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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十三章

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選び (8)

 アリアンはその場に立ち尽くしていた。

 目の前で繰り広げられる光景が、胸を締め付けるように痛かった。


 カルマが火炎を纏って魔獣を切り裂く姿。

 そして、その奥に立つ父の、あまりにも冷たい眼差し。

 心が引き裂かれそうだった。


「お父さん……どうして……こんなことをするの?」


 声は震え、涙がにじんだ。

 言葉にした瞬間、喉が詰まりそうになった。

 イアンは面倒そうに視線を向ける。


「アリアン、まだ分からないのか。

 私はお前とセレナのためにやっている。

 お前たちが本当の自由を得られるように。」


「自由……?」

 アリアンの声は震え、瞳には涙が光った。

 首を振り、ついに頬を伝う涙をこぼした。


「その“自由”は……他の人を苦しめてまで手に入れるものなの?

 本当に私たちのことを思ってるの?」


 イアンの目は一切動じず、冷たい声が返ってくる。


「理解する必要はない。

 いずれ結果が証明する。

 私が正しかったことを。」


「証明だと?」

 カルマの声が響いた。


 魔獣の群れを切り裂きながら火炎を纏い、跳躍して姿を現す。

 背後で赤い炎が竜のようにうねり、空気を震わせた。


「イアン、それがお前のやり方か。

 綺麗事で自分の罪を覆い隠すつもりか。」


 言い終えるより早く、カルマは再び地を蹴った。

 両手に火炎の長刃を生み出し、イアンめがけて一直線に飛び込む。

 魔獣が立ちはだかるも、その一振りごとに灼熱の閃光が迸り、肉を焼き灰に変えた。


 イアンは鼻で笑うと、片手を軽く上げた。

 黒い光が収束し、分厚い魔力の盾がカルマの刃を受け止める。

 そして反撃のように魔力を放出し、カルマを数歩吹き飛ばした。


「今度は引かない。

 お前がエンにしたこと、ソレイアを奪ったこと、全部返してやる。」

 カルマは空中で体勢を立て直し、緑金色の瞳を鋭く光らせた。


 再び炎の刃を構え、イアンを睨みつける。

 だが、その瞬間。


「だから言っただろ。

 お前はすぐ熱くなる。」


 平坦だが芯のある声が、戦場の空気を裂いた。

 カルマの動きがぴたりと止まる。

 驚愕と共に、その声を探して目を向けた。


「……エン?」


 暗がりの中からゆっくりと歩み出てきたのはエンだった。

 機械仕掛けの符紋装置が脚部で小さく駆動音を立て、光が瞬いた。

 その表情は冷静そのもの。


 イアンは皮肉げに口角を歪めた。


「おや、これはまた賑やかに。

 もう二度と立ち上がれないかと思っていたが。」

「“英姿”を見せてくれるのか?」


 エンは一切表情を変えない。


「言い合いをしに来たんじゃない。

 今日はシンプルだ。

 ――二人を連れて帰る。」


 イアンの目が細まり、嘲笑が深まる。


「連れて帰る?

 五年前に出来なかったことが、今なら出来るとでも?」


 エンは無言で手元の銃を持ち上げた。

 ゆっくりとマガジンを入れ替える。

 乾いた装填音が鳴り、場の空気が張り詰めた。


 その仕草を、アリアンは息を呑んで見つめた。

 その落ち着き、迷いのない動作に、一瞬だけ胸がざわめいた。


 イアンの指先に黒い魔力が渦巻いた。


「不可能を可能にする気か?」

 低く吐き捨てるように言い、闇色の矢を数本放つ。

 それは破空音を立てて一直線に炎を射抜かんとする。


 だがエンは、ただ無言で引き金を引いた。

 轟音が空気を裂き、撃ち出された弾丸が魔力の矢とぶつかる。

 爆光と煙が弾け、地面には深い裂け目が刻まれた。


 イアンの姿は黒煙に紛れたかと思うと、すぐに横手へと瞬間移動し、

 今度は黒い長剣を生成しエンに斬りかかる。


 エンは符紋装置を駆動させ、流れるように身を逸らしつつ、逆手に銃を向けて数発連射した。

 弾丸は震動を伴い、黒い盾を砕き割る。


 イアンはわずかに押し返され、目を細めた。


「小細工だ。」

 吐き捨てるイアンの周囲の地面が再び割れ、魔獣が咆哮を上げて這い出す。


「またそれか。」

 カルマは舌打ちし、火炎を纏って地を蹴る。

 巨大な炎の刃が魔獣を一閃し、焼け焦がした肉片が崩れ落ちる。


 エンは静かに銃口をイアンに向けたまま、冷たい声で呟く。


「……霧化か。」

 黒煙が周囲に溶けるように広がり、イアンの気配が掻き消える。

 カルマはわずかに目を見張り、声を詰まらせた。


「消えた……?」


 エンの視線はその残響を追うように冷たく走る。

「偽物だ。本物はもう学院を狙いに行った。」


 その言葉にカルマの顔色が変わる。

「っ、あの野郎……!」


 エンはすでに背を向け、歩き出していた。

「行くぞ。」


 カルマは悔しげに奥歯を噛みしめ、背後を振り返った。

 そこには、ただ立ち尽くすアリアンの姿があった。

 涙で濡れた目で、震える唇を噛みしめ、動けずにいる。


 カルマは小さく嘆息し、荒っぽく手を伸ばした。

「何してんの、来な!」


 その声にアリアンは小さく肩を震わせた。

 目を見開き、カルマを見て、そしてエンの背中を見つめる。

 胸がきつく締め付けられるようで、言葉が出なかった。


 それでも、カルマの手に引かれるまま、一歩を踏み出した。

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