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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十一章

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覚醒 (1)

 夜の闇が街を包み、風の音すら耳に痛いほどに静まり返っていた。

 アリアンはそっと家の扉を開け、ようやく一息つこうとした——その瞬間、鋭く響き渡る音が空気を裂いた。


「パァンッ!」


 玄関口で彼女の足が止まる。

 目の前に広がる光景に、息が詰まった。


 薄暗いリビングの中央、セレナが床に膝をついていた。

 頬にははっきりと赤く腫れた痕が浮かび、その前に立つイアンの右手はまだ空中に残っている。


 彼の目は氷のように冷たかった。


「セレナ!」

 アリアンは声を上げ、駆け寄って妹を抱き起こした。

「どうしたの!?」


 セレナは何も言わず、ただ歯を食いしばり、イアンに冷たい視線を向けた。

 そこに怯えはなかった。ただ、抑えた怒りと鋼のような意志があった。


「お父さんっ……!」

 アリアンは怒りに震えながら父親を睨みつけた。

「どうして彼女を叩いたの!?何をしたっていうの!」


 イアンはゆっくりと手を下ろし、冷たくアリアンを見下ろした。

 その視線はまるで鋼の刃のように無機質だった。


「彼女は失敗した。」


 抑揚のない声には、圧迫感が満ちていた。

「執行者でありながら、任務すら果たせず、学園祭などに出るとは何事か。」


 一歩踏み出した彼の声はさらに冷えた。


「お前たちはここ数日、遊んでばかりだった。任務の優先順位を忘れた代償は大きい。貴重な機会を逃したこと、理解しているのか?」


 アリアンの顔から血の気が引いたが、それでもセレナの前に立ちはだかり、声を震わせながら反論した。


「私たちは学生よ。学園祭に参加するのは当然でしょ?たとえ任務が大切でも、こんなやり方で責めるのは……!」


「もういい、アリアン。」

 セレナの低い声が遮った。その声は冷たく、そしてどこか疲れていた。

「これは私の問題。口出ししないで。」


「どうして関係ないって言えるの?あなたは、私の——」


「私は、あなたの“何か”じゃない。」

 その言葉は切り裂くように鋭く、アリアンの目を真っ直ぐに射抜いた。


「あなたには分からない。分かる必要もない。」

 セレナはアリアンの手を振り払い、よろめきながらも立ち上がり、壁づたいに階段を上っていった。


 アリアンはその背を見送りながら、胸の奥に鉛のような重さを感じていた。

 彼女はゆっくりと振り返り、再びイアンを見据えた。唇がわななき、言葉にならない。


 イアンはただ一瞥をくれただけで、冷たい声を落とした。

「どの問題に首を突っ込むべきか、判断できるようになれ。」


 アリアンは深く息を吸い、震える声で叫ぶように言った。

「結局、私は何も知らない。いつも蚊帳の外!何もできない……!」


 その言葉に、去りかけたイアンの足が止まった。

 彼はゆっくりと振り向き、冷笑を浮かべながら言った。


「そうか。ならば、試してみるか?」


 アリアンは思わず目を見開いた。その提案が信じられなかった。

「……何を、させる気なの?」


「悪魔の翼を持つあの少年を、連れてこい。」

 イアンの目が鋭く光る。その声は冷酷で、皮膚を切る刃のようだった。


「……どうして?」

 アリアンの声がかすれた。心の中に不安が広がっていく。


「彼は、(エン)とカルマの子供だ。」

 イアンは低く、押し殺したように笑った。


「理由など聞かなくていい。手段は問わない。身体でも感情でも使え。何があっても連れてこい。」


 雷が脳を貫いたような衝撃。アリアンの口から零れる言葉は震えていた。

「……エンとカルマ……って……まさか……ノックス……?」


「そうだ。」

 イアンは短く吐き捨てるように言った。「反応は早いな。」


 信じられない。

 静かで、不器用で、でも気になる存在だった彼が——


 あの伝説のハンターの息子だなんて。


