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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第十章

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祭り (2)

 放課のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気に緩む。


「よしよしよし、行くぞー!」

 カスパはすぐさま席を立ち、まるで待ってましたと言わんばかりに振り返ると、ノックスの手首をがしっと掴み、そのままズルズルと廊下へ引っ張っていく。


「どこへ?」

 眉をひそめるノックスが、やや不機嫌そうに尋ねる。


「もちろん活動室だよ! 学園祭の準備手伝うって約束したでしょ? 今日は逃がさないからね!」


 唐突な情熱に押され、ノックスは何も言わずについて行くことにした。


 人通りの少なくなった廊下で、カスパがふとあたりを見回し、小声で呟く。

「そういえば……今日、アリアン全然見てないな。静かだと思ったら、そっか。」


 ノックスの足が一瞬止まり、その目がわずかに揺れる。


 昨夜の符紋室での騒動、そしてアリアンが父親とセレナのことを知った時の、あの傷ついた表情が脳裏に浮かんだ。


(……彼女には、まだ整理する時間が必要か。)


 だがそれ以上に、ノックスの心に居座っていたのはセレナの存在だった。


 ――ソレイア。……思い出しているのか?

 あの魔力の共鳴。言葉にできない既視感が、いまだ胸の奥で燻っていた。


「おーい、ぼーっとしてないで!」

 カスパの声が思考を引き戻す。


 すでに活動室の前に到着しており、カスパはためらいもなく扉を開けた。


「来たぞー! こいつ、ついに引っ張ってきた!」


 室内では3、4人のクラスメイトがテーブルを囲んで紙を切ったり、メニューを作ったりしていた。振り返ったその瞬間——


 空気が一瞬、固まる。


 驚きはあるが、恐怖ではない。ただ、「え、本当に来たの……?」という純粋な驚き。


 ノックスの目が室内をひと通り見渡す。壁には手書きのカフェ企画表、角には制服や小道具、布類が積まれている。

 数秒間の沈黙ののち、彼は落ち着いた声で口を開いた。


「……悪い。すっかり忘れてた。手伝えることがあれば、言ってくれ。」


 クラスメイトたちは目を見合わせ、さらに驚いた表情を浮かべた。


 カスパはにっこり笑い、ノックスの背中を叩く。

「言っただろ? 見た目は冷たいけど、こいつ、実はいいやつなんだよ。」


 ノックスは否定せず、ただ黙ってメニューの束を手に取った。その目にわずかな波が揺れる。

 そのとき、カスパが「そうだ!」とばかりに額を叩く。


「そういえば、ノックス! 『学院プリンス選抜』のこと、絶対忘れてるだろ?」


 ノックスは眉をひそめる。

「……それって何だ?」


「やっぱりな!」

 カスパは肩をすくめて笑った。

「だからさー、劇をやるんだよ。簡単なやつ。もう脚本も俺が書いたから安心して!」


「……劇?」


「そう! 定番の『王子が姫を助ける』ってやつ。俺たちが悪役やるから、お前がカッコよく登場して倒して、姫にセリフ言えば終わり! 三分で終わるから!」


 ノックスは静かに頷いた。

「……いいよ、何でも。」


「ちょ、お前やる気なさすぎっ!」

 カスパは嘆きながらも楽しそうに続ける。

「学園祭、人生初なんだろ? もっとテンション上げてこーぜ!」


 その時、部屋の隅で制服の背中に悪魔の翼を装着しようとしていた女子が、黒い角の小道具を手に笑いながら言う。


「テーマ、決まったじゃん?『悪魔喫茶』! 全員、角と翼つけるの~!」


 別の子が付け加える。

「男子は執事、女子は魔女スタイル! めっちゃ映えるよね~!」


 カスパがドヤ顔でノックスを指差す。

「で、このノックスが演じるのは『無口な執事』!

『いらっしゃいませ、ご主人様』だけ言ってくれればOK!」


 ノックス:「……」


 カスパは堪えきれず吹き出す。

「いや、顔が完全に『お前なんか仕えたくねぇ』って言ってるよな!」


 その一言に、教室内が一気に笑いに包まれる。


 慣れないながらも、ノックスはこの初めての「輪」の中に、確かに存在していた。

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