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第14話 おしゃべりなバイク登場

 ……ダンジョンの奥にある自分のアジトでシルバーライトの動画を眺めていたゼラムスは、スマホを机へと放った。


「役立たずめ」


 所詮は金で使える程度の男だ。

 期待などそれほどしていなかった。


「だが黒刀ですらダメージを負わせられないとはな」


 あの改造人間……仮面ドラゴンブラックとか名乗っていたか。

 ふざけた奴め。だが強さは本物だ。あれほどに強力な改造人間を手に入れれば、俺は無敵となるだろう。


「しかし戦って捕獲するのはやはり難しい。なにか戦わずして捕獲する方法は……」


 机に放られたスマホの画面に流れる動画に目をやる。

 動画では仮面ドラゴンブラックとシルバーライトが、ダンジョンで強盗を行う盗賊団を叩きのめしていた。


「奴らは正義を気取っている。ならばいい手があるぞ」


 正義の味方を自称するならば、弱い者を守らなくてはならない。

 ならばその弱い者を利用すれば、仮面ドラゴンブラックを捕獲できるはずだ。


「岩石怪人ガンジョラ」

「ははっ!」


 俺が呼ぶと、部屋の外に控えていたガンジョラが入って来る。


 岩石カメという魔物の遺伝子から作られた改造人間だ。

 全身に岩を張り付けたような見た目をしており、大抵の攻撃を防ぐ頑丈な身体を持っている。それに加えて、岩石カメが使う特殊な攻撃方法もあった。


「子供を人質に使って仮面ドラゴンブラックを捕らえろ」

「かしこまりましたゼラムス様。このガンジョラにお任せください。つきましてはゼラムス様、ひとつお願いがございます」

「うん? なんだ?」

「あの仮面ドラゴンブラックという男、すこし痛めつけてもよろしいでしょうか?」

「殺さなければ構わないが、なぜだ?」

「はい。俺はシルバーライトちゃんの大ファンなのです。俺の愛するシルバーライトちゃんの側にいるあの男が許せんのですよ」

「そ、そうか。まあ痛めつける程度なら構わん。好きにしろ」


 洗脳は施してあるが、人格はそのままだ。

 なのでこういう人間のようなことを言う怪人は珍しくない。


「ありがとうございます。では行ってまいります。朗報をお待ちください」


 そう言って頭を下げたガンジョラは、鼻息を荒くして部屋を出て行った。


 ……それから数時間後、俺はスーツに着替えてアジトを出る。

 部下に運転させて車で向かったのはダンジョン管理庁だ。


 ……やがて到着し、入り口前で停まった車から俺は降りる。そして建物の中に入ると、職員が俺へ向かって頭を下げた。


「おはようございます千々岩長官」

「ああ」


 千々岩仙石。

 それが俺の本名だ。



 ―――零乃甚助視点―――



 DGに襲われた配信から3日ほど経つ

 焔ちゃんのおかげで俺がデッツの怪人ではという疑惑は晴れた。捕まって改造されたけど洗脳を受けずに逃げることができた被害者という認識が広まり、怪人として追われることは無さそうで安心していた。


「これで全部だな」


 車を借りて引っ越し先から自分の荷物を持って来た俺は、それを部屋に運び入れるのが終わって一息ついた。


「あ、荷物入れるの終わったんだね」

「ほ、焔ちゃんっ?」


 不意に焔ちゃんが部屋にやって来て驚く。


 俺の部屋にあの焔ちゃんがいる。

 ものすごく嬉しい状況に俺の心臓は高鳴りまくっていた。


「ど、どうしたの? なにか用かな?」


 もしかして俺と一緒にいたいとか?


