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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第九章

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共鳴 (3)

 ノックスとセレナが同時に振り返ると、

 木々の影の中からアイデンが歩み出てきた。


 月光に照らされたその姿は細身でありながら威厳があり、

 手にした符紋装置は複雑な魔紋を輝かせ、淡い青い光を放っていた。


 彼の視線がその場の全員を静かに見渡す。

 穏やかな表情のまま、だが言葉には確かな圧力が込められていた。


「誰の仕業かと思えば……納得だ。」


 セレナは唇を引き結び、目を伏せたまま片刃の剣を拾い上げ、

 再び構えるように手に力を込めた。


 ノックスは眉をひそめ、警戒の色を隠さずに言った。

「どうしてここに?」


 アイデンはメガネを押し上げ、淡々と答える。

「監視装置が反応しなくても、この様子を見て黙っていられると思うか?」


 その視線は冥域の霊の方へ向けられていた。

 魔物は封印の隙間からさらなる触手を這い出させ、

 黒煙を撒き散らしながら腐蝕の気配を強めていく。


「封印は限界だ。今すぐ安定化させる必要がある。」

 アイデンの声音は冷静かつ明確だった。


 彼は手にした符紋装置を掲げ、青い光が空気中へと広がっていく。

 透明な結界が形成され、符紋室と冥域の霊を包み込むように展開された。


 装置の出力を最大にし、地面に描かれた魔紋陣が強い光を放ち始める。

 冥域の霊が咆哮し、触手で結界を叩きつけるが、

 その衝撃にもアイデンの結界は揺るがなかった。


「核はまだ本体内部にある。完全に抑え込まない限り、封印は再び破られる。」

 アイデンは低く呟きながら操作を続ける。


 ノックスは眉間に皺を寄せ、試すような口調で言った。

「その危険性を知っていて、学園に保管していたのか?……どういうつもりだ。」


 アイデンの指が一瞬止まる。

 だがすぐに冷たい声で返す。


「お前たちが知る必要はない。」

 その返答にノックスの瞳が鋭く光るが、それ以上は追及せず、視線を再び魔物へ戻す。


 結界は安定しつつあるが、

 内部の黒煙は未だ完全には抑え込めておらず、

 魔物の嘶きが再び響き、触手が結界を叩き続けた。


 その度に結界に亀裂が入り、アイデンは小さく悪態をついた。

「……くそ、装置の魔力だけじゃ足りない……」


 彼はすぐさまノックスを振り返り、冷静だが切迫した声で言う。

「ノックス、お前の魔力を使う。今すぐだ。」


 ノックスは一瞬黙り込み、だがすぐに頷いた。

 背から悪魔の翼を展開し、アイデンの元へ飛び込む。


 彼は装置に手を重ね、自らの魔力を流し込む。

 そのエネルギーが融合し、結界の輝きは一段と増していく。


 冥域の霊の黒煙は徐々に収縮し始め、触手の動きも鈍っていく。

 だがアイデンの表情は険しいままで、装置を見据えながら呟いた。


「……まだ足りない。あと少し、衝撃が必要だ……」


 ノックスの額には汗が浮かび、苛立ちを隠せず言う。

「いったいどれだけ魔力が必要なんだ?」


「冥域の霊の核は、完全には揺らいでいない。

 この封印を安定させるには、決定的な一撃が要る。」


 アイデンは低く答える。

 そのとき——


「足りないなら、私のも使えばいい。」

 冷たい声が届いた。


 ノックスとアイデンが同時に振り向くと、

 そこにはセレナが立っていた。


 彼女は相変わらず無表情で、手にした剣は収められていた。

 代わりに、右手から微かな魔力の光が滲み出ている。


「さっき助けてもらったから、今度は返す番。」

 淡々とした口調、だが一歩一歩迷いなく装置へと近づいていく。


「任務はこの封印を解くことだったはずだ。……今さら何の真似だ?」

 ノックスが疑いの眼差しを向ける。


 セレナはちらりと彼を見やり、冷たく答えた。

「もう失敗した。……それだけのことよ。

 なら、今何をしようと、関係ないでしょ?」


