書物より抜粋 1
前略
かつて、此処には何もなかった。
荒れた大地に生は育まれなかった。
だからこそ、主たる神は十と一つの世界を創造された。
十の世界にそれぞれ使徒を遣われ、残りの一つは主たる神が自ら納められた。
中略
主たる神はそこに選ばれた人間を住まわされた。
暫くして、何処からか若者がやってきてこう言った。
さて、人の子よ。
主たる神は此処にあなたたちを招いた。
あなたたちが生きているのは主たる神の思し召しである。
民は訊ねた。
神とは何者か。
見えぬ者をどう信じれば良いか。
そして、私達はどうすれば良いか。
若者はまた言った。
主たる神は万物に宿り、人の子らを見守っている。
生殖し、飯を食い、死ぬるまで全てが主の思し召しである。
それでは、主を讃える為の簡素な木の小屋を建てなさい。
決して、豪奢なものを建ててはなりません。
そして、この書を読み学び、後世の人々に伝え続けなさい。
いつか来るその日まで、途絶えることなく主を尊び、畏れ、敬い続けなさい。
民はまた訊ねた。
その日とはいつか。
あなたは、誰なのか。
若者は答えた。
あなたたちが主を忘れたその時が、その日である。
そして私は、いつか来るあなたたちの罪と罰です。
若者は東へ立ち去った。
ナドラの日記―第二章より