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12/17

12:真夏の雪

あくる日、フィンに会うと真っ先にミシェルの手紙のことを話した。

フィンは自分の家族のようにそれを喜んでくれて。


「嬉しいなあ、モニのお姉さんが元気になった上に無事婚約も取り交わしたんだね。」

良かったなあー、めでたいなあーと、馬を走らせている間何度も繰り返してくれた。

ありがとうフィン。私もとっても嬉しいの。


そんな気持ちも手伝って、今日はいつもよりもさらに少し遠くを目指して走ってきた。

湖からは離れたところにある森。ここは鬱蒼としていて、あまり人が出入りしている様子がない。だけれど、それが冒険みたいで2人ともいつも以上にワクワクしていた。


これ以上は馬で進むのが難しい、という場所で私たちは馬を降りてそこからは歩いて森の中を進んで行った。フィンは片手にバスケットと敷物、もう片方の手で私の手をしっかりと握りしめて。


「怖くはない?モニ。」

フィンはやや心配そうに眉尻を下げて私に聞く。


「ええちっとも。だってフィンと一緒だしここはベロムですもの。」

おじい様からベロムで危険な獣が出たという話は聞いたことがない。ここが手つかずの森だとて危ないことはないはずだから。それにフィンがしっかりと手を握ってくれているのですもの。


「それじゃ探検と行きますか。」

うんうん、僕が一緒だからね。と嬉しそうに繰り返して見せるフィン。ふふ、頼りにしているわ。

それにしてもフィンはこの森に来るのが楽しみだったのかしら。湖に行った時よりも楽しそうね。そんなあなたを見ていたら私もますます楽しみになってきたわ。


獣道すらない道なき道をかき分けて歩くのは、大層愉快だったわ。大きな獣がいないってことだろうし、なんだか冒険家になったみたいなのですもの。


フィンは少し進むたびに木に紐を括りつけていた。帰りの目印にするためにたくさん用意してきたのですって。そんなことを思いつくなんてすごいわ。私には考えもつかなかったことよ。


そうして進んで行くと、ぽっかりと開けた場所にたどり着いた。小さな場所だけれど、ここならば敷物を広げて一休みするのにちょうどいい。


「いい場所に着いたね。ここで休憩にしようか。」

フィンもやっぱりこの場所がいいと思ったようで、2人で手分けして昼食の準備に取り掛かった。

敷物を2人で持って広げる。私が目いっぱい手を広げてもぶらりとたるんでしまうほど大きな敷物を、2人して笑いながら敷いた。そうそう、敷物を広げる前にフィンが素早く転がっている小石やなんかを拾い集めて避けてくれたの。フィンは甘えん坊の末っ子のはずなのに、こういった気配りがとても利く。おかげでとても居心地のいい場所に座ることができそうだわ。


クレヴェンティエの料理人が用意してくれた昼食は、よくあの小さなバスケットに収まっていたと驚くほどには素晴らしかった。食後にはプリンまで出てきたのよ!


「ご馳走様。とっても美味しかったわ。完食よ。」

料理は間違いなく美味しくて。加えて心が晴れた効果もあってか、久しぶりに身も心も満たされる食事だった。


「モニが美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ。モニの食べているところを見るのが好きなんだ。」

フィンのその言葉に悪気なんてひとかけらもないことはわかる。でもね


「いやだ、恥ずかしいわ。私がとんでもない食いしん坊みたいじゃないの。」

ぷぅと頬を膨らませてやると、フィンは声を上げて笑い出した。


「何言ってんだい。こんなに手足が細くてさ。モニはもっとたくさん食べなきゃいけないよ。」

「そう、かな。」

自分でも太ってはいないと思っている。ベロムの邸には多くの使用人が暮らしていて、中には年の近い子供もいるから、フィンが領地にいる季節には時々その子達と遊んだりもするのだけれど、別段私だけが細いとも感じたことはないわ。


っと次の瞬間腰を持ちあげられてしまって。フィンは小さな子をあやすように両手で私を持ち上げると「ほら、こんなに軽い。」見上げながら笑っている。


まだ11歳だもの。これからちゃんと大きくなるわ。

でもね、フィンの言ってることは正しかったの。私が年が近いと思っていた子たちは、私より3つも4つも年下だったのよ。その時は知らなかったわ。私がとても小さいってことを。



敷物の上をすっかり片付け終えた私たちは、その場に荷物を置いて辺りを散策することにしたの。フィンのつけた目印があるからちゃんと戻ってこれるでしょう?


まだ充分おひさまは高い位置にいる。それだから私たちは来た道とは反対側へさらに進んでみることにしたの。楽しかったわ。湖も美しいけれど、同じくらい森も楽しくて素敵。何せワクワクするのですもの。


初めて見る鳥を見かけたり、綺麗な花を見つける度に大騒ぎするの。

そうして散策を続けていると、少し遠くに真っ白な場所があるのを見つけた。


「あれ、何かしら?」

「あの場所だけ雪が降ったみたいだ。」

危険ではなさそうだったから、って行ってみることにしたの。だって気になるでしょう?緑で覆われた森の中でそこだけが真っ白なのですもの。


そう時間もかからずにたどり着いたわ。小さな私の視界ですら見えたのですものね。

それは美しい野草だった。人知れず森の奥で満開を迎えていた花々。白い花びらが幾重にも重なっていい香りがここまで漂ってくる。なんだかとても懐かしい香り。


私が近づこうとすると、グイッと強く手を引かれた。

「フィン?」

不思議に思って見上げたフィンの顔は強張っている。



「どうしたのフィン?」

「なんてことだ。」

2人の言葉が重なってしまった。私はフィンが言葉を続けることを待つことにした。

しばらくの間フィンは何も言わなかった。じっと美しい白い花を見つめている。何か想い出の花だったりするのかな。


けれどそうじゃなかった。



「モニ、近づいてはダメだ。これは毒花だ。それも国で厳しく取り締まりされている特級中の特級さ。」

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