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03:今の2人

今のモニク、私は5歳、そしてミシェルは12歳。

季節は冬。ミシェルが女学校に通い始めて4ヵ月が過ぎたあたりのようだ。


当時の私は1年も経たずに女学校を辞めた。

学校を辞めると言い出した時、お母様は泣いたっけ。私も本当は辞めたくなんてなかったし悲しかったけれど、それよりもモニクに元気になってほしかった。勉強は1人でだってできるもの。


少しでも薬代の足しになるなら。

そうして私の短い女学生生活は終わった。


でも私はその先も知ってる。モニクの身体は治らないわ。少なくとも6年後までは。

だから、ミシェルには通い続けてほしい。外に出てお友達もたくさん作ってほしい。ミシェルが犠牲になんてならなくていいのよ。私が叶えられなかった分、今のミシェルには幸せになってほしいと思う。



「ただいまモニク、今日は顔色がいいわね。」


女学校から戻ったミシェルが部屋を訪れる。美しいリボンで髪を飾って。私は毎日それが楽しみでたまらない。

「おかえりなさいお姉様、今日もお話ししてくださるの?」


ミシェルは女学校での1日を話して聞かせてくれた。

懐かしいお友達の名前が聞こえる。ポーラ、一番仲の良かったお友達。学校を辞めてからはなかなか会う機会もなく、手紙のやり取りだけが続いていたっけ。


懐かしい旧友の顔を思い浮かべていると、ミシェルの顔が翳る。

「ごめんねモニク。モニクは起き上がることも大変なのに、私ばかり楽しんでいて辛いわよね。」


違うわミシェル。私はあなたの話が聞けて嬉しいの。

「ううんちっとも。でも私が寝てばかりなのは本当のことだわ。だからお姉様の話を聞くときだけが楽しい時間なの。これからもずっと学校のお話しを聞かせてね。」


ミシェルが学校を辞めると言い出さないよう、私にできる精一杯。ミシェル、お願いだから今度は卒業式を迎えてね。



そして今日もミシェルは本を読んでくれた。私が疲れないよう、毎日2ページか3ページ読んで聞かせてくれる。ミシェルの声は柔らかくて、いつまでも聞いていたいほど心地よかった。


「あのねお姉様、私も本が読めるようになるといいなと思ったの。お姉様が学校にいらしている間、本を読んで待っていてもいいかしら。一番簡単な本を貸して下さる?」


本当は今読み聞かせてくれているこの本が読みたい。今ミシェルが読んでくれている部分は一度読んだことがあるのですもの。けれどこの本は本当ならモニクには難しくて読めるはずがないから。



「まあモニク!文字が読めるようになったの?いつの間にお勉強したの?偉いわ!もちろん貸してあげる。後でよさそうな本を選んで持ってくるわね。」


ミシェルの言葉に曖昧に笑って答える。以前のモニクは勉強とは無縁な子だった。きっと自分の名前すら碌に書けなかったに違いない。


「嬉しいわお姉様。毎日は読めないかもしれないけれど、調子のいい日にはきっと読むわ。そしてわからないところは教えて下さる?」


返事を待つまでもなくミシェルの心の中が手に取るようにわかる。だって私がミシェルなら、モニクにそんな言葉を掛けられたら嬉しくて嬉しくて踊り出してしまっただろうから。

嬉しさを精一杯押し隠したミシェルが、私の両肩にそっと手を乗せた。


「無理をしてはダメよ。モニクに一番必要なことは元気になることなのだから。そうね、モニクが元気になれるような楽しい本を選ぶわ。もちろんわからない言葉があれば全部おしえてあげる。」



その日の夜、私は高熱を出した。

苦しくて熱くて、痛くて。そして悔しくて涙を流した。

階段から転げ落ちる夢を何度も見た。その度に恐ろしくて目が覚める。すると必ず側にはお母様がいらした。


「怖い夢を見たの?もう平気よ。お母様がずっとここにいますからね。」

大好きなお母様が額の上のタオルを取り換えてくれる。ああひんやりして気持ちがいい。


喉が腫れあがった私には黙って頷くことしかできない。ありがとうお母様。お母様がいてくれるととても安心する。


モニク、あなたはこんなにも辛い日々を送っていたのね。思うようにならない自分の身体に行き場のない怒りを抱え、何年も過ごしていたのね。私はこうして今度の人生を生涯ベッドの上で過ごすことになるのかしら。一体私はなんの病に罹っているのかしらね。お父様が懸命に探してきた何人ものお医者様たち。ミシェルとして最期を迎えたあの日まで、モニクの病名を言い当てたお医者様はいなかったわ。


「モニク、お薬を飲みましょう。今用意するわね。」


小さなランプがひとつだけ灯る暗い部屋の中で、お母様は手慣れた様子で蜂蜜のふたを開けると、スプーンでひと匙蜜を掬う。白い紙に包まれた粉薬と蜜を混ぜると、私の背中を支えて起こしてくれた。


この蜂蜜はモニクの専用だった。苦い薬を嫌がるモニクのためにお母様が用意していたものだ。ミシェルだった頃にも何度かこっそり食べさせてもらったっけ。トロリとした琥珀色の蜂蜜。今は私の専用。


喉が辛くて少ししか開くことの出来ない口に、お母様が少しずつ薬入りの蜂蜜を流して下さる。

「上手よモニク。少しずつ飲みましょうね。」


そうして全て飲み切ると、次はコップを口にあてがわれる。ほんの一口水を含むだけで、私は全ての力を使い果たしたように力尽きた。


そんな日が何日続いただろう。

昼も夜もわからず、眠れるときはただ眠った。眠ってしまえば痛みも苦しさも忘れられるから。

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