 これはおじさん困っちゃうなぁ。

 やはり一ファンとしては、一線を守らなければという思いはある。


 しかし焔ちゃんが一緒にいたいというのならば、無下にするのも……。


「うん。あれが完成したから来てほしいっておじいちゃんが」

「えっ? あ、そ、そうなんだ」


 ……なにか変な期待をしてしまって恥ずかしい。

 そうだよな。俺みたいな男と一緒にいたって楽しくないだろうし。


「あ、甚助さんもこのゲームやるんだー」


 荷物の中から焔ちゃんがゲームソフトを手に取る。


「甚助さんってゲーム好きなの?」

「あ、う、うん」

「わたしもゲーム好きなの」


 そういえばアイドルホムラちゃんはゲームが好きとか言ってたっけ。ファン層を考えたリップサービスかと思っていたが、本当にゲームが好きだったようだ。


「今度一緒にやろうよ」

「えっ? お、俺と一緒にゲームを?」

「うん。楽しみにしてるね」


 そう言い残して焔ちゃんは先に部屋を出て行く。


 ……焔ちゃんはええ子やなぁ。ほんまに天使やでぇ。


 こんなしょぼくれた30代と一緒にゲームをやろうと言ってくれた。例え社交辞令のようなものだとしても、俺は嬉しかった。


 それから俺は愉快な気分で焔ちゃんのあとを追って、雄太郎さんの元へ向かう。


 そういえば完成したあれってなんだろう?

 そろそろお昼ご飯だし、昼食でも作ってくれたのかなと思いつつ居間へ行く。


「おお、来おったか。ほれ、ようやく完成したぞ」

「なんですかこれ?」


 居間のテーブルには真っ黒くてごついバックルのついたベルトが置かれていた。


「変身ベルトじゃ」

「へ、変身ベルト?」

「うむ。これを使えば変身に必要な戦いの興奮をコントロールできて、仮面ドラゴンブラックに変身しやすくなるはずじゃ」

「じゃあ戦いが無くても変身はできるんですか?」

「そうじゃ」


 これはすごい。

 これがあれば変身するために、まず魔物と戦うなんてことをしなくて済む。


「さっそくつけてみるといい」

「はい」


 俺はベルトを腰に巻く。


 しかしこれでどうやって変身できるのか?

 構造がよくわからなかった。


「どうやって変身するんですか?」

「……うむ」

「?」


 雄太郎さんはなにやら複雑な表情をしつつ、右手を上に大きく伸ばした。


「まず右腕を上に大きく伸ばす、そこから時計回りにこうやって円を描き、最後にベルトの中心へ触れて、大きな声で変身と叫ぶんじゃ」

「……えっ?」


 なにそれは……?


 子供がやるならともかく、大人の俺にはきついものがあった。

 しかもなんか古くてダサい。ヒーローに変身ポーズがあるのはわかるけど、雄太郎さんが見せてくれたのはまるで昭和ヒーローのそれであった。


「いやあの、俺もう30ですよ? 変身ポーズはちょっと……。あと申し訳ないですけど、センスが古くてダサ……」

「考えたのは焔じゃ」

「……いなんてことはなくて、なんて言うか、逆に新しいですね。うん。好きだなこういうの。センスありますよ本当。大人だからこそグッときますね」

「そうでしょそうでしょ」


 ニコニコ顔の焔ちゃん。


 変身方法はこれで決定である……。


「あとバイクの改造も終わったからの」


 そう言う雄太郎さんについてガレージへ行く。

 そこにあったのは以前と違いの無い電動バイクであった。


「外見は特に変化ありませんね」

「これは通常時じゃ。ハンドルにあるこのボタンを押すと……」

「おおっ!」


 カラーリングが一瞬で虎柄へと変わった。


「すごいですね。けど、なんで虎柄なんですか?」

「そうしてほしいって言われたからのう」

「焔ちゃんが?」

「えっ? ううん。わたしはそんなこと言ってないよ」

「じゃあ誰が……」

「ワイやワイ」

「うん?」


 どこからか声が聞こえた。

 他に誰かいるのだろうかと周囲を見回すも、人らしい姿は見えない。


「なんや、お前が仮面ドラゴンブラックとかいうおっさんかいな」

「あれ? 他に誰かいるんですか?」


 誰も見当たらないが……。


「いや、今しゃべったのはこいつじゃ」

「こいつって……」


 雄太郎さんが指差しているのは電動バイクだが……。


「しゃべったのはワイや。アホンダラ」

「うわぁ!?」


 バイクがしゃべった。

 しかも関西弁で……。


 驚いた俺は腰を抜かしつつ、おしゃべりバイクを眺めた。

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