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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十章

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祭り (6)

 華麗な演技を終えたカイルが、翼をゆっくりとたたみ、観客に向かって優雅に一礼する。

 その瞬間、観客席からは雷鳴のような拍手と歓声が湧き起こった。


 続いて、音響から次の出場者の名がコールされる。

「エマロ学院・符紋科一年——ノックス君!」


 会場の照明が一斉に落ち、舞台は一瞬にして闇に包まれた。

 そして、次の瞬間——


 スポットライトが中央に集まり、一人の黒衣の少年が光の柱の中に立っていた。

 全身黒の執事服には銀の刺繍が施され、洗練されたシルエットは、まるで戦場の制服のように引き締まっている。


 ノックスは顔を上げ、冷ややかな眼差しで客席を見つめながら、手の中のトランプを交差させて抜き出すと、一枚を軽やかに放った。


 シュッ——!


「えっ……今の、本物!?」

「今、何か光らなかった!?」


 観客がざわめいた次の瞬間、数名の「敵役」クラスメイトが面白おかしく吹き飛び、わざとらしく地面に倒れ込む。

 その滑稽さとノックスのクールな所作の対比が、会場全体を一気に盛り上げた。


 舞台右のカーテンが開き、今度はゴシック調の赤いドレスを纏った「魔女お嬢様」が登場。

 片手に杖、頭には羽飾りのミニハット。多少緊張した様子ながらも、気品ある態度を崩さず、舞台の上を優雅に歩く。


 ノックスは静かに彼女へと歩み寄り、数歩手前で立ち止まる。

 軽く頭を下げ、礼儀正しく言葉を紡いだ。


「お嬢様——ここは危険です。俺が、すべて排除いたします。」


 カードを再び数枚投げ放ち、ノックスは最後の「敵役」を鮮やかに倒した。

 観客席から歓声が上がる中、彼はゆっくりと振り返り、魔女役の女生徒に歩み寄ろうとした、その時だった――


「――きゃあっ!」

 突如響いた悲鳴が、会場の空気を裂いた。


 魔女役の女生徒の足元が不意に沈んだ。

 舞台の縁に敷かれていた演出用の布がめくれ上がり、それにハイヒールのつま先が引っかかってしまったのだ。


 そして彼女の身体は、バランスを崩したまま、舞台前方の「開口部」――安全柵のない空間へと傾いていった!


 彼女の体は、まさに今この瞬間、何の防ぎもなく舞台から落ちようとしていた。


「うそ……!?」

「誰か止めて――!」


 観客席が一気に騒然となる。

 悲鳴、叫び、誰かが立ち上がる気配――

 だが、それらすべてが無意味だった。


 その時、空気を引き裂くような音が響いた。


 バンッ!!


 暗紅の翼が、音を伴って炸裂するように開いた。


 ノックスは一瞬の迷いもなく、翼を展開したまま地を蹴り、鋭い軌道で舞台の端へと飛び出した!

