第一話 神様なんて俺は信じない!
神なんて俺は信じない!
もしもこの世に誰にも負けたことのない人間がいると仮定しよう。
たぶんその人間はその力を悪用して世界征服だって一人でこなしてしまうだろうか?
またはその力を誰かのために使うだろうか?
正解はどっちもノーだ。
だってそんなのつまらないだろう?
神にも匹敵すると謳われた人間が世界征服?
小さいな。
誰でも守れると期待されてきた人間がヒーロー?
ありきたりすぎる。
どうせそんなつまらない力なら全てに使うのが道理ってもんだろう?
そう、その考えを神谷信五は五歳の時点で心に浮かべていたのであった……。
「だ、誰かぁあ!」
ビルの裏から女性の叫びが響き渡る。
その女性に容赦なく男は殴りかかった。
「いやぁあ!」
だが、その拳が女性には当たらなかった。いや、当てられなかったのだ。
「女性に手を挙げるのは肝心しないな」
そう、神谷信五が男の手を掴んでいたのである。
「何もんだ!」
信五は気づかないのかと言いたげな顔をしている。
「俺のことがわからないわけ? この神谷信五のことが?」
「神谷……信五?」
一度男は名前を唱えると今度は震え始めた。俺に怯えているのだ。
「な、なんで組潰しの信五がこんなところに!」
その呼び方はやめてほしいんだがなー。
組潰し。神谷信五は今までにヤクザの組をことごとく潰してきた。理由は気に食わなかったから。
「とりあえず、その手を引いてくれると助かるんだけど」
男は一歩後ずさったがすぐに態勢を整えた。そしてボクシングスタイルに入る。
「運が悪かったな! この剛力のサミッド様の前にノコノコと現れるとわな!」
言うと男は右ストレートを放った。
だがそれは俺まで届かない。それよりも先に俺がノーモーションの左ストレートが直撃敷いていたのだ。
「な、んで、だ?」
男はきっと何をされたのかわからないんだろう。当然だ。普通の人じゃ今の攻撃は見えないんだから。
「なんか勘違いしてるみたいだから言うけど、俺が助かるんじゃなくてあんたが助かるんだぞ? まあ、もう遅いけど」
言ったときにはもう男はのびていた。これじゃあ俺の話は聞いてはいないだろう。
「まあ、いいんだけど」
俺は女性の方を向くと語りかけた。
「大丈夫か? 見たことケガはなさそうだけど……」
女性(いやよく見ると少女か)が目を輝かせてこっちを見ている。
「な、何?」
少女は小さな声で何かを言っている。よく聞き取れないが……。
「……と見つけた」
「え?」
もう一回言ってもらえないかな?
「やっと、見つけた!」
何を見つけたって?
少女は俺を見て同じことを何度も繰り返している。
「ち、ちょっと待て! 俺を探していたのか? でもなんで?」
俺ってそんなに人気者? まあ、知ってる人は知ってるみたいだけど。
「私、アルガラス・ミランデ。神様です! あなたをずっと探していたの!」
外国人かな? それにしては日本語が……。
「って、今なんて言いました?」
「え? だから神様ですって……」
待て待て、神様っておふざけにもほどがあるぞ。
「ここは危ないです! ここにあいつらが来ます!」
ああ、この子はさっきのケンカを見てきっと頭がやられたんだ。急いで精神科に連れて行かなくては。
「来るって、誰がだ?」
きっとこの子の気のせいだと思うがなんとなく気になる。
「私と同じ、ううん、もっと強い神様です!」
少女は明らかに焦っている。何かに怯えているようにも見える。
「神様ってお前そん――」
なのいないと言おうとしたら後ろから何かが落ちてきた音がした。
音の大きさからしてかなり重いやつだ。
「まさか、な」
俺が振り向くとそこにはさっき倒したはずの男が立っていた。
「立てるはずないのに」
「さっきの人とは違います。これは催眠系の神術です」
そんなわけあるかよ。この世に神はいない。いちゃいけないんだ。
だっていたらこの世界のバランスってものが崩れるじゃないか!?
「ころ、す、コロス!」
男は目を血走らせて言ってくる。だが様子が変だ。視線がズレてる。
「な、なあ」
「なんですか?」
これはもう信じるしかないだろう。今だけはこの少女を。
「どうすればあいつを助けられる?」
相手は犯罪者だ。だけど同時に人間でもある。この世に生を持ったものは何かしらのすべき事を持って生まれてくるんだ。
「あの人を意識ごとシャットダウンすればなんとか……って絶対に無理ですよ! そんなこと人間にはできません!」
できないって言われたらやりたくなるのが俺の悪いところだよな。
「無理だって?」
「ええ、今、目の前にいるのは人間の皮を被った神に等しいんですから」
へー、神様か。
「神を倒したらかっこいいと思わないか?」
俺の顔がニヤつく。ああ、きっとかっこいいだろうなぁ、神様ってのを倒せたら。
「かっこいいとかの問題じゃありません! 死んでしまいますよ!」
「大丈夫、負ける気がしないから」
感覚的に、見た目的に、そしてなにより俺の心が負ける気がしないと叫んでいる。
「よっしゃぁあ! ゲームスタートだ!」
男は俺に突進してくると勢いを弱めずぶつかってきた。
俺はそれをあえて受けた。
「なんで逃げないんですか!」
「わかってないなぁ。相手の強さを知るためにはまず相手の攻撃を喰らう事なんだよ」
そして今俺は攻撃を受けた。これで俺が勝つことが証明されたのだ。
「残念だな、神様とやら。俺に負けた人間に術をかけても所詮は俺が倒した人間だ。どんなに強化しようが俺が負けるはずがない」
俺は男の頭を鷲掴みにした。そして持ち上げると空高く投げた。
「神谷信五をなめるなよ!」
頭から落ちてくる男を俺はすべての力を込めた拳で再び空高く飛ばした。
俺は少女の方に振り向くと言ってやった。
「言ったろ? 負ける気がしないって」
「ありえない。人間が神の力を得た人を一撃で沈めるなんて。そんなことありえない」
ありえない。いい響きだ。だがその響きさえも俺にはただの言葉でしかないんだ。
この世界はお前には小さすぎる。これは俺の今は亡きオヤジの遺言だ。
「さて、聞かせてもらおうか。お前の言う俺を探していた理由とやらを」