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繋がり (3)

 エマロ学院のキャンパスは、今日も穏やかな空気に包まれていた。

  学生たちが運動場で声を上げながら走り回る音が、静かな学び舎に活気を添えている。


 ノックスとカスパは並んで廊下を歩き、次の教室へ向かっていた。


「カスパ、お前の家に使わなくなった銃はないか?」

 ノックスはいつもの平坦な口調で尋ねる。


 カスパは驚いたように目を見開いた。

「本気かよ?符紋武器の課題なんて、ナイフかなんかに適当に刻んで提出すれば十分だろ?

  わざわざ銃なんて、難易度高すぎだろ!」


 ノックスは彼の反応に構わず、淡々と続けた。

「金は払う。」


 カスパは大げさにため息をつき、肩をすくめた。

「金の問題じゃねえよ……。ま、探してやるよ。もし余ってたら、別にタダでやってもいいしな。」


「感謝する。」

 ノックスは簡単に礼を言い、再び歩き出す。


 しかし、廊下の角を曲がった瞬間、二人は足を止めた。

  そこには、見慣れた二人組が壁にもたれかかっていた――カイルとタロスだ。


 金属光沢を放つカイルの翼が、陽光を浴びてきらめき、

  タロスの巨体はまるで動く要塞のような威圧感を放っていた。


「……なんであいつらがここに?」

 カスパは声を潜め、不安げにノックスを見た。


 ノックスは前方をじっと見据えたまま、静かに答える。

「また何か、面白がってるだけだろう。」


 足を止めたまま、ノックスはカスパに小声で言った。

「怖いなら、ここで離れてもいい。」


「……べ、別にいいよ!」

 カスパは顔を引きつらせながら答えたが、ノックスの後ろにぴったりとついて離れなかった。


 カイルは手を振りながら、にやりと笑った。

「やあ、ナイト。ちょうど待ってたんだ。」


 タロスは無言で腕を組み、巨躯を揺らしながら彼らを見下ろしている。


「お前に用か?」

 カスパは小声で尋ねた。


 ノックスは表情を変えず、短く答えた。

「たぶん。」


 カイルは彼らが近づくと、ふざけたように言った。

「符紋室の噂、聞いてるだろ?最近、学校側が必死に隠してるやつ。」


 ノックスの脳裏に、アイデンの忠告がよぎった。

 ――『知れば知るほど面倒ごとに巻き込まれる。深入りするな。』


 彼は顔色ひとつ変えず、冷たく言い放った。

「知らない。」


 カイルはその答えに爆笑した。

「ははっ!やっぱりそう来たか!

  まったく、予想通りすぎるだろ。」


 タロスは眉をひそめたが、特に何も言わず、じっとノックスを見つめ続ける。


 カスパは不満げに小声で呟いた。

「そんなわけないだろ……。あんなデカい話、知らないわけないって。」


 カイルはその声を聞きつけ、カスパに視線を向けた。

「おやおや、小さい坊っちゃんは誰だっけな?

  確か、カッシュ?カッシュトン?」


「カスパだ!」

  カスパは顔を赤くして訂正する。


「俺は家業に興味ないし、関係ないからな!」


 カイルはニヤリと笑い、今度はノックスに目を向けた。

「へぇ、小坊っちゃんのほうが、よっぽど事情通みたいだな?」


 挑発めいた口調だった。

 ノックスは冷ややかに睨み返し、平然と答えた。


「興味ないと言ったはずだ。」


 カイルは肩をすくめ、ノックスの冷たい態度をまるで気にする様子もなく、

  タロスの腕を軽く叩きながら笑った。


「ほらな、だから言っただろ。

  この男には何を言っても通じねぇよ。

  それに比べたら、小坊っちゃんのほうがずっと面白い。」


 カスパはその言葉に顔を真っ赤にして、何も言い返せなかった。

  彼はこっそりノックスを見たが、助けを求める目は無情にも無視された。


 ノックスはカイルを冷ややかに一瞥し、淡々と言った。

「符紋室の話なんて、俺には関係ない。

  くだらない話をするなら、俺たちは授業がある。」


 カイルは一瞬きょとんとしたが、すぐに愉快そうに笑った。

「そんな冷たいこと言うなよ、(ナイト)

  君みたいな賢い奴なら、もう少し興味を持ってると思ったんだけどな?」


 そう言いながら、背中の金属色の翼をわずかに広げ、

  あえて威圧感を演出するような仕草を見せた。


 しかし、ノックスはまるでそれを意に介さず、冷静に視線を返した。

「用がないなら、俺たちは行く。」


 その冷淡な一言に、カイルは再び肩をすくめ、タロスに目配せした。


「はいはい、邪魔はしないさ。

  行け行け、小坊っちゃんと(ナイト)騎士(ナイト)さん。」


 カスパは歯を食いしばりながら、ノックスに続いてその場を後にした。

  ホッと胸をなでおろしつつも、どこか不安を拭えないままだ。


 カスパは小走りでノックスに追いつき、声をひそめて尋ねた。


「なあ、本当にあいつらと知り合いじゃないのか?

  妙にお前に興味津々って感じだったけど。」


 ノックスはしばらく無言で歩き続けた。

  先ほどカイルが口にした「符紋室」の言葉が、心に小さな波紋を広げていた。


 ――『冥域の霊』

  あのとき、心の奥底で呼びかけるような、あの得体の知れない声。


 それを思い出した瞬間、ノックスは眉をひそめ、頭を軽く振った。

  そんなものに、今さら関わるつもりはない。


 彼はようやく口を開き、淡々と答えた。

「知り合いじゃない。すれ違ったことがあるだけだ。」


 カスパは半信半疑の顔でノックスを見つめ、ぼそりと呟いた。

「そうは見えないけどな……。

  なんか、お前にばっか興味持ってるって感じだったぞ。

  特にカイル。」


 ノックスは答えず、前を向いたまま歩き続けた。


 彼の心には、静かに、だが確実に、抑えがたい熱が芽生えつつあった。

  カスパはノックスの沈黙に気づかず、勝手に話を続けた。


「まあでも、お前に興味持ってる奴って、あいつらだけじゃないよな?

  冷たくてミステリアスな奴って、無駄に人気出るんだよ。

  ほら、カイルにタロス、それに普通科のあの明るい女の子も――」


 カスパはわざとらしく声を伸ばして、にやにやしながらノックスをからかった。

 ノックスは鼻で笑い、目を細めた。


(自分も無意識にこっち側にいるって、気づいてないらしいな。)


 だが、ノックスはそのことを口に出すことなく、

  逆にペースを上げてスタスタと前を進んでいった。


「ちょ、待てよ!まだ話終わってねーってば!」

 カスパは慌てて後を追いかけるのだった。

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