第十八話 ランスロットは誓いを裏切らない
ランスロットは誓いを裏切らない
あの男に負けてよかった。
別に本気を出さなかったわけでもなく。私は本気であの男を殺そうとした。
だが、私の本気はあの男に通じず負けた。私は剣も持たない者に負けたのだ。
あんな奴初めてだ。私を本気にさせておいてあいつは喜んでいた。戦いを喜んでいたのだ。全く馬鹿なのだろうか、あの男は。
「はあ、そんなことを考えたところで私に何のメリットがあるというのだ」
私は嘆息した。
愚かだ。まったくもって私は愚かだ。負けてなお私は良かったと思ってしまっている。
私が配置されたのは東西南北で三番目に軍が多いところらしい。一番多いところはあの男が配置された。まあ、愚問だろうな。
「さて、軍を一人で相手にするのは初めてだ。はじめから本気を出して行こうか」
私は纏っていた鎧を脱ぎ身軽にする。
そして、腰につけておいた愛刀アロンダイトを抜く。
砕かれたこの剣はなんと全て繊維状に砕いたとあの男が言うので試しにくっつけてみるとなんとホントに繊維状に砕かれていた。
なので、私は接着部分を熱してくっつけ元通りの剣を持っていられるのだ。
「まったく、あの男ときたら『本気のお前とやりたいから修復できる程度に砕いた』などと言いおって。私が本気を出していなかったとでもいうのか」
あの男のことを考えるとどうも虫の居所が悪くなる。一度闇討ちでもしてみようか。
「何を考えているのだ私は! あれでも私をまたアーサーに仕えせさせてくれた人だぞ」
ああ、もう! あいつはなんであいつなのだ!
私はイラついて近くにあった岩をアロンダイトで切り刻み砂に変えた。
「そもそも、あいつはなぁ。おかしいのだ。とってもおかしいのだ。とてもとってもおかしいのだ」
傍から見れば私がおかしく見えることに気づき私は再び座った。
「それ以上行かすわけにはいかないな」
何も見えないが何かが私がいる場所より先に進もうとしているのだけは分かる。
「ほほう、わかるのか」
「まあ、な」
殺気や気配を消してはいるようだが感覚でわかるのだよ。
「さすがはランスロットというべきか?」
「案ずるな。そんなの誰だってわかった」
ふふ~んという情けない声を上げる人物。
「軍はどうした。お前一人か?」
「いんや、俺は偵察みたいなもんだ。強い奴はいつだって先頭を行かされる。望んでもいないのにな」
それには私も賛成だ。強い奴はいつだって先頭だ。そして、死んで英雄となる。
「私はランスロット卿。お前の名は?」
「俺はクー・フーリンだ」
クー・フーリンだと!?
「まさか、手に持っている銛はゲイボルグか!」
二ヤッと笑った男の口元。
投げれば30の鏃となって降り注ぎ、突けば30の棘となって破裂すると言われた槍なのか!?
「だったら何さ? 俺たちが戦う宿命は変えられないぜ?」
男は槍をこちらに向ける。
はは、私の命もここでおしまいか。せっかく助かった命だが最後までこの約束守ろう。
「私より後ろは一歩も踏ませんぞ!」
「安心しろ俺は踏むつもりはない!」
両者同時に駆け出す。
敵の動きは遅い。鎧を外した私に追いつける者など存在しないのだ。
「見ろ! 瞬足の馬の足と呼ばれた私の速さを!」
私は速さで敵を翻弄する。いける。行けるぞ、この戦い。
「だからどうした!」
敵はゲイボルグを突き刺す。だが、それは私には当たらない。
「オラオラオラオラオラ!」
ゲイボルグの突きの早さが増す。
「何!?」
ついに私に掠り始めたゲイボルグ。突くたびにゲイボルグから出る棘のせいで攻撃範囲が広くなっていっている。
「どうした! その程度かよ!」
「グ、ハッ」
私にゲイボルグが直撃した。30もの棘が私の中身を次々と貫通していく。
「もう動かないのか? なら、最後だ。……何!? う、動かない!」
ゲイボルグが突き刺さったままの私はゲイボルグを掴んでいた。
「わ、私は負けられぬのだ。私は負けてはならぬのだ!」
そして、私は愛刀アロンダイトでクー・フーリンの心臓を突き刺していた。
「ブハッ」
クー・フーリンはその場で崩れ落ちた。
「安心しろ、私もすぐに行く。お前たちの軍を撃退してからすぐにな」
私は覚束ない足で立ちはだかる。
遠くから大勢の人が見える。来たか。
「ここから先には何人たりとも通らせん!!」
すまぬ。私はどうやらお前の騎士は無理だったらしいな、アーサーよ。
だが、今はまだお前が主だ。この命尽きるまでここは死守して見せようぞ!
私の頬を一雫の涙が伝う。
ランスロットぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!
どこまであなたは騎士道を貫くつもりですか!
次回もよろしくお願い致します。




