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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第九章

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 ノックスは自室の机の前に立ち、今夜の行動に備えて用意した道具を一つずつ並べていた。

 彼の指先が記録装置の表面を滑ると、画面の青い光点が微かに瞬いた。

 隣には小さな護符と数個の符紋道具が置かれており、淡い魔力の波動を放っている。


「アリアンの昨夜の話がどこまで信じられるかはともかく、符紋室の異常は無視できない。」

 ノックスは装備を一つ一つ確認しながら呟き、非常時にも確実に使えるよう準備を整えていく。


 全てを慎重にバックパックへと詰め込み、黒いコートを羽織ってフードを深く被り、顔を隠した。

 深く息を吸い、部屋を出て、ドアを静かに閉める。


 窓の外では陽が徐々に傾き、地平線の金色の輝きが影に呑まれていく。

 ノックスの足取りは軽やかで安定しており、慣れた道を静かに学院へと向かう。


 休暇中の学院は普段より静かで、生徒の賑やかさもなく、どこかひんやりとした空気が漂っていた。

 ノックスは人通りの少ない裏道を選んで進む。


 その小道は背の高い木々に囲まれており、枝葉が陽光を遮って、地面には斑の光と影が落ちていた。

 落ち葉を踏む足音が、かすかに「サク…サク…」と響く。


 木々の隙間から学院の建物がぼんやりと見え始める。

 符紋室の円形ドームは夕陽を浴びて青銅色に淡く光り、まるで眠れる古代の遺跡のように静かに佇んでいた。


 ノックスは立ち止まり、遠くのドームを見上げる。

 その目は冷静で鋭く、わずかな警戒心がその奥に潜んでいた。


 肩に掛けたバックの紐を軽く調整し、学院の主道を避けるようにして、静かに奥の林へと足を踏み入れる。


 この林は符紋室と草原一つを隔てただけの距離にある。

 彼は視界の良い草地を避けて、密集した灌木の陰へと身を沈め、完全に姿を隠した。


「今のところ、異常はない。」


 ノックスは小声で呟き、バッグから記録装置を取り出して魔力感知機能を起動した。

 画面に表示される数値は安定しており、特に異常な反応は見られない。


 彼は顔を上げて符紋室をじっと見据えた。

 空は徐々に色を失い、夜の帳が降り始めていた。


 太陽は徐々に地平線へと沈み、空は赤黒く染まり始めた。それはまるで焼け焦げた絵画のように、空全体を包み込んでいた。

 学院の明かりが一つ、また一つと灯り始め、古びた符紋室の壁に刻まれた符紋と静かに呼応するように光を放つ。


 ノックスは変わらず身を隠したまま、警戒を緩めなかった。

 彼の指が記録装置のボタンをそっと撫でると同時に、目は周囲を鋭く見渡す。

 符紋室の外壁に刻まれた古代の符紋が、夜の闇に呼応するようにほのかな光を灯し始めていた。


 そのとき、わずかな魔力の揺らぎが空気を震わせた。

 まるで静かな湖面に小さな波紋が広がるように。

 ノックスの心が僅かに緊張する。彼は即座に記録装置を確認した。

 画面の数値がゆっくりと上昇を始めている。


 彼は顔を上げ、符紋室の方向をじっと見つめた。

 そして——夕暮れの最後の光の中、一人の長身の人物がゆっくりと現れた。

 セレナだった。


 夜風に揺れる黒髪。

 変わらぬ冷たさと集中を湛えた顔。

 その手には微かな光を放つ小型の符紋箱が握られていた。

 まるで重大な任務に向かうかのような、力強く無駄のない足取りだった。


 ノックスは息を潜め、身をさらに低くする。

 彼の視線はセレナを捉えたまま離さない。


「やはり……来たか。」


 セレナは符紋室の前で立ち止まり、迷うことなく外壁の符紋装置に手を触れた。

 彼女の動きに呼応するように、符紋箱が淡い光を放ち始め、符紋室の青銅の壁面がかすかに震動し始める。


 夜の帳が完全に降りると共に、符紋室の光は一層際立ち、周囲の空気にも目に見えない圧力が漂い始めた。

 それはまるで、何かが目を覚まそうとしているかのようだった。


 ノックスは隠れたまま、記録装置に指を置く。

 画面の数値は急激に上昇を始め、警告ランプが点滅する。


 ——セレナの行動が、何か重大な変化を引き起こしている。


 符紋室の扉が低く唸りを上げ、壁の符紋が奔流のように輝き始めた。

 まるで古代の命が吹き込まれたかのように、無数の紋様が脈動するように流れていく。


 セレナは無表情のまま、符紋箱の数値を確認し、もう一方の手を扉の枠に当てた。

 掌から淡い青光が放たれ、それは符紋室の表面に溶け込むように吸収されていく。


「……始まったな。」ノックスは静かに呟いた。

 彼の瞳は鋭さを増し、心拍は異様なほどに安定していた。


 そして、扉がゆっくりと開いた瞬間——

 内部から黒い霧があふれ出した。


 その霧は強烈な腐蝕性を持ち、触れた草地や葉は瞬く間に枯れていく。

 空気には息が詰まるような毒気が漂い、異様な緊張感が場を支配する。


 ノックスは息を止め、目を凝らして黒霧の動きを観察する。

 記録装置が警告音を鳴らし、数値は限界を突破した。


 セレナは黒霧を恐れる様子もなく、地面に符紋箱を置き、装置を起動させた。

 箱の光が円形の結界を形成し、黒霧をその中に封じ込める。


 しかし——


 霧の中から低く唸るような咆哮が響く。

 直後、霧の中から膨大な魔力の波動が放たれ、結界に激突する。


 セレナの体がわずかに揺らぐも、すぐに体勢を立て直す。

 素早く装置を操作し、魔物の反応を封じ込めようとする。


 霧の奥で、徐々にその“姿”が現れた。


 それは人とも獣ともつかぬ巨体。

 四肢は長く、背からは刃のような突起が伸びていた。

 赤く光る目。

 全身を包む黒霧からは、強烈な威圧感が漂う。


「冥域の霊……」ノックスの口からその名が漏れる。

 脳裏に、その名が何度も何度も反響する。


 魔物はセレナを睨みつけ、低く吠えると、前脚を高く振り上げた。

 そして、結界を叩きつけるように襲いかかる。


 防御結界が大きく揺れ、符紋箱の光が目に見えて弱まった。


 セレナは歯を食いしばり、手早く操作を続ける。

 しかし、その魔物の力は明らかに彼女の想定を超えていた——

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