 その動きはまるで、夜空を切り裂く隼のように鋭く、正確だった。


 彼の体は一気に空中へと跳ね上がり――


 落下寸前の魔女役の女生徒を、完璧なタイミングで受け止めた。

 左腕で背を支え、右腕で脚を抱え込むようにして抱き上げると、ノックスはそのまま翼で体勢を立て直し、

 空中で弧を描くように旋回しながら、舞台の縁へとふわりと着地した。


「お嬢様は……本当に目が離せませんね。」


 彼はそう静かに呟き、まるで何事もなかったかのように佇んでいた。

 会場全体が凍りついたように、誰もがその光景に言葉を失っていた。

 風を切る音と、翼がたたまれる音だけが残響する。


 そして、次の瞬間——


「うおおおおおおっ!?」

「なに今の!?マジの翼!?」

「本物だったのかよ!?飛んだぞ今!?」

「カッコよすぎるだろノックスーーーッ!!」


 怒涛のような歓声が巻き起こった。

 興奮してジュースをこぼす生徒、前列の女子が口を押えて「恋しそう……」と囁くなど、熱気は最高潮に達した。


 ノックスはまだ呆然としている女生徒をそっと立たせ、ステージの安全な場所まで連れて行くと、自分の翼をひと揺らし、小さくたたんだ。


 そして何事もなかったかのように舞台中央に戻ると、深々と一礼をした。

 その背筋は真っ直ぐで、衣装の裾が静かに揺れた。

 先ほどの英雄的な瞬間とは裏腹に、その態度はあまりにも落ち着いていて——かえって観客の心をさらに掴んだ。


 舞台袖から顔を出していたカスパは、その一部始終を見て凍りついていた。

「……俺は、ただカフェの宣伝がしたかっただけなんだ……」


 膝から崩れ落ち、壁にもたれて頭を抱える。

「終わった……完全に燃え尽きた……」


 彼の絶望などお構いなしに、ノックスの行動はすでにその場にいた全員の記憶に強烈に刻まれていた。


 その「寡黙な執事」は、観客の誰よりも冷静な顔で、静かに舞台裏へと歩を進めていった。

 あたかも、あれが彼の日常の一部であるかのように——。



 ノックスが舞台裏に戻ると、すでに待ち構えていたクラスメイトたちが一斉に駆け寄ってきた。

 その目は興奮と驚愕で輝いている。


「おいおいおい、今の翼……本物だろ!?」

「マジで飛んでたよね!?動きが……まるで本物の悪魔じゃん!」


 ノックスが口を開く前に、カスパがすかさず両手を挙げて叫んだ。


「はいはい、みんな落ち着いて!あれは機構、そう、符紋武器の改造品だよ!わかった?特殊演出!一回限りの特製品!俺たち符紋科だからこそ、あれくらいのギミックは当然でしょ!」


「えー!?マジで?あんなにリアルなのに!?」

「すごっ……そんなことまでできるの!?」

「さすが武器屋の御曹司だなぁ……」


 カスパはニヤリと笑いながら、こっそりノックスにウィンク。

 『フォローしといたぜ』とでも言いたげなドヤ顔だった。

 ノックスは無言のまま彼を一瞥し、小さく頷いて応えた。


 そのとき、舞台袖の長椅子にぽつんと座る少女が目に入った。

 魔女お嬢様役を演じたクラスメイトだ。顔はまだ青ざめていて、両膝を抱えたまま呆然としている。

 どうやら、まだ現実に戻ってきていないようだった。


 ノックスは彼女のもとへと数歩歩み寄り、静かに声をかけた。

「……大丈夫か?」


 彼女はぼんやりと顔を上げ、ノックスの顔を見た瞬間、はっと我に返ったように顔を真っ赤にして小さく呟いた。


「っ……あ……うん……あ、ありがとう……だ、大丈夫……です……」

 言い終えると、彼女はすぐに顔を伏せて、まるで茹でダコのように真っ赤になってしまった。


 その様子に周囲のクラスメイトたちはクスクスと笑い出し、カスパに至ってはどこかで聞いたことのある恋愛ドラマのBGMを鼻歌で歌い始める始末。


 ……が、ノックスの冷たい視線を一閃喰らって、すぐに沈黙した。


 ちょうどその時、校内放送が鳴り響く。

『午前の「学院プリンス選抜ステージ」は、これにて終了といたします。午後からの「学院プリンセス選抜」も、ぜひお楽しみに!』


 広場では観客たちがざわめきながら散り始め、舞台裏も次の準備に向けて忙しなく動き出す。

 さきほどの即興劇と、あの“謎の翼”は、早くも本日最大の話題として熱く語られていた。


 カスパはノックスの肩を軽く叩き、得意げに笑った。

「こりゃ、午後の営業……人手を増やさないとヤバいかもな?」


 そう言いながら、ハンドタオルを差し出す彼の口調はどこか誇らしげで、しかしどこか呆れたようでもある。


 ノックスは何も言わず、それを受け取ると、少し離れたところに歩いて行った。

 制服の背中をそっと見やる。

 さきほど強引に翼を展開した影響で、シャツは破れ、外套の背中にも裂け目ができていた。


 ——これでは、とても接客に戻れる状態ではない。


「うーん、うちのエースは……午後の部、欠場だなこりゃ。」

 カスパは肩をすくめながら、少し残念そうにそうつぶやいた。

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