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アレ・テタルの薬魔術師見習い  作者: HAL
1章 学費を貯めよう

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06 金策の日々


 毎朝の洗い場と別棟のトイレは、五十人の子どもたちでとても混み合っている。

 マユの起床は子どもたちよりも早い。

 二の鐘のころに起き、先にトイレと洗顔を済ませてからマリーの所へ行く。


 朝の手伝いは、食堂の掃除か調理の補助、あるいは洗濯が中心だ。そのときに手の足りない仕事を割り振られる。今日は洗濯だった。昨夜の汚れ物を朝日の下でゴシゴシと擦って、中庭に乾す。夕方に洗い場を使うのは男女が日替わりだ。昨夜の洗い場は女の子が使ったため、シーツや拭き布以外の洗濯物はない。彼女らは下着や衣類を自分で洗濯しているからだ。


 当番の子どもたちにまじって仕事を片付け朝食をとったあとは、採取用の荷を持ち、チェルシーらと冒険者ギルドに向かう。

 冒険者志願の孤児たちは、ブレナンの座っているあたりで待機だ。討伐や狩猟の荷物持ちがほしい冒険者らの声かけを待つ。孤児らの荷物持ちは人気だ。安価だし、後輩の育成という要素もあり、引き請ければギルドの評価も高くなる。次々に常連から声がかけられている。


「マユも一緒にやろうよ。森の奥まで行けるから、薬草もたくさん採れるよ」


 森の奥の薬草には惹かれる。チェルシーに何度も誘われて気持ちが揺れたが、荷運び報酬は孤児院に支払われると聞いて諦めた。合間の採取では三千ダルは貯められないからだ。

 ロビーでチェルシーたちと別れたマユは、掲示板で魔物情報を確認する。どこの魔物に討伐依頼が出たのか、どんな魔物が出没するのか、それを頭に入れておき、安全な場所を選んで薬草を探さねばならない。


「今日は街の北側が良さそう」


 農業ギルドから出されていた魔獣討伐依頼が、昨日完了していた。街北は広範囲に畑が広がっており、作物を食い荒らす獣害に悩まされていたのだ。それが解決したのだ、あのあたりの森はしばらくは安全なはずだ。

 マユは急ぎ足で北門に向かった。

 畑の間の道を歩いて北の森を目指す。ときたまだが、農道の畦道に薬草を見つかった。そのたびについ手を伸ばしそうになって、慌てて自制する。畑の近くにある薬草は、地主の許可がないまま採れば盗みになってしまう。

 できるだけ余計な物を見ないように歩いていると、自分に向かって手を振る人がいた。農作業の仕事を手伝う孤児院仲間のヒュウゴだ。軽く手を振り返し、畦道の誘惑を振り切って森に辿り着いた。


「討伐のあとだから、踏み荒らされてるなぁ」


 背の高い雑草を踏み倒した足跡があちこちにある。木の根元に近いあたりの被害は少なかった。マユは慎重に倒された雑草を起こしながら、傷んでいない薬草はないかと探してゆく。


「ヤーク草、発見!」


 数日前にブレナンに没収された薬草だ。蔦性のヤーク草は幹に巻きついているせいで、冒険者らに踏み荒らされることなく残っていた。この前の鬱憤を晴らす勢いで採取してゆく。


「この株も成長点を止めておこう。あんまり高くまで伸びられたら届かないし」


 端芽の出そうな節を数え、ほどよいところで摘んで成長を止める。

 三十枚ほど採取できた。治療薬セットとして割り増しを狙うなら、セタン草とユルック茎も同じ数だけ採らねばならない。


「掲示板だと、回復薬用のサフサフ草の根が足りないってあったから……」


 先ほど見つけた踏みにじられた雑草の中に、サフサフ草があった。必要なのは根なので、踏み潰されていても品質に問題はない。


「細いのは掘らずにおいておかないとね」


 薬草の成長が早いのは常識だが、葉と比べて根がゆっくりなのは以外に知られていない。採取基準に満たない根をムダにするのはもったいない。サフサフ草の生え際の土を少しだけ掘り、根の太さを確認してから採取してゆく。

 少しずつ場所を変えながら、マユは薬草分布の把握と採取に努めた。


「トラント草の群生だ。角ウサギが近くにいそう……」


 麻痺薬の素材を摘み取りながら、角ウサギを狩れないのを残念に思った。

 王都では孤児院出身の冒険者パーティーと一緒に森に出て、自分が狩った角ウサギや草原モグラを代わりに換金してもらっていた。そうやって貯められた金があったからこそ、乗合馬車でアレ・テタルまでやってこられたのだが。


「……レオンたち、元気にしてるかな」


 少し年上の彼らは、物知らずのマユに様々なことを教えてくれた。面倒見が良すぎて損をすることも多かったはずだ。足を引っ張る者はいないのだ、今ごろは王都の森で華々しく活躍しているに違いない。


「よし、これで六束分」


 トラント草を束にして枯れ草で結び、腰の袋に収めた。

 あとはセタン草とユルック茎だが、どうしても傷のある物しか見つからない。もっと奥まで探しに行けば見つかるかもしれないが、銀狼に遭遇したら逃げられない。安全性を優先したのだから仕方ない。マユは採取場を変えることにした。


「畑の人に許可がもらえたらいいんだけどな」


 マユは乾いた細針の枝を拾い集めながら南に歩き、畑が見えるところまで出た。孤児院の子たちが働く中に、大きな体の大人が見える。両手で持つのが大変なほどの量になった細針の枝の束を抱え、彼らに向かってゆく。


