらに」
俺がさも普通といった顔で言うとナイスガイはさらに困った顔をする。
「そうじゃないんだ。今の君ではサタンには勝てない。君はまだ開花していない花なんだよ。わかってくれ」
それは無理な相談だ。俺が仲間だと決めたやつを傷つけたやつは俺がその身をもって思い知らせないといけないだよ。
「それに……」
ナイスガイが首を傾げる。
「それに人間が魔王に勝てないなんて誰が決めたんだ?」