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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第九章

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「セレナが紋章室を狙っているように見えた。彼女は以前、あの周辺に紋章を設置していた。明らかに不審な行動だった。

アリアンから、『何かを回収する』って言ってたと聞いて……だから、俺は来た。」

 ノックスは冷静に言った。


「回収?」

 その一言を聞いた途端、アイデンの目が鋭くなり、顔色も一変した。

「……セレナが、その言葉を使ったのか? 本当に?」


 アリアンはその反応に一瞬怯んだが、それでもしっかりと頷いた。

「うん……間違いなく、『回収』って言ってた。お父さんがそう言ってたのを聞いたの。」


 アイデンはメガネを押し上げ、深く彼女を見つめながら低く問うた。

「君の父親は、誰だ?」


 アリアンは戸惑いながらも、答えた。

「イアン……私の父の名前は、イアンよ。」


 その名を聞いた瞬間、アイデンの動きが僅かに止まる。

 目の奥に、明らかに動揺と複雑な感情が走った。


「……“黒の狩人”、イアンか。」


「知ってるの?」アリアンは不安げに尋ねた。


 アイデンは冷たく彼女を一瞥し、重々しく言った。

「君の父親はギルドの正式なハンターではない。だが、かつてギルドと協力関係にあった人物だ……娘がいたとは、知らなかった。」


 彼は少し視線を逸らし、低く続けた。

「もし彼が『回収』という言葉を使ったのなら、紋章室の中にあるものは、彼と何らかの関係がある可能性がある。」


 アリアンの顔色が一気に青ざめた。

「紋章室に封じられているのって……何なの?」


 アイデンは深く息を吸い、重く沈んだ口調で言った。

「名に意味はない。我々は『冥域の霊(めいいきのれい)』と呼んでいるが、それはただの呼称だ。実態は……誰にもわからない。」


「冥域の霊……?」アリアンの声が震える。

「じゃあ、あの封印されてたものって……?」


 アイデンの表情に、一瞬だけ痛みが走った。

「それは……五年前、我々を襲った存在だ。」


 その言葉に、ノックスの目が大きく見開かれる。

 彼の中で何かが繋がった。


「五年前……」ノックスは低く呟き、視線をアイデンに向ける。


 その目には、疑念と怒りが混じっていた。

「アイデン……その襲撃って……俺の家族がやられた、あの時のことか?」


 アイデンは黙って頷いた。その目に、どこか後悔の色が浮かんでいた。


 ノックスの拳が無意識に握られる。胸の奥で、何かがざわめいた。

 そのやり取りを見ていたアリアンは、次第に焦燥と怒りに呑まれていく。


「……もう、何がなんだかわかんない!」

 声を荒げ、彼女は叫んだ。


「セレナが人間じゃないとか、今度はお父さんが関係してるって……それに、あの化け物を送り込んだとか、そんなの全部……嘘でしょ!?」


 彼女の目には涙が浮かび、拳を強く握りしめる。

「証拠もなしに、なんでそんなこと言えるのよ……!?」


 アイデンは冷静に答えた。

「私は、彼がそれを送り込んだとは言っていない。ただ……関係している“可能性”があると言ったまでだ。」


「じゃあ、可能性があるだけで父を疑うの!?」

 アリアンは一歩後ずさり、顔を強張らせながらも必死に言葉を返した。


 ノックスがようやく口を開いた。


「アリアン、落ち着け。誰もお前の父を断定して責めてるわけじゃない……でも、事実として、イアンの名がこの件に現れている。それだけは否定できない。」


「……君まで、そんなこと言うの?」

 アリアンはノックスを睨みつけ、声を震わせた。


 ノックスは視線を逸らし、低く答えた。


「俺たちは真実を追っているだけだ。もしお前の父が本当に関係しているなら、セレナの行動も……無関係ではないはずだ。」


 アリアンは唇を噛み締めた。

 父の冷たい態度、セレナの沈黙。

 その記憶が、彼女の胸に鋭く突き刺さる。


「二人とも……私には何も話してくれなかった……」


