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その他

将来、遺伝でハゲになるのが確定している魔術師志望の僕が儀式に捧げる髪の毛をどうにか出来ないか試行錯誤した結果の話。

作者: 天音美咲
掲載日:2026/09/19


 僕・ルートの夢は、魔術師だ。


 ごく普通の農家に産まれた僕に、村に立ち寄った勇者一向の魔術師が「君には俺を越える才能がある」と声をかけてきたのだ。

 弟子になり王都にある魔術師育成のための学園に通わないかと誘われたが、子供相手の冗談だろうと僕も村の皆も思ってた。

 しかし、魔術師は本気だった。

 毎日、僕がどれだけ才能があるかを語る熱心さに、僕と家族、村のみんなも魔術師を信じた。

 こうして農家を継ぐ道しかなかった僕の人生は変わり、学園に通える年齢になるまで、実家を手伝いつつ勉強をすることになった。

 暫くして、旅先から魔術師──師匠の使い魔が『はじめての魔術師入門①』と必要な道具を届けてくれた。

 僕は期待に胸をふくまらませて『はじめての魔術師入門①』を読み始めた。



 その夜、僕は絶望で爆泣きした。



 たまたまだろうと何度も確認した。

 殆どの儀式には『術者の髪の毛』が必要だった。

 突然だが、一緒に暮らすお爺ちゃん、お父さんと僕は顔がそっくりだ。

 そんな二人は村の同世代の男性陣の中で一番早くハゲ始め、今では太陽の光でピカピカ光る美しいツルツル頭部の持ち主だ。

 二人にそっくりな僕は将来、ピカピカのツルツルが確定している。

 魔術師にはなりたいけど、貴重な髪の毛を抜くなんて、とんでもない!



 そこから、僕の髪の毛を守るための試行錯誤も始まった。



 毛根が必要か。

 自然に抜けた髪の毛じゃダメなのか。

 体の他の毛じゃダメなのか。



 毛根は必要だった。(絶望)



 髪の毛に宿った魔力は、切った瞬間から切り口から漏れ出てしまう。

 魔力が抜け出た髪の毛を使うと、その儀式のレベルが下がったり、最悪失敗したりで不安定になることがわかった。

 試してみて、毛根のある自然に抜けた髪の毛と切って直ぐの髪の毛なら儀式は安定することが分かった。


 僕は髪を伸ばす事を即座に決めた。

 また自然に抜けた髪の毛を集め、年齢毎に袋に詰めて保管する事にした。


 次に、体の他の毛じゃダメなのか。


 これについては『かんたんにできる使い魔召喚(低難易度)』で実験した。


 まず、自然に抜けた髪の毛を使って召喚されたのは、鳥の魔物だった。

 試しに、手紙を持たせて師匠まで運ぶよう指示をしてみた。

 今の僕の髪の毛だと難しいかもだけど、無事に辿り着けば折り返しがあるだろう。

 

 続いて体毛についてだけど、テキストに『体毛を使ってはいけない』という注意書きも無いから危ない事ではないのだろうと油断していた。


 手始めに生え始めていた脇の毛で使い魔召喚を試した時は、あまりの恐怖で泣いた。


「変態が出たぁ~!!」


「変態じゃないワヨ!失礼しちゃうワ!」


 脇の毛で召喚されたのは、派手な格好をした男の人……じゃなかったオネェさんと呼んで♡の人だった。

 派手で濃い化粧に、羽根がいっぱいのマフラーを首にかけ、ボディラインを強調したミニスカートにハイヒールは、あくまでも趣味で着てると、くねくねしながら言っていた。

 そんな趣味の真っ最中に、僕の召喚に応じてくれたのは、好みの脇の毛(魔力)だったし、僕の脇をペロペロしたかったから、なんだって。


 ペロペロ…………。


 魔術師の道と髪の毛を守る戦いの厳しさに、僕の涙腺は崩壊しっぱなしだ。(爆泣き)