 足元が揺れるような感覚。アリアンの手は震え、言葉を失っていた。


「言わないさ。」

 イアンは冷笑を浮かべたまま続けた。


「正体が知られれば、“学生”ではいられない。“資源”になる。

 そして私は、その“資源”を求めている。」


 アリアンは呆然と立ち尽くし、内心の嵐に飲まれていった。

 イアンはそんな娘を見下ろし、最後にこう告げた。


「手段は問わん。ノックスを連れて来い。それが、お前が“役に立つ”という証明だ。」


 アリアンの唇が震える。拳を握りしめても、反論の言葉が出てこない。

 イアンは冷たく笑って背を向けた。


「……期待しているぞ。」


 足音が遠ざかるにつれ、リビングは再び静けさに包まれた。

 アリアンはその場に立ち尽くし、震える身体でただ呆然と……ノックスの顔を、思い浮かべていた。


 ◆ ◆ ◆ 


 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中にかすかなぬくもりをもたらしていた。

 だが、アリアンの胸の奥に広がっていたのは、痛みと重苦しさだけだった。


 彼女はベッドの端に座り込み、膝を抱えたまま茫然と床を見つめていた。

 昨夜の父の言葉が頭の中で何度も繰り返される。それは鋭い棘となって、思考のすべてに突き刺さっていた。


(お前の身体でも、感情でも構わない――とにかく、彼をここに連れてこい。)


 その一言が、胸に重くのしかかる。

 父がノックスを連れて来いと言ったのは、単なる命令ではない。

 あの目の奥にあった冷酷と執着――彼の目的は、ノックスの“力”か“存在そのもの”。それを思うと、アリアンの背筋に寒気が走った。


「彼に……害を加えるつもり……なの……?」


 アリアンはかすれた声で呟いた。

 その目には、どうしようもない葛藤と迷いが滲んでいた。


 だが、彼女にはわかっていた。

 父の命令は絶対。それがこの家のルール。

 どれだけ反発しようと、結局は従うしかないのだと――


 彼女は拳を握りしめ、爪が掌に食い込んでも、その痛みさえ感じなかった。


「なんで……なんで私なの……?」

 絞り出すような声に、涙がにじむ。


 目を閉じ、必死に平静を保とうとしたが、頭の中に浮かぶのはノックスの姿だった。

 あの冷めた口調と、時折見せる優しさ――それを思い出すだけで、胸が締め付けられる。


 どうしていいかわからない。

 彼にどう向き合えばいいのか。

 この“任務”を、どう受け止めればいいのか。


「……ごめんね。」


 アリアンはぽつりと呟いた。

 それはノックスに対する謝罪であり、自分自身への言い訳でもあった。

 一粒の涙が頬を伝い、シーツに落ちて消えていく。


 彼女にはわかっていた。

 この先、どちらかを選ばなければならない。

 父の命令に従うか――それとも、自分の良心に従うか。


 唇を噛みしめ、こみ上げる感情を必死に押し殺す。

 だが、胸の重圧は増すばかりだった。


 学院に戻ることさえ怖かった。

 ノックスの顔を見ることが、怖かった。


 ――こんな任務……私にできるの……?


 混乱の渦に飲まれていたその時、

「ギィ」と扉の開く音がした。


 黒い影が、静かに部屋に現れる。

 その冷たい視線に、空気が張り詰めた。


「……で、どうするつもり?」

 セレナの声は冷たく静かだった。

 刃のような言葉が、アリアンの心に突き刺さる。


 アリアンは顔を上げる。

 部屋に足を踏み入れた妹――普段は決して入って来ないセレナが、今日は自ら来たのだ。


 その瞳は深く、静かに彼女を見つめていた。

 まるで、アリアンの迷いも弱さも、すべて見透かしているかのように。


「昨日の……聞いてたの?」

 かすれた声で問いかけながら、アリアンは自嘲気味に俯いた。

「……そっか、何でも知ってるもんね。」


 セレナは黙ってアリアンの前に立ち、見下ろしたまま、感情のこもらない声で言った。

「それで?どうするの?」


 アリアンは首を横に振り、スカートの裾をぎゅっと掴んだ。

「わからない……何が正し

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