 彼女は無言で装置の反対側に手を置き、自らの魔力を注ぎ始めた。

 その冷たく、鋭い魔力はノックスの魔力と絡み合い、

 装置の光が一気に強くなっていく。


 結界内の黒煙は急激に後退し、

 その光景にノックスも思わず目を見張った。


 符紋室の光が一気に強まり、まるで空間全体がその力に包まれたようだった。


 だが——

 セレナの魔力がノックスの魔力と接触したその瞬間、空気中に奇妙な波動が走った。


 ノックスは眉をひそめ、彼女の魔力に違和感を覚える。

 それは人間のものとは異なる、しかしどこか既視感のある力。


 悪魔の魔力とさえも異なる、何か得体の知れない律動を持っていた。


「これは……」ノックスは低く呟き、セレナを鋭く見つめた。


 セレナも眉間に皺を寄せた。彼女自身もその異変に気付いたようで、ノックスの視線を受けた瞬間、目の奥に困惑と不安が浮かんだ。


 符紋装置が一瞬震え、セレナの体が小さく揺れる。

 彼女の魔力は冷たさを失い、代わりに強烈な衝撃と共鳴するような波となってノックスの魔力と交錯した。


「お前の魔力……」ノックスは低く、疑念を込めて言った。

「人間のものじゃないな。」


 セレナの顔色が変わり、ノックスを鋭く睨みつける。

「何を言ってるのよ。」


 だがノックスは引かず、静かに言葉を続けた。

「お前……本当に人間なのか?」


 セレナは唇をきゅっと結び、一瞬だけ視線を逸らした。

 その目に浮かんだためらいは、ノックスの問いを否定しきれない証拠だった。


「……もう終わったことよ。」

 セレナは低く呟き、符紋装置から手を離すと、踵を返して符紋室を後にした。


 だがその背中は平静とは言い難く、どこか動揺が滲んでいた。

 たった今、自分の魔力がノックスの力と共鳴した瞬間——

 その時、自分の中で何かが目覚めかけた感覚があったのだ。


『ありえない……』

 セレナは心の中でそう呟いた。眉間の皺が深くなる。


 彼女はずっと、自分の力は純粋な人間のものだと思っていた。

 狩人として訓練されてきた力、誰にでもある程度の素質があれば使える、ただの戦闘用の魔力。


 だが、さっきの共鳴はあまりに異質だった。

 その波動は明らかに「普通」ではなく、彼女自身の理解を超えていた。


 セレナが去った後、符紋室の空気はまだ張り詰めていた。

 アリアンは少し離れた場所で、ノックスとアイデンを交互に見つめていた。


「さっきの……いったい何だったの?」

 アリアンがついに口を開く。焦りが声に滲んでいた。

「今のあの力……セレナの魔力なの?」


 ノックスは沈黙したまま、セレナが消えた方角を見つめていた。

 アリアンはその様子に苛立ち、歩み寄って彼の腕を掴んだ。


「ノックス、答えて!」


 ノックスはようやく意識を戻し、彼女に視線を向ける。

 冷ややかな声で、淡々と告げる。


「お前の妹……彼女の魔力、あれは人間のものじゃない。」


 アリアンの目が大きく見開かれた。

 握る手がぎゅっと力を込める。


「……何言ってるの? セレナは私の妹よ、当然人間に決まってるでしょ!」


 ノックスは答えなかった。

 眉を寄せ、複雑な表情で沈黙を保つ。


 彼はこれ以上、アリアンを巻き込みたくなかった。

 ましてや、セレナに関わる真実となればなおさらだ。


 だが、アリアンはそう簡単に引き下がらなかった。

 その瞳には強い意志と、抑えきれない焦りが宿っていた。


「あなたたち……何か知ってるんでしょ?」

 彼女は今度はアイデンに視線を向け、責めるような口調で言った。


「セレナだけじゃない。この“化け物”についても……みんな私には何も言ってくれない!」


 アイデンはメガネを指先で押し上げながら、冷静に答える。

「知らない方がいいこともある。」


 その無情な一言に、アリアンの声が一段と大きくなる。

「でも……彼女は私の妹なのよ!」


 その叫びに、アイデンの眉がわずかに動いた。

「なら、なぜ——君たちがここにいる? 一体、何があった?」

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