「もぉ~。ペロペロは諦めるワヨ。だから、男の子は泣かない泣かない♡」


 最初は脇ペロさんに身の危険を感じて怖かったけど、慰めてくれた上に、僕の夢と恥ずかしくて周りには言えなかった髪の毛の話を真剣に聞いてくれた。

 その上、お話を続けていたら、魔術にもかなり詳しいと分かった。


「それで?ルートきゅんは、次にどこの体毛を使おうとしてたノヨ?」


「えっと……おち「オ止めなさい!ペロペロじゃ済まされないグロいのが出てくるワヨ!!」


 そんなこんなで、脇ペロさんは良い人だと分かったし、僕も脇の毛は無くても困らないし、定期的に脇ペロさんに勉強を見てもらうため短期契約をした。


「でも、本当に脇だけでいいの?こっちの毛も使えなそうだし、脇ペロさん、生えたら──いる?」


「イッ!要らないワヨ!ソコに手を出したらアイツ等と一緒になっちゃうじゃない!欲しいけど!欲しいけど!欲しいけど!欲しいけどォ~!!」


「4回も言った」


 脇ペロさんと短期契約するの間違えたかな。



──そうして、時は経ち、僕は学園に通える年齢になった。



 僕の髪は背中の真ん中くらいまで伸びた。


 師匠から送られてくるテキストと手紙が頼りの勉強だったから、脇ペロさんの実践的な教えにはとても助けられた。

 でも、師匠には脇ペロさんの存在は伝えていない。

 脇ペロさんが「恥ずかしいから、ヒ・ミ・ツ♡」ともじもじしてたけど、恥ずかしいのは僕の方だと思う。


 その師匠とは使い魔を使っての文通のみで、実際に会うのは村に勇者一向が来た時以来になる。

 現在、師匠の所属している勇者一向の魔王討伐は難航していて、王都まで一時撤退していた。

 悔しそうな師匠には言えないが無事に再会できたのはとても嬉しかった。


 再会を喜んだ後、師匠に連れられ学園で入学試験を行うことになった。


「流石、最強魔術師の弟子ともなると素晴らしい!」


「手紙で知ってはいたけど、想像以上だ!俺が見込んだだけはある!」


 『術者の髪の毛』を使わない魔術のほとんどを習得していた上に一つ一つが高難易度レベルだったため、師匠や学園関係者が驚く。


 続いては『術者の髪の毛』が必要な『使い魔召喚の儀式』だ。


 これまでの僕の実力に、周囲からの強い期待を感じる。

 僕は用意された高級素材を見て、これまでの研究から13歳の時に集めた髪の毛を数本取り出す。

 高級素材の魔力量であれば、バランスが取れて、中の上レベルの使い魔が来てくれるだろう。

 儀式は苦手な振りをして『術者の髪の毛』を守らなくてはならない!


 魔術師にはなりたいけど、それ以上にハゲにはなりたくない!!


 高級素材と髪の毛を魔方陣に設置し、召喚の呪文を唱える。


 魔方陣が淡く光った瞬間、儀式の様子が一変した。


 ゴオオオオオ!


 激しい炎が渦を巻いたかと思うと、三つ首の狼のような獣が現れた。


 バチバチバチバチ!


 間を置かず、今度は雷が迸り、漆黒の体に金色の瞳のドラゴンが現れる。


「あれは、ケルベロスとバハムート!?」


 バハムートは空へ羽ばたくとケルベロスの胴体を掴み、どこかへと飛び去ってしまった。


 僕を含め、その場に居た全員が唖然としていた。



 ──それだけではなかった。



 快晴だった空は雲に覆われ、辺りが薄暗くなる。


 魔方陣から、ゴポリ、と泡のような音がし始めた。


 ゴポリ、ゴポリ……黒く粘りけのある泥のようなものが溢れ出てくる。


 明らかに、喚んではいけない『最悪の何か』なのに、誰も動けない。


 泥の中から、現れたのは──。



「魔王……!!!!」



 師匠が叫んだ。

 山羊の様な立派な角が生え、地面まで届く艶のある黒髪の美貌の持ち主。

 毛根が逞しそうな髪の毛が羨ましい、じゃなかった、魔王がどうしてここに?!