「マユ。焚きつけ木をこんなにいっぱい抱えて、どうしたんだ?」

「ヒュウゴ、この畑の持ち主さんを知ってる?」


 掘っていた芋を放り出して駆けてきた少年に、畦の薬草採取の許可を取りたいので紹介してほしいと頼んだ。


「薬草が生えてるのか?」

「うん、あちこちに。畑に入らないようにするし、畦も壊さないから。駄目かな?」


 ちょっと待ってろと言い残して、ヒュウゴが荷箱の側に立つ大柄な農夫に駆けていった。

 手招きされて行くと、農夫が思案するようにマユを見下ろした。


「薬草、見つけたのか」

「はい。採取していいですか?」


 対価になるかわからないが、と、森で集めた細針の枝束を渡す。乾いた細針の枝はよく燃えるので、カマドや暖炉の焚きつけに使われている。魔道具が普及しているアレ・テタルでは使われていないかもと心配だったが、農夫の表情はあたたかい。喜んでもらえたようだ。


「俺の畑は用水路のこっち側までだ。その範囲なら採ってもいいぞ。畦は絶対に崩すなよ」

「はい、気をつけます。ありがとう」


 収穫に戻るヒュウゴと別れ、慎重に畦道を歩いて薬草を探す。畑にまかれる堆肥の影響もあってか、見つけた薬草の生育はとてもよい。成長前の葉や芽は残して摘み、数日後に採取させてほしいと頼んでみた。


「かまわんが、来週あたりから雪が降りはじめるぞ。十二月の半ばには、ここらは一晩で真っ白になる」


 夜の間にこれくらい、と農夫が親指と人差し指で深さを示した。冬の間に積み重なり、最も寒いころには大人の膝が埋まるほどになるという。シェラストラルではありえない積雪だ。

 薬草採取が順調だったため、二月三十日までに三千ダルは余裕だと思っていた。けれど積雪を考えると、冬の間は薬草で稼ぐのが難しくなりそうだ。のんびりとしている余裕はなさそうだとマユは気を引き締めた。


「雪が降るまでの間なら、畑を踏み荒らさなければ、好きなだけ採取していいよ」


 農夫の言葉に甘え、できるだけ採取に来ようと予定を決めた。

 

   +


 冒険者ギルドの査定の待ち時間に、掲示板で街中での仕事を探した。

 配達に倉庫の掃除にゴミ集め。どの仕事も早い者勝ちだ。孤児院で朝の仕事をしていてはありつけないだろう。チェルシーらのように冒険者の荷運びをしながら、コツコツ貯めるしかなさそうだ。

 掲示板を見上げて悩んでいると名前を呼ばれた。


「お疲れ、マユ。いつも品質の良い薬草をありがとう。今日は治療薬用のセットが五組で百二十五ダル、サフサフ草の根が三十ダル、トラント草が二十ダルで合計百七十五ダルだよ」


 端数の薬草はどうするかと問われ、返してもらう。これから魔法使いギルドに売りに行くのだ。受け取った札を持って出納窓口に行こうとすると、ブレナンさんに呼び止められ、カウンターの隅に引っ張っりこまれた。


「マユは薬魔術師見習いなんだろ?」


 頷いて返すと「ならなんでトラント草を医薬師ギルドに売りに行かなかったんだ?」と問われた。


「それに薬草もだ、魔法使いギルドのほうが高く買い取ってるのは知ってるよな?」


 はじめて納品したあの日、魔力回復薬の薬草を魔法使いギルドに持ち込んでいるのも知られているようだ。


「何でと言われても……お世話になってる孤児院が、冒険者ギルドの共同経営だから」

「へぇ、義理堅いんだな」

「魔術学校に入学したら、魔法使いギルドにだけ持ち込みますよ?」

「いや治療薬の薬草は引き続きこっちに納めてもらいてぇなぁ」


 ニヤニヤ笑いを引っ込めてブレナンが笑う。


「それで、どうして医薬師ギルドを避けてるんだ?」


 麻痺薬の使用量は医薬師ギルドが最も多い。トラント草を最も必要とし、高値で買い取るのは医薬師ギルドだ。金を稼がねばならない切実な理由のあるマユが、稼げるはずの場所を敬遠する理由が知りたいと、ブレナンは身を屈めて目線を合わせた。


「なんか嫌なことでもあったか?」

「……現物を提出する前に、買い取り品質を満たす薬草を持ち込めるはずがないって決めつけられたので」

「なるほど。腹を立てて避けてるのか」

「違います。公正な査定が期待できないからです」


 持ち込む人間を見て査定を変えるような組織は、薬草を大切に扱わないだろう。貴重な薬草を無駄なく活用できるとは思えない。

 理由を説明するマユの声に怒りがこもっている。それを感じたブレナンが眩しそうに目を細めた。


「ちびっ子は真面目なんだな」

「……薬草を大切にするのが薬魔術師の矜持だって、師匠に教わりましたから」

「そっか、いい師匠だ」


 ブレナンの大きな手がマユの黒髪を乱暴にかき乱した。


「痛いです」

「んな力入れてねぇぞ」


 もっと食ってでっかくなれとブレナンが笑う。


「冬場は薬草を採取しにくくなる。遠慮する必要はねぇから、全部魔法使いギルドに売っていいぜ」

「いいんですか?」

「おう、副ギルド長の俺が許可してんだから問題ねぇよ」


 稼げるときに稼いでしっかり貯めろと励まされたマユは、翌日から堂々と魔法使いギルドに薬草を持ち込むようになった。



【アレ・テタル6日目のお財布】


前日残高  958ダル

 薬草  +175ダル(冒険者ギルド)

 薬草   +48ダル(魔法使いギルド)

 寄付   -30ダル

6日目残高 1151ダル


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