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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十二章

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断章 (4)

 アリアンは寮の部屋でしばらく休んでいたが、検査結果を待つ時間が落ち着かなくて仕方がなかった。

 室内の時計がカチカチと音を立て、針はゆっくりと進む。窓の外の光も次第に柔らかさを増し、夕暮れへと移り変わっていく。


 セレナはどこかへ行ってしまい、アリアンはそのことが気がかりだった。

 気を紛らわそうと本を開いてみても、内容は全く頭に入ってこない。

 やがて、彼女は思い切って立ち上がり、アイデンにセレナやノックスの様子を聞きに行くことを決めた。


 学院の廊下を歩くと、夕陽の残光が窓から差し込み、暖かな金色の光が長く伸びた影を作り出していた。

 校長室の前に着くと、中ではアイデンが机に向かって書類を読んでいた。


 アリアンはドアの前で少し躊躇ったが、やがて小さな声で問いかけた。

「アイデン……セレナとノックスがどこにいるか知ってる?」


 アイデンは顔を上げず、書類に目を落としたまま落ち着いた声で答えた。

「セレナは自分の用事を片付けているよ。ノックスなら訓練場にいるはずだ。」


 アリアンは意外そうに目を瞬かせ、首をかしげた。

「訓練場……? ノックスがそんなところに?」


 アイデンはゆっくりと視線を上げ、意味深な笑みを浮かべた。

「父親と一緒にいるんだ。」


「……エリオットさんと一緒?」

 アリアンの胸が一気に高鳴った。

 ノックスの父親が、自分が長年憧れていた狩人——エンだと分かってから、どこか気まずくもあり、憧れの気持ちも消せなかった。


 視線を落とし、靴先を見つめながら、不安げに声を絞り出した。

「……私が行ったら、邪魔にならないかな?」


 アイデンは肩をすくめ、柔らかく笑った。

「それはお前次第だな。でも、会いに行くのも悪くないと思うぞ。少しは気が楽になるかもしれない。」


 アリアンは唇を噛み、しばらく黙り込む。

 会ったら、何を話せばいいんだろう?

 尊敬の気持ちを素直に伝えればいいのか、それとも軽い挨拶だけにするべきか——

 そんなことを考えれば考えるほど、足がすくむようだった。


 アイデンはそんな彼女の様子を見て、クスリと小さく笑い、からかうように言った。

「そんなに構えるなよ。何か話したいことでもあるのか?」


 アリアンはびくりと肩を震わせ、頬を赤くして首を横に振った。


「べ、別に……話したいことなんか、ないよ!」

 声が少し裏返り、慌てて取り繕うように言った。


 アイデンは眉をわずかに上げ、口元の笑みを深めたが、追及はしなかった。

 ただ軽く顎をしゃくり、低い声で促した。


「なら、行ってこい。」


 アリアンはもう一度唇を噛み、言いかけた言葉を飲み込んで小さく頷くと、くるりと向きを変え、足早に廊下を歩き出した。


 アイデンはそんな彼女の背を目で追いながら、ふっと小さく笑い、独り言のように呟いた。


「……面白い子だな。」

 そして再び視線を手元の書類に落とし、何事もなかったように仕事へと戻った。



 アリアンは学院の廊下を歩き、訓練場の扉をそっと押し開けた。

 目に飛び込んできたのは、平板を片手に持ち、もう一方の腕を吊ったまま立っているノックスと、車椅子に座るエンの姿だった。


 訓練場内のいくつかのモニターには複雑なデータや図面が映し出されており、二人は真剣な表情で何かを議論していた。

 最初にアリアンの来訪に気づいたのはエンだった。彼は静かな目でこちらを一瞥し、続いてノックスも振り返り声をかけた。


「検査、もう終わったのか?」


 アリアンは小さく頷いて答えた。

「もう終わったけど、結果はまだ。しばらく待たないといけないみたい。」


 そして視線をエンへと向け、少し緊張した面持ちで挨拶した。

「エリオットさん、こんにちは。」


 エンはほんの僅かに顎を動かして「……ああ」と短く返すと、すぐにモニターへ視線を戻した。


 アリアンはそのまま立ち尽くし、どう声をかければいいのか分からずに逡巡したが、結局ノックスの方へ向き直って聞いた。


「何をしてたの?」


 ノックスはモニターを指し示しながら、軽い調子で説明した。

「父さんの足の符紋装置を調べて、改善できるところがないか探してたんだ。」


 アリアンはノックスの指先を追ってモニターを見たが、表示されているデータの意味はよく分からなかった。

 しかし頭の中には、昨日の魔獣との戦いが鮮明によみがえってきた。


 エンとセレナが背中合わせに戦う姿、完璧な連携——その記憶だけで胸が高鳴った。

 思わず声に出してしまう。


「昨日、エンさんとセレナが魔獣と戦ってたの、すごく格好良かった! あんな戦い方、本当に憧れる!」


 エンはわずかに視線を上げ、眉をぴくりと動かしただけで返事はしなかった。

 一方でノックスは口元を緩め、少し残念そうに笑った。


「いいなあ、俺は昨日ほとんど動けなかったから、見られなかったんだ。父さんとセレナがどんな連携してたのか、気になるな。どんな感じだった?」


 アリアンの瞳がキラキラと輝き、興奮気味に語り出した。


「エンさんの射撃は無駄が一切なくて、一発一発が全部狙った通りに当たるの! セレナの動きも素早くて鋭くて、二人ともほとんど言葉を交わさなくてもぴったり息が合ってた。あれはもう、完璧なパフォーマンスみたいだった!」


 ノックスはその説明を聞きながら口角を上げ、ふっとエンに目を向けた。

「……そういえばアリアンさ、前に父さんのことすごく尊敬してるって言ってたよな。」


 アリアンの顔が一瞬で真っ赤になり、思わず足を鳴らして抗議した。

「ノックス! なんでそういうこと言うの!? 秘密だって言ったじゃない!」


 ノックスは愉快そうに笑いながら、さらにからかった。

「秘密もなにも、誰が見たってバレバレだろ。」


 アリアンはむっと頬を膨らませ、ぷいっと顔を背けた。

「もう、絶対に何も話してあげないから!」


 エンは二人のやり取りを静かに見つめていたが、わずかに口元を緩めると、落ち着いた声でノックスに話しかけた。

「ノックス。前にお前が作ったあの銃、あれはアリアンに渡したんだろ。」


 ノックスは一瞬目を瞬かせたが、すぐに肩を竦めて苦笑した。

「たまたま、アリアンに合うと思っただけだよ。深い意味はない。」


「たまたま、って何よ!」

 アリアンは顔を真っ赤にして抗議したが、声の端にはどこか照れ隠しの響きがあった。


 エンはそんな二人を一瞥し、再び真剣な声音に戻った。

「アイデンのところに、まだこの端末に取り込んでない設計データがあるはずだ。取ってきてくれ。」


 ノックスは頷き、「分かった、すぐ戻る」と短く答えると、アリアンに目を向けて小声で言った。


「この間に、父さんと少し話してみたら?」

 そう言い残し、ジャケットを引っ掛けて足早に訓練場を後にした。

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