 魔術師が構えるも、魔王は僕達を無視したまま指を鳴らすとどこかへ消えてしまった。


「一体これはどういう……?!誰だ?!」


 師匠が僕の方を向いて驚いているが、視線は隣にだった。


「わ!「高貴なる方々が召喚に応じていらしたので馳せ参じるのが遅くなりました、我が主」


 そこには、いつものオネェさんな脇ペロさんではなく、礼服姿の格好良いお兄さんがいた。

 羽根のマフラーだけは変わらずだけど、話し方から印象が全然違う。


 僕は脇ペロさんにコソコソと小声で話しかけた。


「どうして、ここに?」

「ルートきゅんの幼き頃の髪の毛に釣られて、つい♡」

「わぁ、安定の変態」


 コホン、と脇ペロさんが咳払いをすると、よく通る声で話し出す。


「これまでは、短期契約でしたが、ルート様の正式な使い魔として、お仕えしたくこの度の召喚に応じさせていただいた次第。

我が名は、フェフラム。

死を焼き払う不死鳥族の者なり。

そこの魔術師は知った顔だと思うが」


「……あの時の!!」


「私の事はいい。魔王達がどちらに向かわれたか、気にはならないのか?」


 言われてみれば!

 驚きの連続で上書きされてて、すっかり忘れていた!


「ルート様が使われた頭髪だが……あれは主一人分ではない」


「えっ!!」


「きちんと選別するよう教える前に集めていたものにまでは気が回ってなかったのでしょう。あれは──」


 確かに、自然に抜けた髪の毛が儀式に使えると分かってから、直ぐに抜け毛を集めてたけど、何も考えずに集めてた!


「全て、主のご家族の毛だ。

ケルベロスは、母親の髪。

バハムートは、父親の胸。

魔王のは、祖父の髭──だ」


 僕の家族ーーーー!!!!

 生きててーーーー!!!!


