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3.ランディング

 『みー号』は何とかかんとか太陽系第三惑星の軟着陸に成功した。

 船外の大気の成分は窒素が七十八%、酸素が二十一%でほとんどを占めており、故郷の惑星の原始の組成にとても良く似ている。その他に『生命体その弐』にとって有害な物質はないかどうかチェックする。アルゴンと二酸化炭素が無視できない程度含まれているが、生命に危険という範囲ではない。しかし、二酸化炭素の〇・〇四%は含有量としてはかなり高い。

 重力加速度はやや小さめであるが生活できない範囲の値ではない。しかし故郷の惑星や宇宙ステーションと比べ大気温はかなり低いようだ。慣れるまでには相当かかるだろう。しかし、気温は低い方がむしろ安全である。防護服で体温を容易に調整できるからだ。ハンナは機関士長のアリザを伴って順に三重のハッチを開閉しながら惑星の地面に降り立った。

 ずるっ! バターン!

 ハンナはまたしてもふんぞり返って転倒した。

「せっ、船長! 大丈夫ですか?」

「痛-っ! 大丈夫なワケないでしょ! 仕事中にバナリンはやめなさいって言ったでしょ!」

「バナリンの皮ではないです。辺り一面、バナリンの皮並みのすべり具合です。気を付けて下さい」

よく見ると辺り一面真っ白で、地面はバナリンの皮よりもかなり滑りやすい危険な状態である。ハンナもアリザも滑ってしまって立ち上がることすらできない。特にハンナは足を長く見せようと、かかとには手指の長さ以上の細長いヒールを施しているためどうにもならない。


――何これ! これじゃ歩くことも出来ないじゃないのよ!


 ふと気が付くと数人の生命体がこちらを向いてごくフツーに歩いて集まってきている。あんなに足が短いのに一人として足を滑らせている者はいない。見たところ特別な装備もない。二人はこの惑星の生命体の運動能力の高さに舌を巻いた。

 口のようなところには尖ったものを付けている。真っ白の胴体に真っ黒な広い腕。鋭い目。ハンナとアリザはその場にひれ伏し、命乞いをした。

「クワッ! クワッ!」

「どっ、どうか命だけは助けて。お願い。侵略するつもりなんてなかったのよ。私たち!」

 念のため付け加えておくが、彼らの会話はもちろん『日本語』ではない。『生命体その弐・語』だ。第三惑星人に通じるはずもない。

「クワッ! クワッ!」

 彼らの惑星にはこのモノクロ生命体にとても良く似た生物がいる。ギントリペンペンなる生物だ。そう考えると、そもそも何語であろうと、この生命体には通じないのかもしれない。 

 ハンナの洞察力には定評がある。彼女はそこで思い切った判断を下した。


――この生命体は、おそらくこの惑星の知的生命体ではない。その証拠に体型がずんぐりむっくりで全然知性的ではない……。


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