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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十二章

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断章 (2)

 セレナの目が鋭くなり、一瞬何かを言いかけたが、結局唇を噛み、黙り込んだ。

 葛藤がその目にありありと見えた。


 ノックスは二人を交互に見やり、小さくため息をついた。

「……そうする理由があったんだろ。」

 彼は少し間を置き、言葉を足した。

「だろ?」


 セレナは深く息を吐き、声を低くした。


「そうよ。伊恩に利用され続けた。私はただの道具で、アリアンは別の“駒”だった。でももうあいつには好き勝手させない。私の姉を、もう傷つけさせたりしない。」


 アリアンはその言葉を聞き、目を見開いた。

 頭の中で整理が追いつかず、ただセレナを見つめたまま、続きを待っていた。

 セレナは視線を落とし、声を低くした。


「五年前、あの人たちに連れ去られて、イアンの前に差し出された。彼は私の力を欲しがり、いろんな改造を施した。でも……どれだけ絶望しても、自分が誰かを忘れたことはなかった。」


 言葉を切り、しばらく感情を抑えるように唇を噛むと、また静かに続けた。


「限界まで追い詰められたとき、アリアンの笑顔や温かさを思い出していた。それが私の生きる目標で、希望だった。」


 セレナはゆっくりと顔を上げ、複雑な表情でアリアンを見つめた。


「だからこそ、あんたには危ない目に遭ってほしくなかった。巻き込ませたくなかった。全部私が引き受けてでも、あんたにはこの争いから離れていてほしかった。太陽はただ静かに照らしていればいい。こんな闇に汚れる必要はない。」


