減らぬ肉
聞いた話によれば、かつてこの国に恐ろしい飢饉が訪れた時。
海から人魚がやってきて奇妙な物体を寄越したのだと言う。
「この球体をご覧なすってください」
あぁ、それは確かに丸い形をしていた。
大きさは丁度、太った男の胴体くらいだろうか。
触れてみれば柔らかく、おまけに脈打つように蠢いている。
「この肉はですね。奇妙な肉でありまして。食っても食っても減らぬ肉なのです」
そう言って人魚は肉を切りとる。
肉から血が溢れ出したが、それはつまり新鮮な証だ。
「お気になさいますな。これはいくら傷つけても死にはしません。一部でも残っておりますれば段々と元の大きさに戻りまする。ちょうど、あんたら人間が怪我をしてもやがて傷が塞がるように」
何分、酷い飢饉の折だ。
人々は人魚からこの肉を受け取るとありがたく日々の糧とした。
「大切に。大切に召し上がってください。何分、我らも次にいつこれが手に入るか分かりませんので」
あぁ。
げに恐ろしき恨み。
なにせ、飢饉が去った後にあの魚もどき共はその正体を歌にして教えたのだから。
『人魚を喰らわば永遠の命。終わりのない命とは。ただただ永久に続く罰なり』
噂によれば、その死なぬ肉――もとい、人間は未だにとある寺で世話をされていると聞く。
人魚など空想の類だと言われるこの現代においても。




