第四話 俺は小手調べに付き合わされる
俺は小手調べに付き合わされる
現在俺たち(俺と自称神様京子)は俺の家にいる。
「あの……」
「なんだ?」
そして俺たちはまさに今夜飯をしているところだ。
「私の事をあなたに紹介しましたよね?」
「ああ、そうだな」
俺はよくアニメやゲームの中でのみ食べられるとされていた両側に骨が突き出た大きい肉にがっついていた。
「でも、私はあなたの事を知りませんよ?」
京子はキョトンとした顔で聞いてくる。
俺はそれを聞いて肉を食べる手を止めた。
俺、自己紹介したよな? 確か……あれ? 俺ちゃんと自己紹介してなかったっけ。
「……」
「自己紹介するのにそんなに悩みますか!?」
京子がツッコミならぬツッコミを入れたことで俺は致し方なくすることにした。
「俺は神谷信五だ」
「……え? それで終わりですか?」
これ以上に自己紹介と呼べるものがどこにある?
「ああ、終わりだ」
俺は顔を京子から夜飯に戻しまた食べ始める。
この肉の焼き加減といい、味付けといい俺は天才じゃないかと思うよ。
「って、もうちょっと詳しく教えてくださいよぉ」
俺はしばし考え、京子方を向いた。
「俺は今、肉を食っている」
「え? ああ、そうですね……待ってください、もしかして今のが自己紹介だとでも言うのですか?」
ああ、めんどくせぇなぁ。
「ああ、わかったよ。俺は神谷信五、十七歳、四月五日生まれ、身長は百七十七センチ、好きなものは肉と強い奴、今欲しいものは俺より強い奴だ。これでいいか?」
「ああ、それなら――とでもなると思いますか?」
まあ、普通ならないだろうな。
「俺ってさ、自己紹介ってまんましないんだわ、だから俺、何喋っていいかわからん」
いつもは自己紹介する前に助けちゃって逃がしちゃうし、てか知っている奴は知ってるらしいけど、それも組潰しの信五って言うのだけだし。
「まあ、それならしょうがないですね。ん?」
京子は辺りを見回して不審がっている。まあ、なんとなくわかるけどな。
「し、信五さん」
「落ち着け、誰かいるのはわかるがまだ場所がわかんない」
そうだ。俺の家についさっき誰か入ってきた。しかも人間だと思うのに姿がまったく見えない。
「で、ですけど」
俺は京子の言葉を流し、感覚にすべての神経を費やす。
すると微かだが後ろから気配がする。試して見るにはいい機会だろう。
「おっと、手が滑っちゃった」
そう言って俺はわざと手に持っていた食べかけの肉を後ろに思いっきり投げた。
ゴンッと壁じゃなくその一歩手前で肉は何かにぶつかり落ちた。
「そこか!」
俺が飛びかかるとそこには京子にのも負けない、いやむしろ勝っているんじゃないかと思うくらいの長髪銀髪美少女が尻餅をしていた。
「いたたた、何すんのよもう」
ちなみに俺はこの美少女を知らないはずだ。
「どうするべきかな、こいつ」
「そうですね、とりあえず縛り上げればいいかと私は思いますよ?」
そっか、じゃあ縛り上げるとしますか。
「え? ちょ、待って、なんで透明化の魔法解けてんの? じゃなくて、待ってぇぇぇぇええええ!?」
俺と京子は問答無用で目の前に倒れて泣き目になっている美少女を縛り上げた。
「で? お前は誰なんだ?」
俺は器用に縛り上げられた美少女に聞いてみた。
「ん、んんん、んんんん!」
なんだ、よく聞き取れないな。
「信五さん、口に縛ったままですよ」
ああ、そっか、そういえば縛った用な気がする。
俺が口の縛りを解くと少女は叫び始めた。
「鬼畜! 人でなし! こんな可愛い女の子になんて格好させるのよ!」
ちなみに今の状況を説明するとさっきまで俺が座っていた椅子には今はロープで両手両足を縛られ身動き一つできなく、もう一ついうとかなりエロい格好で縛られている。
「なあ、京子」
「はい?」
「やっぱり、裸で縛った方が静かになったような気がするんだ」
「ああ、そうですね」
え? ええ? ええぇぇ? と反応してくる少女、しかも一言言うたびに顔が赤くなっていく。これは萌えるねぇ。
「たたたたんま! タイム! ちょっと待ってぇぇぇぇええええ!!」
少女はガタガタと椅子を揺らして訴えて来る。
「なんだ? 今、お前を裸にするかしないかで会議をしているんだけど」
「だから、それを待てと言ってるのよぉぉぉぉおおおお!!」
まったくうるさい女だなぁ。
縛られながらも少女は銀髪を揺らしながら言った。
「いい? 私はこれでも上級魔法使いよ? こんな仕打ち、あとであなたたち後悔するわよ? わかったらさっさとこのロ――」
「へー、お前、魔法使いなのか」
ということは俺のところにやっと敵が現れたわけか。いいねぇ、腕がなるぜ。
「へ? なんで、驚かないの? 魔法使いよ? 怖いでしょ?」
「いや? 全然怖くないし、驚きもしねぇよ」
ガーンっと聞こえてきそうな勢いで銀髪美少女は青ざめていた。
「なんてこと、魔法使いを怖がらない人間が存在ているなんて」
どうやら、真面目に落ち込んでいるらしい。
「それで? お前さんがここに忍び込んだ理由を聞かせてもらおうか」
