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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十三章

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選び (5)

 寮に戻った頃には、外はもう薄暗くなっていた。

 アリアンとセレナは相変わらず学院の寮で一緒に暮らしている。

 部屋はいつも通り整っていて、質素だが居心地のいい空間だった。


 セレナの生活パターンはほとんど変わらない。

 相変わらず朝早く出て行っては、夜遅くまで戻らないことが多い。

 けれど、以前のように完全に距離を置くわけではなくなった。

 最近は少なくとも、夕食の時間くらいはアリアンと一緒に過ごしてくれるようになった。


 小さなキッチンからは、ほのかに食事の香りが漂ってくる。

 セレナが二人分の簡単な汁麺を盆に載せて運んでくると、無造作にアリアンの前に一碗置いた。


 自分も椅子に腰かけ、箸を取って軽く言う。

「ほら、早く食べな。冷めたら美味しくないし。」


「……ありがとう。」

 アリアンは小さな声で返事をして、箸を持った。


 食卓には落ち着いた静けさが流れる。

 二人はとりとめのない話をした。

 学院での些細な出来事や、話し下手な先生の授業で起きた笑い話。

 そんな何でもない会話なのに、アリアンはどこか懐かしいような安心感を覚えていた。


 だけど、その安らぎがすべてを消し去るわけではなかった。

 数日前、アイデンから送られてきた身体検査の結果が、まだ頭の中で引っかかっていた。


『アリアン、今のところ拒絶反応は見られない。移植した心臓も安定してる。ただ、魔力の流れに関しては……まだ経過観察が必要だ。何か違和感があったら、すぐに報告してくれ。』


 あのときのアイデンの声が頭に蘇る。

 優しくも慎重なその響きが、胸の奥を重くした。

 アリアンは手元の麺を見つめ、半分ほど食べ進めたところで箸を止めた。


 胸の奥に、言葉にできない重苦しさが広がる。

 自分の体の中で何かが変わっている気がして、その変化はきっと単純なものじゃない。


 セレナはそんなアリアンの沈黙に気づいたのか、ちらりと目を上げて彼女を見た。

 声はいつものように素っ気なく、けれど少し気遣うようでもあった。

「……どうした。口に合わなかった?」


「ううん、ただちょっと疲れてるだけ。」

 アリアンは首を振り、無理に笑みを浮かべて答えた。


 セレナはしばらく見つめていたが、特に何も言わずにまた麺を啜り始めた。

 言葉は減っていき、やがて食事の音も途切れた。

 外はますます暗くなり、静けさが部屋を包む。


 食べ終わると、二人は自然に自室へと戻っていった。

 アリアンは自分のベッド脇の窓辺に座り、外の闇に揺れる木々をぼんやり見つめた。

 心の中には、まだ整理のつかない問いがいくつも渦巻いていた。


◆ ◆ ◆ 


 校長室の空気は重かった。

 アイデンは机の横に立ち、コントローラーを握りしめて眉をひそめていた。

 ボタンを押すと、パソコンの画面が壁の大きなモニターに投影され、資料のページが次々と開かれていく。


「今まとめたばかりの検査報告だ。」

 メガネを軽く押し上げながら、アイデンは抑えた声で続けた。


 コントローラーを操作し、いくつかのページをめくりながら、画面上のデータを示す。


「まずはアリアンの出自だ。現時点で判明しているのは、彼女は自然に生まれた存在じゃない。イアンが試験管を使って“作った”存在だということ。」


 その声は冷静だが、明らかに苦い響きを含んでいた。

「これは単なる実験じゃない。何度も失敗と調整を繰り返した末の、いわば最終計画だ。」


 カルマが眉を上げ、皮肉交じりに吐き捨てる。

「道具扱いかよ。あのクソ親父、自分の“娘”を?」


 アイデンは小さく頷き、視線をモニターに落とした。


「昔、俺が知っていたイアンは、自分に娘がいるなんて一言も言わなかった。それも偶然じゃなく、意図的なものだろう。アリアンの誕生は強い目的を帯びたものだ。彼女は普通の子供じゃない。計算し尽くした“成果”だ。」


 そして、ページをさらにめくり、ある記録を指差す。


「実際、こうした実験は一度きりじゃない。アリアンは唯一の“作品”じゃない。」


 エンが指先で机を軽く叩きながら、低く尋ねる。

「彼女以外にも同じような実験体がいたということか。」


 アイデンは頷き、記録を示す。


「イアンはこの計画に大量のリソースを投じていた。条件に合わない実験体は“失われた”。アリアンが残されたのは、彼女だけが持つ特別な性質を評価されたからだ。」


 カルマが腕を組み、冷たく鼻を鳴らす。

「“失われた”ね。要は失敗作は全部処分したってことだろ。」


 アイデンは否定しなかった。


「アリアンには、魔力を反射するという非常に稀な特性がある。彼女の体は生まれつき、外から加えられる魔力を完全に遮断、あるいは跳ね返す能力を持っている。研究上でもほとんど例がない性質だ。イアンはそこに価値を見出し、彼女を計画の核に据えた。」


 エンの目が鋭く細められる。

「つまり最初から“娘”なんかじゃなく、自分の計画を実現するための道具だったってことだ。」


 アイデンはメガネを押し上げ、淡々とした声で返す。


「その通りだ。それが彼女のイアンへの異常な執着を説明する鍵でもある。イアンは、父親としての愛情を与えるふりをしつつ、彼女に徹底的に価値観を刷り込んだ。自分の承認こそが生きる意味だと教え込んだんだ。」


 カルマの目は冷たく光り、吐き捨てるように言う。

「本当に最低だな。あんな洗脳みたいなこと、よくもまあ平然と。」


 アイデンは小さく息を吐き、声を落とした。

「だからこそ、今イアンの直接的な支配を断ち切っても、彼女の中に残るものは簡単には消えない。心の拠り所にされてきた年月は、そう簡単に剥がれるものじゃない。」


 エンの視線はさらに深く沈む。

「イアンがいなくなっても、アリアンは縛られ続ける可能性がある。」


 アイデンは頷く。

「そして、その支配は精神だけじゃない。身体そのものにも改造が施されている。」


 カルマが顔をしかめて問い返す。

「……セレナは? 彼女の体も何か関係があるのか。」

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