13:白い花の秘密
美しい小さなこの花が毒花ですって?
私は俄かにはその言葉が信じられなかったけれど、フィンは全く冗談を言っているような顔ではなかった。
どうしよう、私はこの花を知っているわ。多分だけれど。
「モニ!身体が震えている。大丈夫か!今すぐ離れよう。」
フィンは慌て狼狽えて、私を抱き抱えようとしたのだけれど、平気だからとそれは遠慮した。
小さな白い花畑から少し離れたところで腰を下ろす。そして恐る恐る尋ねてみた。
「ねえフィン、あの花が毒花だというのは間違いないの?」
フィンのことを疑っているわけではないわ。でもそんなに珍しい花とも思えなくて。白くて花びらがたくさんある花なんていくらでもありそうなのですもの。
けれどフィンは自信をもって答えた。それはもう「今は夏だよ。」って言われるくらい当然のこととして。
「ああ間違いないさ。何度も本で読んだし、写真も見たんだ。これは国から許可をもらった場所でしか育てることが許されていない花のひとつなんだ。この状況から察するにベロム伯爵がこれを栽培しているとは考えにくい。モニもそう思うだろう?」
そうね。ここに来るまでに踏み荒らされた道はひとつとしてなかったし、おじい様がこんな場所で毒花を育てているとは思いたくないわ。
私はとても嫌な予感がして、それが間違いだと思いたくてフィンにもうひとつ気になることを質問した。
「あれはどんな毒を持つ花なの?」
フィンは丁寧に教えてくれた。何故彼がその知識を持っているのかはどうでもよかった。私にとって衝撃だったのはその事実だけだったから。
あの花には花と根に毒があるということ。
花には喉を潰す作用があるということ。それと同時に高熱も出るということ。大量に摂取すると死に至ることすらあるとても危険な花であるということを、淡々と説明してくれた。
根にはさらに悪質な成分が含まれているが、上手く抽出すると麻酔薬として有効なことから、許可を得て栽培をすることは可能なんだということ。
しばらく声を発することができなかった。
あの花だったの?
モニクが、私が苦しんだ原因は病ではなくて。
頭の中の整理がつかない。
どうして。
けれど状況が間違いなくあの花を指している。
「モニ?」
小刻みに震え続ける私の手を暖かく包み込んでくれるフィン。もう少しだけこうしていてね。あと少し落ち着いたら全部話すわ。
何度か深く深呼吸して、ようやく私は少しの冷静さを取り戻した。
「あのねフィン、私今とても混乱していて上手く話せるかわからないのだけれど、聞いてもらえる?」
握っていた手に少しだけ力を込めたフィンが、私の目を覗き込んでゆっくりと頷く。ありがとう、勇気が出るわ。
「私ね、あの花を飲んだのだと思うの。」
こう切り出した時、フィンが驚いていなかったことにその時は気がついていなかった。私は自分のことで頭がいっぱいでとても混乱していたものだから。
「王都にいた頃ね、よく熱を出したの。決まって喉も腫れたの。苦しくて息ができなくて一番辛い時は汗も出ないの。」
ぽつんぽつんと話す私の言葉を、フィンは静かに頷きながら聞き続ける。
「それにねー」
ここで私の言葉は止まってしまった。この続きを話せば取り返しのつかないことになるような気がして。
自分の手を包み込んでいるフィンの手を見つめる。私よりうんと大きくて暖かい手。
その手に少し力が込められた。ふと隣に座るフィンを見ると「うん」と頷かれた。わかったわ、この続きも聞いてね。
「私、あの花を知っていたと思うの。王都で住んでいた邸に・・・あったと思うの・・・」
オベールの邸はリージョン街にあるから、庭がないことは承知しているだろう。いえリージョン街でなくてもこの花が植えられていたらすぐに見つかるのでしょうね。特級とまで言われているそうだから。
でもちゃんと説明しなくちゃいけない。私は重い口を開いた。
「お母様の部屋、あの香りがするの。いい香りだなって思っていたのにー」
気がついたら涙が溢れだしていて、フィンは私のことを抱きしめていた。それは子供をあやすような手つきで。優しく何度も何度も撫でてくれるから、とうとう私は声を上げてわんわんと泣いてしまった。
ひとしきり泣いて、ヒックヒック言いながらも、なんとか泣き止んだ時、私のことをそっと放したフィンが向かい合って座り直すと酷くまじめな顔をしたの。いいえ少し怒っているみたいだわ。
「ようやく全て繋がった。僕はね、モニの病の原因をずっと探していたんだ。その過程であの花の存在を知った。でもモニが毒に晒される理由だけはどうしても見つからなくて、花のことは一旦排除したんだ。でもモニ、君はあの花の毒を与えられていたんだよ。間違いない。」
言い終わるころには憤怒しているようだった。フィンがこんなにも怒るところを見たことがあったかしら。ないわね。私のためにそんなに怒ってくれているの?
でもどうして?お母様が私にあの花を飲ませたというの?お母様は懸命に私のことを看病してくれたわ。私がミシェルだった頃のモニクのことだって、何年も何年もそれはひたすらに看病し続けていたわ。
「わからない。」
呟くように、独り言のように言葉が漏れた。
「ああ僕にもわからないよ。けれどこのままにしちゃいられない。今この瞬間にもモニのお姉さんがあの花を口にしているかもしれないのだから。」




