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アレ・テタルの薬魔術師見習い  作者: HAL
1章 学費を貯めよう

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03 価格調査


 昨日の冒険者ギルドでの買取価格の書き付けを手に、マユは医薬師ギルドに向かった。途中で市場を見かけ、品揃えや値段を見ようと寄り道する。


「野菜の値段は王都とあんまり変わらないみたい」


 古着や古布は少し値段が高いようだ。品質が良いので妥当かもしれないが。学費を貯め終わったら、冬用の外套を買いたい。しっかりと値段を覚えておくことにする。

 医薬師ギルドは大通りから一つ奥に入ったところにあった。建物には扉が二つあって、どちらも開け放していた。左手の入り口には丸椅子が並べられ、診察を待つ人が座っている。右手の入り口をのぞき込むと、正面に冒険者ギルドのようなカウンターテーブルがあり、その後ろに大きな薬棚が見えた。側面の壁には掲示板があり、何枚もの板紙が貼られている。

 マユは静かに中に入り、掲示板を見上げた。


「薬草に、魔物素材、配達の仕事もあるのか」


 配達するのは主に薬品だ。患者の自宅へと届ける仕事で、保証人必須とあった。薬草は見なれた品種ばかりだ。冒険者ギルドと違って、半端な数でも買い取ってもらえるらしい。これはマユにとっては朗報だ。ただ、買い取り価格の表示のないのが気になった。

 診療所は繁盛しているが、医薬師ギルドにいるのは彼女の動向を観察している職員だけだ。マユは探るような視線の主に思いきって声をかけた。


「あの、薬草の買取価格を教えてもらえますか?」


 灰色のローブを着た薬魔術師らしい男性は、驚いたように瞬きすると、ニッコリと微笑んだ。


「在庫とか品質でその都度査定しているから、決まった値段はないんだよ」

「そうなんですか……品質がよかったら少しは高く買い取ってもらえますか?」

「考慮はするよ、でも君には厳しいだろうね。薬の素材だから、査定は厳しいんだ。雑な採取だったら冒険者ギルドよりも安くなるよ」


 マユの全身をじろじろと見た男は、まるで挑発するような、馬鹿にするような口ぶりだ。できるわけがない、と決めつける態度に腹が立ったが、ぐっと堪える。


「それじゃ採取できたら持ってきますね」


 師匠の薬店手伝いで習得した作り笑いを返して、マユは医薬師ギルドを出た。


「次は魔法使いギルドか。あっちもあんな感じなのかな」


 成人前だし、正式な冒険者証は持っていないのだから、半人前と言われれば言い返せない。だが仕事ぶりを確かめもせず、見た目で侮るのはどうだろうか。あのような人物が目指す魔術職に就いているのにモヤモヤした。

 魔法使いギルドは街のほぼ中央にある。高くて古い塔を囲むように、ギルドの建物と、魔術学校の校舎が建っている。魔術学校には専用の入り口があるが、ギルドへは塔の一階から入るようになっていた。