ハッと我に返ったのか、銀髪美少女は頭を上げた。
「そうだったわ、あなた、今回の人間代表と見ていいのよね?」
「ああ、そのつもりだがそれがどうした?」
にやりと少女は笑い、言った。
「なら、私と勝負しない? そうね、場所はあなたが指名してもいいわよ?」
勝負? 勝負だって? いいねいいね、俺も戦いたいと思っていたんだよ魔法使いとな。
「いいぜ、場所は前にこいつと戦った場所がいいかな」
と京子の方を振り向き聞いた。
「いいですね……じゃなくて、なんでそんなに勝負をしたがるんですか、あなたは!?」
よし、了承は得たな。さて、移動でもしますか。
「ち、ちょっと、何勝手に私の体を触ろうとするのよ、あ! そ、そこ触っちゃ!」
と声を出している、少女を無視しロープを外す。
「で? 場所はどこなのよ」
「来ればわかるさ」
と俺は外に出るとジャンプで隣の家の屋根に上りそのまま駆け出す。
「ちょっと、待ちなさいよぉ!」
その後ろを少女が必死でついてくる。
京子はというと家から出ようともしなかった。きっと俺の勝ちだと思い来ないつもりだろうがそんなのは俺には関係ない。
家の案外近い場所にある公園(こないだ、京子の神獣四匹と戦った場所でもある)に着くかいなや俺たちは距離を取りいつでも開始できる態勢に入っていた。
「さあ、始めようぜ。イッツ、ゲームスタートだ」
「言われなくてもあなたのその軽口を今すぐ閉ざしてあげるわよ、この私を縛り上げた事を公開することね」
そう言って少女は何処からともなく杖を取り出した。
「行くぜ行くぜ行くぜ!」
俺は何も考えず突っ込んでいった。
「魔法陣展開」
少女の真下に魔法陣が作られていくが俺は速度を緩めず突進する。
「火よ、火の精霊よ、そして、契約されし悪魔マモンよ、我の体を使い、そして犠牲にしその力の片鱗を与えよ」
それを聞いて俺は突進をやめ後退する。
異様な名を聞いたからだ。マモン、確か悪魔の名前だったはずだ。しかもその名の意味は……
「強欲……だったかな?」
「あら、よく知っているわね。そうよ、マモンは七つの大罪の一つ、強欲を司る悪魔よ」
これはこれは、悪魔と契約しているとはホントに魔女ってのは悪魔と契約が必要なんだな。
「はあ」
俺は深い溜め息をした。
「あら、もう諦めたのかしら?」
違うな。これは諦めの溜め息じゃない。勝つための最善の方法を考えるための行動だ。
「かっこいいだろうな」
「?」
「悪魔と契約した魔女に勝てたらそれはかっこいいだろうなぁ、いや、絶対にかっこいい」
少女は首を傾げ俺をおかしいんじゃないかという顔をしている。
「あなたおかしくなったの?」
心配は無用だよ。俺は今以上にテンションが高く、冴えていた事はあまりないぞ?
「まあ、いいわ。マモンよ我に力を与えよ」
少女の持っている杖に火がつきやがて炎と変わった。
「紅蓮の炎よ、罪深き神、人間に永遠の罰を与えよ」
杖を俺の方に向けたかと思うと杖から炎の玉が飛んできた。
「さあ、来い!」
俺はそれを受け止める態勢に入った。炎は俺に向かって真っ直ぐに向かってくる。
炎の玉が当たると同時に土煙と爆風が辺りを吹き飛ばす。
「まさか、こんなに簡単に決着がつくとはね、まあ、人間ならこれくらいが限界か」
と勝ち誇ったように言って立ち去ろうとする少女。
「おいおい、何言ってんだ? 俺はまだ倒されていねぇぞ!」
俺は右腕を真横に振ると土煙がかき消された。
「な、なんであれを受けて生きてるのよ!」
俺はニッと笑うと言ってやった。
「あんなのが攻撃なのか? 風呂にでも入っているのかと思ったぜ! やるからには本気で来いよ!」
少女はまたも杖をこっちに向け炎の玉を打ってきた。今度は連射だ。
「これでもうよけられないわよ!」
はは! 避けるなんてそもそもしねぇよ!
俺は炎の玉をパンチで消し去る。
「な! そんなこと人間にはできないはず」
そんなこと知らねぇよ! できるんだからできるんだよ! それ以上の説明は無用だぜ!
「オラオラオラ! どうしたよ! こんなもんかよ!!」
俺はニヤニヤが止まらない。
楽しい、楽しすぎるぜこの戦い!
「クッ、水よ――」
「おせぇ!」
少女が言葉を唱える前に少女の目の前まで走る。
そして、少女が手にしている杖を蹴りで弾き飛ばす。
「な、んで」
俺は弾き飛ばされた腕のせいで仰け反ってしまった体にとても弱い力で正拳突きを放った。
「きゃ!」
俺の家で骨をぶつけられた時と同じく尻餅をつき今度は変な声を出している。
「俺の勝ちだな」
まあ、当然だけど。
「……!?」
少女は鋭い目で睨みつけてくる。
「そんな目をしても勝ちは俺のもんだぞ?」
「……ホントに」
なんでこう女っていうのは聞き取りづらい声で話すんだ?
「ホントにあなた人間?」
なおも少女は泣き目で睨みつけてくる。
「?」
なんか意味わかんないこと聞いてるぞ?
「だから、あなた本当に人間なの?」
そう聞いてくる少女に俺はしばし考え、まとまったところで手を差し出して言った。
「俺以外にこんなにハキハキした人間はいないと思うがな」
少女は京子と同じく口を開けて呆れていたのだった