「召喚に応じたのですから、召喚主には危害を与えられませんのでご安心ください。とはいえ、ご心配でしょう。一度、村に戻りましょう」


 バサッ!と脇ペロさんの背中から真っ赤な翼が生えた。

 ところどころ炎が揺らめいている。


「さぁ、参りましょうか。そこの貴方はご自身の力で何とかしなさい」


「くそ鳥ぃ……」


 脇ペロさんと師匠の間に何かありそうだが、それどころではない。

 家族が……特に父親の胸がペロペロの危機かもしれない。


 空を飛ぶ脇ペロさんに連れられて僕は急いで村に戻った。


 結論から言えば、家族は無事だった。

 それどころか、僕の家族は強かった。


 ケルベロスは伏せをした状態で母親に三つの頭を順番に撫でてもらってた。

 よほど気持ちいいのか、目は細められ、むふーという鼻息が出てる。

 わかる。

 僕も母親に褒められる時、頭をわしゃわしゃと撫でられると嬉しくて暖かい気持ちになるから大好きだ。

 肝っ玉な母親曰く、ちょっと大きくて、頭が三つあるだけのワンちゃんは、我が家の番犬となった。


 次にバハムートは父親を背に乗せて共に楽しそうに空を飛んでいた。

 父親の頭がヌメヌメテカテカしてたから、バハムートは胸より、ツルスベな頭をペロペロしたらしい。

 その舐め心地をかなり気に入ったようで、その後も隙さえあれば父親の頭をペロペロしていた。

 父親も、少年時代に憧れたドラゴンに懐かれていることが嬉しくて、好きなだけペロペロさせるので、毎日びしょ濡れになっている。

 ペロペロの後は、散歩だと空へと飛んでいく。

 空を見上げるとドラゴンが飛んでいる光景は、いつの間にか村でも当たり前になっていた。 


 それから、農閑期になると両親は使い魔になった2匹と出かけては、色んな伝説の○○を取ってくるようになって、家も村も前より豊かになった。


 最後に、お爺ちゃんに召喚された魔王は「召喚に応じてはいない!絶対に認めない!契約解除だ!」と騒いでいた。

 だけど、少しボケてきてるお爺ちゃんは、耳も遠くて会話が成り立たず、同じやり取りを十周したところで、魔王は契約解除を諦めた。

 理不尽さに「解せぬ」と魔王は怒りのまま家の壁や床を八つ当たりで壊したから、そこはきっちりと請求させてもらった。

 お爺ちゃんにお願いして、魔王を叱ってもらい、家は新築で弁償させた。

 その間、魔王は「解せぬ解せぬ」と鳴く生き物になってた。



 ──こうして、お爺ちゃんの使い魔になった魔王は世界の脅威をやっている場合じゃなくなった。



 ──世界に平和が訪れた。



 ……実は、ボケてきたお爺ちゃんとは、まともに話すコツがあるのだけど、下手に契約解除されたら世界の危機再びだから、絶対に教えない事にしていた。

 しかし、使い魔として離れず介護していた魔王はお爺ちゃんと話すコツを掴む頃には、すっかりお爺ちゃん大好き魔王になっていた。

 学園の休暇期間に、僕がお爺ちゃんのところに行って可愛がられる度に、過保護が日々更新されている魔王に嫉妬で威嚇される。

 残虐無慈悲で有名だった魔王が今やただのお爺ちゃんっ子だ。

 孫は僕なのに、解せぬ。


 こんな具合に、世界が平和になった影響で、魔王討伐の任務が終了してしまった師達は学園にて、いつかのための後継者育成に励むことになった。

 学園で師匠に毎日会える様になって生徒としても弟子としても充実した日々を送っている。



 さて、ここで僕の髪の毛問題に戻ろう。




 結果、あっさり解決した。




「普段『死を焼き払う不死鳥(重低音)』だなんて恥ずかしい名乗りしてンノヨ?



毛根の死くらい簡単に蘇らせられるワ」



 脇ペロさんの一言に僕は固まった。



「……そんな凶悪な目で見ないでチョーダイ。正式な契約者の許可とそれなりの儀式が必要なノ!言わなかったのは思いやりダカラネ?!」


 これまでの研究はなんだったんだとは思うけど、こうして平和になったから無駄ではなかったと良しとした。


「ルートきゅんは、まだ毛根が元気だから、死んでも直ぐに蘇生できるワ。お爺ちゃんとパパさんは殆ど手遅れだし、やれてもパパさんに髪なんか生やしたらバハムートちゃんが怒って一面更地にしちゃうからやらないケド」


「……ということは」


「ウン♡」


「僕のハゲ確定の未来は無い……」


「ウンウン♡」


「脇ペロさーん!大好きぃーーーー!!!!」


「離れろ!くそ鳥ぃー!!!!」


 僕が脇ペロさんに抱きついたところで、師匠がどこからか飛んできて、僕の体をバリッと剥がす。


「これはこれは、ルート様のた・だ・の文通相手様ではないですか」


「ぐっ……殺るか……」


「フフッ、ヤりますか?」


「わき……フェフラムさん、ステイ」


「かしこまりました♡」


 何かあっただろう脇ペロさんと師匠はずっと仲が悪い。

 その話は今じゃないし、それどころてはない。


「師匠!聞いてください!僕の悩みが!髪の毛が!うわーーーん!!!!ハゲ!ハゲないーーー!!!!」


 僕は嬉しくて爆泣きした。


 魔術師を目指した結果、僕達の人生は変わり、僕は生涯に渡りハゲることない頭皮とロングヘアーを手に入れた。



─完─


ネタにして申し訳ございませんでした。


該当される方にとっては、大変心苦しい題材ですが、それを笑い飛ばしている心のお広い方が読んでくださってると信じております。


仕事中に突然「儀式で髪の毛を使う事が多いけど、体毛をぶち込んだらどうなるのだろう」と考え出したら止まらなくなり、毛根死守に必死なルートきゅんと共に脇ペロさんが現れ、最終的に魔王も喚び出されました。(仕事しろ)


起承転結をメモ帳に打ち込んでから、毎日コツコツとお話を打ち込んでいましたが、余計な文章が多いなと思いつつ、今回は削らずに全部入れようと詰め込みました。


この話に出てくる魔王は、魔王シリーズの魔王ではありませんが、繋がってはいます。そのお話は書けたら投稿します。


あえて触れていないのは、鳥の魔物も脇ペロさん(省エネモード)だという事と、脇ペロさんと師匠の関係。2人はムーンライトな関係です。ルートきゅんにしなかった事をガッツリとヤっている。(笑)

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