第17話 つけられた名前にブチ切れるバイク
じょらー……って、もしかして。
――じょらー! そんなトカゲ野郎が格好良いなんてあり得ない! 俺のほうが格好良いぜ! シルバーライトちゃん、そんな奴より俺を見てくれー! 俺のほうがシルバーライトちゃんのこと好きだし、強いんだぜー! じょらー!【赤スパ5万円】
赤スパですげー痛いコメしてる奴がいる。
じょらじょら言う……いや、書いてるのはやっぱりあいつだよなぁ。てかなんでコメントにじょらじょら書いてんだよ? じょらって笑い声かなんかじゃないの? こいつにとってのじょらってなんなんだ一体?
――なんかやべーのいるぞ
――じょらってなんだよw
――きっしょ
コメント欄も俺への攻撃など忘れて、やべー長コメにドン引きである。
――じょらー! お前らだってトカゲ野郎にムカついてんだろ! トカゲ野郎より格好良くて強い俺の味方しろよじょらー!
――じょらじょらきめーんだよ
――おっさんはムカつくけど、お前はキモイ
――てかこいつあの怪人じゃね?
――じょらー! ちげーし! 俺はあの逞しくて格好良い立派な怪人ガンジョラ様じゃないぜ! ただの一般視聴者だぜ!【赤スパ1万円】
――いや、絶対あの変な岩怪人だろ
――ちげーし! じょらー!
こいつ隠す気あるのか?
じょらじょら書いててバレバレじゃん。
「えーっと、ともかく赤スパありがとうございまーす。もしも怪人ガンジョラなら、今から行くから待っててねー」
――じょらー! シルバーライトちゃんに待っててって言われたぜー! 嬉しいー! じょらー! 待ってるよー!
やっぱり隠す気ないだろこいつ。
いや、単にアホなだけなのか……?
「あ、っと、指定された場所へ向かう前に仮面ドラゴンブラックさんの相棒を紹介しておくね。ジャーン! 大阪1号くんでーす!」
「……」
えっ? なに? 大阪1号って?
わからないで黙り込む俺の前で、焔ちゃんはバイクのほうへ手をかざしていた。
「うん? えっ? 大阪1号って、もしかしてワイのことか?」
「そうだよ。大阪1号君」
「ちょ、なんやねんそれっ! それワイの名前なんかっ? ダッサっ! めちゃめちゃダッサっ! なんやねん大阪1号って! 国道か!」
「ダサくないし! 格好良いじゃん! ねえ仮面ドラゴンブラックさんっ?」
「えっ? あー……」
いやまあ俺もダサいとは思うけど……。
「シ、シンプルでいいと思うよ。シンプルイズベスト」
「ふざけんなやコラー!」
ぎゃんぎゃんバイクは……いや、大阪1号君は喚いた。
――キャアアシャベッタァァァ!
――バイクがしゃべるわけ……
――芸人みたいなバイク
――うるせえバイクだなぁ
――大阪1号w
――国道は草
「じゃあ新メンバーの紹介も終わったし出発するよー。はい。2人乗りモードにチェンジして大阪1号君」
「大阪1号って呼ぶなや!」
ぶつぶつ言うバイクのイスが後部へと伸びていく。
「説明しよう。大阪1号君はなんと2人乗りできるようにモードチェンジができるのだ。しかし公道でバイクの2人乗りはNGだからダンジョン内限定だぞ」
「説明ありがとうドラゴンブラックさん。さ、行こうか」
「うん」
と、俺はバイクへ跨る。
――ちょっと待て! まさかおっさんとシルバーライトちゃんが2人乗りか!?
――そんなの許さん!
――おっさんが前でシルバーライトちゃんがうしろってことは……
――おっさん! お前もうバイク降りろ!
――歩け!
「うるせえ! ドン! 悔しかったらお前らも改造されてみろ!」
――おっさん、キレた
――なんだぁてめえ……
――取り消せよ……
俺だっていつまでも黙っちゃいねぇ。
言うときは言うんだ。てか、焔ちゃんとの2人乗りなんていう最高に素晴らしい状況を、自ら放棄するわけないだろ。
「ドラゴンブラックさん、視聴者のみんなと喧嘩しちゃだめだよ。んしょ」
「んほーっ!」
焔ちゃんがうしろへ乗って俺に抱きつく。
そうなれば必然的に……。
お、おっぱいがめちゃめちゃ当たってるぅっ!
背中では柔らかいものが潰れていた。
――うおお! 許せん!
――なんでこんなものを見せられているんだ……
――シルバーライトちゃんとおっさんの密着なんて誰得よ?
――じょらー! やっぱり許せねぇこいつ!
コメント欄が荒れているがそんなことどうでもいい。
俺の意識は完全に背中へ持っていかれていた。
で、でかい。わかっていたがやっぱりでかい。
それが俺の背中で潰れて、感触を伝えているぅっ!
俺、今どんな顔しているだろう?
たぶんスケベ親父みたいに鼻の下を伸ばしてそう……。
「それじゃあ大阪1号君、しゅっぱーつ!」
「その名前で呼ぶなーっ!」
「えっ?」
不意にバイクの両サイドから大きなマフラーのようなものが生えてきて……。
「うおおおっ!!!?」
ものすごいスピードで発進する。
「しゅ、出力は上げてないって言ってたのにぃっ!!」
「わたしがお願いしてターボを追加してもらったの。ダンジョン内なら、スピード1000キロ出しても公道じゃないからおっけーでしょ?」
「こんなスピードで走って事故ったら死んでしまうよーっ!」
幸い、ダンジョン内は道がほぼ平面だ。
しかし決して道幅が広いわけではなく、ぶつける危険はあった。
もうおっぱいに意識を集中していられない。
事故って死ぬんじゃないかという意識で頭はいっぱいだった。
「そないビビらんでも平気や。ワイは事故ったこと無いし」
「お前、ダンジョン走るのも、こんなスピードで走るのも初めてだろっ!」
「せやな。あかん。事故ったらどないしよ……」
「不安になること言うなっ! ス、スピード落とせーっ!」
「今のワイは豪速球や! フジの投げるような豪速球になったんや!」
「それはあかん!」
大阪1号の発言を聞いてますます不安になる。
しかしスピードは緩まず、バイクは目的地へ向かって爆心していた。