 ノックスは少し柔らかな声で言った。

「なら、彼らから答えを聞くべきだ。俺たちじゃなくて。」


 その言葉に、アリアンの感情が爆発した。


「……彼らに聞けって? 私をずっと蚊帳の外にしてきたあの二人に?」


 彼女の声はかすれ、目に浮かんだ涙が頬を伝った。

「真実を隠してるのは、あんたたちだって同じじゃない!」


 ノックスは返事をせず、そっと目を逸らした。

 その声には、どこか諦めに似た色が混じっていた。


「俺たちは、ただ真実を知りたいだけだ。もしお前の父親がこの件に関わっているのなら……セレナの行動も、完全に無関係とは言えないだろう?」


 アリアンは唇を噛みしめ、何も言い返せなかった。

 思い浮かぶのは、父の冷たい態度と、いつも心を閉ざしたままのセレナの横顔。

 それらの記憶が、心の中で鋭く突き刺さる。


 ようやく絞り出した声は、かすれていた。

「……セレナも、お父さんも……私にこういうこと、何も教えてくれなかった……」


 ノックスの目に、一瞬だけ優しい色が浮かぶ。

 だがその口調は、相変わらず冷静だった。


「だからこそ、俺たちじゃなくて、彼らから答えを聞くべきなんじゃないか。俺たちに怒る前に。」


 その言葉を聞いた瞬間、アリアンの中で張り詰めていた感情がついに爆発した。

 目元がうっすらと赤く染まり、唇を噛みながら、怒りと失望が入り混じった声で叫んだ。


「彼らに聞けって……? 私をずっと蚊帳の外にしてきた、あの二人に?」

 その声音には、諷刺と悔しさが滲んでいた。


 ノックスは何も答えず、ただ黙って彼女を見ていた。

 その沈黙が、むしろ彼女をさらに怒らせた。


 アリアンはきつく唇を結び、踵を返すと、そのまま駆け出した。

 振り返ることなく、夜の闇の中へ消えていった。


 彼女の背を見送りながら、アイデンは静かに溜息をついた。

 疲れの色が、その声に滲んでいた。

「……お前も今日は帰れ。続きはまた今度だ。」


 ノックスは目を逸らし、低くしかし鋭い声で言い返した。

「だったら、次は逃げずに話してくれ。俺は……すべての真実を知りたいんだ。」


 アイデンは一度足を止め、振り返り、ノックスを見据えた。

 その瞳はどこまでも深く、しかし感情を見せることはなかった。


「……ノックス。前にも言ったろ。お前の両親から聞くべき話だ。」


 ノックスの拳が、無意識に強く握られる。

「……もし話してくれるなら、俺は最初から、お前を頼らなかった。」


 アイデンはそれに返事をしなかった。

 ただ静かにメガネを押し上げ、ゆっくりと踵を返して歩き出す。


「早く知ればいいってもんじゃないさ。時が来れば……すべては見えるようになる。」

 その声は夜の風に流され、次第に遠ざかっていった。


 ノックスは、その背中を黙って見つめていた。

 月明かりの下、彼の影は長く伸び、黒い地面に溶け込んでいた。


 彼の胸の中には、重く沈んだ疑問と、解けない怒りが渦巻いていた。


 空を見上げる。

 夜風が頬を撫でるたびに、冷静さが少しずつ戻ってくる。


 ふと、母・カルマとの会話が脳裏に蘇る。

 あの時、少しだけ覗いた過去の断片。

 彼女の言葉は多くを語らなかったが、何かを暗示していた。


 だが、今の彼にはっきりわかるのは――

 あの時の答えが、まだ核心に届いていないということだった。


 むしろ、謎は増え続けていた。

 セレナ。アリアン。アイデン。そして、イアンという男。


「彼らの関係……五年前の事件……一体何が隠されているんだ……?」


 ノックスは目を閉じ、深く息を吸った。

 アイデンの警告が耳の奥で響く。


 ――知れば知るほど面倒ごとに巻き込まれる。


 けれど今の彼にとって、それは選択の余地のないことだった。

 真実は、もう目の前まで来ている。


「……答えは遠いだけじゃない。ますます見えにくくなっている。」

 その呟きは、誰にも届くことなく、夜に溶けていった。


 ノックスは感情を押し殺し、静かにその場を離れた。

 セレナの行動は、きっと終わらない。

 そして、あの五年前の闇も――まだ終わっていなかった。

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