 扉への階段は数段。それをのぼり終える前に扉が勝手に開いた。


「すごい……自動で開くんだ」

「いらっしゃい、魔法使いギルドへようこそ。どういったご用件かしら?」


 扉のすぐ前にテーブルで囲まれた場所があった。そこにいる黒ローブの女性が、驚いているマユをロビー内に招き入れる。


「あの、薬草の買い取りについて聞きたいのです。あと何か依頼があるのかも」

「それなら二階に専用の窓口があるわ。それとウチで紹介する依頼は魔術師への仕事ばかりなの。魔力があっても今のあなたには紹介できないのよ」

「私に魔力があるって、わかるんですか?」

「入り口の扉が開いたでしょう?」


 魔術師はイタズラっぽくマユの背後を指さした。

 振り返ってびっくりした。


「透けて見えてる!?」

「こちらからだけね。あの階段をあがってくる間に、来訪者が魔力保有者かどうか判別して、魔力がある人には扉が勝手に開くようになってるの」

「魔力を持ってないお客さんが来たらどうするんですか?」

「ここから私たちが扉を開けるのよ」


 なぜそんな手間な仕掛けなのだろうと首を傾げるマユに、黒ローブの女性が身を乗り出した。


「ねえあなた、魔術師に興味ないかしら? 魔術に関わる仕事を探してるのなら、ぜひ紹介させてちょうだい」


 身を乗り出し食いつくような勢いで勧誘されて、マユの体が仰け反った。黒ローブの同僚が彼女を肩を掴んで引き離す。


「おい、怖がらせるなよ。魔術師のイメージを悪くしてどうする」

「あら、ごめんなさい。あなたの魔力量が魔術師基準を満たしていたから、つい」

「悪いな、きみ。魔術師の人材不足は深刻でね。どうだろう、興味があるなら魔術学校の試験をうけてみないか?」


 灰ローブの彼は試験案内の紙をマユに渡そうとする。どちらも強引だが、医薬師ギルドの薬魔術師のような嫌な感じは全くない。


「あの、私は薬魔術師見習いです。春から魔術学校でお世話になる予定で!」


 魔術師たちの勢いに負けないよう声を張り上げると、二人は破顔して奪い合うようにマユの手を握った。


「まあまあ、後輩ね。嬉しいわ。お名前は? そう、マユっていうのね。何かあったらギルドに相談に来てね、私はアーシェよ」

「俺はムルドだ。入学後ならギルドの書庫も利用できる、しっかり勉強するんだぞ」


 大げさなくらいに歓迎されて嬉しいやら恥ずかしいやらだ。マユは戸惑いながら二階に上がった。

 魔道具や錬金薬を販売する売店の隣に、薬草の査定窓口があった。買い取っている薬草の一覧と値段表をしっかりとチェックする。


「魔力回復薬用の薬草は、ここが一番高く買い取ってくれそう」


 他にも魔石の買い取りについての説明書きもあった。冒険者ギルドと異なり、魔石の含有魔力量で査定するとある。


「魔石も先にこっちで売ったほうが良さそう」


 角ウサギなどの魔獣を狩って得られるクズ魔石は、冒険者ギルドの買い取りでは一個一ダルの固定価格だ。だが魔法使いギルドでは、持ち込まれた魔石の総魔力量で値段が決まるらしい。


「魔石の買い取りをしてもらえますか」


 マユはいざというときのために貯めていた魔石の袋を取り出した。王都でコツコツと貯めたクズ魔石が五十個ほど入っている。その中からマユが含有量が多いと思った二十個を取り出して査定に出してみる。マユの試算では、三十ダルくらいになるはずなのだ。


「極小魔石二十個ですね……全部まとめて三十六ダルでいかでしょう?」

「売ります!」


 己の魔力感知が頼りになると知った嬉しさで、マユはニッコリと笑った。これなら魔石の換金で損をすることもなさそうだ。

 孤児院に支払う最低限の金額を確保できて気持ちが楽になったマユは、そのまま魔法使いギルドを出て冒険者ギルドに向かった。

 昼間の冒険者ギルドは閑散としている。冒険者の姿はまばらだし、カウンターも空席が多い。席に着いているのは若い女性職員と、無精ひげの初老の男だ。どちらに声をかけようか少し考え、マユは初老の男に向かった。


「こんにちは。アレ・テタルのギルドは薬草の採取場を公表していますか?」

「見ない顔だな。どこから来たんだ?」


 厳つい顔だ、それに言葉も荒っぽい。だが威圧感はなく、細めた目は穏やかでやさしげだ。


「シェラストラルから来ました。あっちはギルドが保有している採取場があって、そこはたずねたら教えてもらえるんです」

「そうなのか。あいにくウチはそういうのはねぇんだが、だいたいの連中は南側の草原か、東の森で採取してるぜ」

「南の草原と、東の森ですね」

「草原をずっと南に行ったところにも森があるが、そこは凶鳥の巣があって危険だ。嘴に突かれて耳や目に穴を開けたくなけりゃ近づくなよ」

「南の森は危険、と」

「ちびっ子、冒険者証は持ってんのか?」

「持ってません。まだ成人してないので」


 春が来れば成人なのだ、小さくはないと唇を尖らせつつ答える。そうか、と思案顔で顎を掻いた職員は、ぼそりとマユにだけ聞こえる声で囁いた。


「今から出かけて閉門までに戻ってこられる範囲なら、西門から出て南西に見える枯れ木を目印に探すとといいぞ」

「……ありがとうございます」


 隠すように教えられた情報に対し、マユも小声で礼を言う。

 ひらひらと手を振る職員に見送られながら、マユはギルドを出た。


「西門って、ギルドから遠いな。急がないと」


 王都からの乗合馬車が着いたのも西門だ。場所は判っているし、距離感もある。それゆえ急がねばと、彼女は走るような速さで大通りを歩いた。



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