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第15話 猛虎を愛するバイク

「なんやジロジロみよってからに? バイクなんて珍しないやろ?」

「いや、バイクは珍しくないけど……」


 しゃべるバイクは初めてであった、


「おじいちゃんなにこれ?」

「うむ。出力を上げるわけにはいかんのでな。代わりに人工知能をつけてみたんじゃ。そしたらどうも関西の工場で作られたバイクだったらしくてのう。この通りなんじゃよ」


 関西で作られたバイクに人工知能を搭載したから関西弁になったのか。なるほど。……いや、そうはならんやろ。


 とは言え、なっとるやろがいなのだが……。


「しゃべるのはまあいいとしてさ、もっとヒーローの相棒らしいしゃべりかたにはならなかったの? これじゃあ相棒じゃなくてお笑いの相方だよ」

「おっ、お嬢ちゃんうまいこと言うなぁ。座布団1枚や」

「えへへ。ありがとう。じゃなくてさ」

「しかたないじゃろう。関西の工場で作られたバイクなんじゃから」

「うーん……。関西の工場で作られたバイクじゃしょうがないかぁ」


 納得していいのか本当に?

 絶対になんかおかしいぞ。


「けど仮面ドラゴンブラックのバイクだよ? 虎柄はおかしいでしょ?」

「なに言うてんねん。虎柄は世界一格好良いんや。タイガースカラーやで」

「なにそれ?」

「野球やっ! なんで知らんねんっ!」

「興味無いし」

「かーっ! これやから今の若い子はもう……」

「君は製造されてから1年くらいのバイクじゃよ」


 なんだかすごいバイクになってしまったなぁ。

 と言うか、これ俺が乗るの? こんな変なバイクに? 嫌だなぁ……。


「こいつは人工知能で自動運転ができるし、スマホの機能を内蔵しておるのから、電話で呼ぶこともできる。他にもいろいろ機能がついとるから、試しにそのへんを走って来たらどうじゃ?」

「えっ? マジですか? これに乗るのは嫌だなぁ……」

「ワイかてお前みたいなしょぼくれたおっさん乗せたないわ」

「なんだとっ! 今までハゲのじいさんは乗せてたくせにっ!」

「まあまあ喧嘩するでない。と言うか誰がハゲじゃこの野郎」


 ……と、なんだかんだありつつ、結局は試運転をすることに。

 ついでに買い物を頼まれ、憂鬱な気分で俺は関西弁バイクに乗って出掛けた。


 ……乗り心地は悪くない。

 電動バイクなので静かだし、スピードもあまり出ないので乗りやすかったが……。


「ほんでな、ノーアウトでランナーを3塁まで進めたのに点取れへんかったんや。その試合で完封負けしたときはワイもうファンやめよう思たわ」

「ああそう」


 走っているあいだ延々と野球の話をするのだ。焔ちゃんほどではないかもしれないが、俺もそれほど野球に興味は無いので相手するのが面倒だった。


「うん? なんやさっきから話が弾まんなぁ。お前も野球見ーひんのか?」

「まあ、あんまり」

「なんやもう。どいつもこいつもあかんなぁ。野球見んでなにすんねん?」

「なにするって、他にも趣味はいろいろあるだろ」

「野球は趣味ちゃう。食う、寝る、野球。3大欲求や」

「お前は食わないし寝ないだろう……。あと3大欲求は食欲、性欲、睡眠欲だ」

「それくらい知っとるわ。洒落のわからんやっちゃな」

「はあ……」


 とにかくずっとしゃべっている。

 エンジン音はないのに、うるさいバイクだった。


「ワイはフジが好きでなぁ。あの豪速球はしびれるでぇ」

「フジはもうタイガースにおらんやろ」

「フジには猛虎魂を感じるんや。だからやめてもタイガースや」

「そうですか」


 そんな話を熱く語られても俺は猛虎じゃないので共感できない。


 しかしこいつとうまくやるには野球の知識を得ておいたほうがいいのかな?

 ……いや、なんで俺がバイクに気を使わなければいけないんだ。


 ともかく買い物を済ませてとっとと帰ろう。


 しゃべるバイクの話に相槌を打ちつつ、俺は住宅街を抜けてスーパーへ向かった。


「うん?」


 住宅街の一角に人だかりができている。


 なにかあったのだろうか?


「なんや? タイガース戦士でもおったんかな?」

「お前はなんでもタイガースだな」


 しかし有名人がいるという様子ではない。

 なんと言うか、事件でもあったような雰囲気であった。


 少し気になった俺は、バイクを止めて人だかりに近づく。


「なにかあったんですか?」

「えっ? ああ。なんか変な石像が置かれててね」

「変な石像?」


 見ると、人だかりの中心には子供の石像が置いてあった。


「朝になったら突然、現れたんだよ。近所の人、誰も知らないって言うし、なんか妙によくできてるだろう? なんだか気味が悪くてねぇ」

「うーん……」


 確かによくできている。今にも動き出しそうであった。


「良助っ!」

「えっ?」


 と、そこへ女性が駆け込んで来る。


「ああ、やっぱり似てるっ。この石像、良助にそっくり……」

「お知り合いに似てるんですか?」

「は、はい。わたしの息子です。昨日、遊びに行ったきり家に帰って来ていなくて。けど、どうして良助の石像なんて……」

「行方不明ですか……」


 行方不明になった少年の石像が突然、現れた。

 実に奇妙で、事件の匂いがした。


 俺は急いで買い物を済ませ、雄太郎さんの家へと帰る。

 それから2人へ石像の話をした。


「ふーむ。それはもしかしたら……」

「デッツの仕業だっ!」


 雄太郎さんの言葉を遮って焔ちゃんが叫ぶ。


「まあわしもそう思うがの。まだ確証は無いのう」

「こんな奇妙な事件、デッツの仕業に決まってるよっ! これは調べないとっ! えーっと……」


 焔ちゃんはスマホを手に持ってタップする。


「今ちょっとSNSで検索してみたんだけど、子供の石像は地下東京のあちこちで見つかってるみたい」

「あの石像だけじゃなかったんだ?」

「うん。それで、石像が見つかったあたりで、怪人を見たって情報も……あっ!」

「えっ? どうしたの?」

「うん。なんか仮面ドラゴンブラックさんに向けたデッツの動画が上がってるみたいなの」

「俺に向けた?」


 なんだろう?


「ほら見て」

「わおっ!?」


 焔ちゃんが俺の肩へ寄り添ってスマホを見せてくる。


 うわ、むっちゃ良い匂い。

 この匂いを鼻孔に感じながら眠ったらすごい良い夢が見れそう……。


「なにボーっとしてるの? ほら」

「あ、うん」


 鼻孔に感じる幸せからなんとか意識を逸らして、スマホの画面を見下ろす。


「これは……」


 なにやら石の塊みたいな怪人がサムネには映っていた。

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