 アリアンは目を見開き、何かを言おうとしたが、喉が詰まったように声が出ず、ただ浅く呼吸を繰り返した。

 セレナの視線はノックスに移り、わずかに棘のある声になった。


「でも、あんたが現れたことで、全部変わった。アリアンの意識はあんたに向かい、私の存在なんて段々どうでもよくなった。」


 ノックスは眉をひそめ、皮肉っぽく言い返した。

「それで俺を襲ったり、怒ったりしてたわけか?」


 セレナは鼻で笑い、そっぽを向いた。

「別に認めるつもりはないわ。」


 アリアンは思わず立ち上がり、少し震える声で叫んだ。

「ノックスだけなんて見てない!私だって、ちゃんとセレナのこと心配してた!」


 その言葉に、セレナは鋭くアリアンを見つめた。しかしアリアンは視線を逸らさず、口を開きかけては飲み込むように言葉を詰まらせた。


「ただ……」

 アリアンはうつむき、服の裾を握りしめた。

「いつも冷たくされて、どう近づけばいいか分からなかったの。何かしたら嫌われるんじゃないかって……怖かった。」


 声はだんだん小さくなり、最後にはほとんど聞こえないほどに。

 アリアンは唇を噛み、目元が赤く滲むのを必死で堪えていた。


 セレナはそんなアリアンをじっと見つめ、わずかに口を開きかけたが、結局何も言えずに目を逸らした。窓の外を見つめるその横顔は、どこか逃げるようでもあった。


 ノックスは小さくため息をつき、二人を交互に見てから、ぼそりと呟いた。

「お前ら、どっちも相手のことを大事に思ってるのに、わざわざ離れてどうするんだよ。時間の無駄だろ。」


 セレナの目が鋭くなり、冷たく言い返した。


「親に守られて育ったあんたには分からない。」

 その瞳には深い苦味と疲労がにじんでいた。


 ノックスはその言葉に少し怯んだように目を伏せた。

 セレナの言う「改造」や「非人道的なこと」という言葉が、彼の頭の中でぼんやりとした恐ろしいイメージを形作っていった。

 そのイメージは重たく胸を締め付け、吐き気がするほどに痛かった。


 ノックスは傷ついた左腕を抱え込むように握りしめ、吊り帯に指をめり込ませた。

 その痛みで心を落ち着けようとしたが、決して消えはしなかった。

 ふと脳裏をよぎるのは、あの時の手の感触――崩れそうになった彼の頬に触れた、あのわずかな温もり。

 目を閉じ、その記憶に一瞬救われながらも、それが余計に胸を締め付けた。


 セレナはノックスのそんな様子に気づき、視線を落として小さく息を吐いた。

「……ごめん。そんなこと言うべきじゃなかった。」


 その声はかすかだったが、確かな謝意が込められていた。

 ノックスはゆっくりと顔を上げ、セレナを見つめた。

 視線が交わると、複雑な感情が静かに和らぎ、やがてかすかな理解と受容へと変わっていった。

 何も言わず、ただ小さくうなずくノックスの姿は、「分かってるよ」と伝えていた。


 アリアンの視線がセレナの顔に向けられ、不安と戸惑いが混じった声が漏れた。

「セレナはお父さんに連れて来られたんだよね……じゃあ、私は? 私も……本当は実の娘じゃないの?」


 セレナはゆっくりと目を上げ、複雑な光を宿した瞳でアリアンを見たが、声は驚くほど静かだった。

「いいえ、あんたはイアンの実の娘よ。少なくとも……私はずっとそう理解してた。」


 アリアンはその場で固まり、唇を噛みしめた。声はわずかに震えていた。

「じゃあ、五年前の“事故”は? あれはいったい何だったの?」


 セレナの目つきが一瞬で鋭く変わり、抑えきれない怒りと苦痛がにじんだ。


「事故なんかじゃない。」

 低く、しかし確実に突き刺さるようなその声に、部屋の空気が張り詰めた。


 アリアンの瞳孔が震え、さらに問い詰めようと口を開きかけたそのとき、セレナは黙ったままゆっくりとジャージをたくし上げた。


 そこには、腹から胸にかけて真っ直ぐ走る深い傷跡があった。それは冷たい証拠のように肌に刻まれていた。


 ノックスの眉が深く寄り、声が低くなる。

「それは……」


 アリアンは口を手で覆い、顔色を失った。

「その傷……私のと同じ……。」


 部屋中の空気が凍りついたように静まり返った。

 セレナは服を下ろし、氷のように冷たい声で言った。


「心臓移植手術の跡よ。」


 アリアンは雷に打たれたように動けなくなり、呆然とした目でセレナを見た。

「心臓……移植? どういうこと……?」


 セレナは全員を見渡し、最後にアリアンを正面から捉え、淡々と告げた。


「五年前のあれは事故なんかじゃない。あれは実験だったの。イアンは力を欲しがり、私たちを実験台にした。私たちは心臓を交換されたのよ。」


 アリアンの目が大きく見開かれ、信じられないものを見るように震えた。

「心臓を……交換……? それって……私の中の心臓は……セレナの……?」


 セレナは小さくうなずき、声は酷く冷静で、それが余計に恐ろしかった。

「そうよ。それがあの実験の目的だった。イアンは私の力をお前に移そうとした。お前は彼の実の娘だから、その価値があると考えた。でも結局は失敗に終わった。」


 アリアンの両手が胸を押さえ、声が震える。

「じゃあ……私の体の中にあるのは、セレナの心臓……?」


 セレナの目に一瞬、痛みが走ったような色が浮かんだ。

「そう。お前の心臓は今も私の体の中にある。イアンは私たちを使って狂った実験をした。それも、私たちの命を賭けて。」


 ノックスの手が無意識に握りしめられ、指の関節が白くなるほど力が入った。

「そんな……お前たちにそんなことを……。力のために……?」


 彼はセレナを、そしてアリアンを見て、その目に深い怒りと悲しみを浮かべた。

 手で額を押さえ、震える声を絞り出す。


「イアン……あいつは……ただの狂人だ。自分の娘たちに……よくも……。」

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