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11:嬉しい知らせ

私たちは何度か来たことのある湖を目指した。今日も1頭の馬に2人乗りだ。だって、私は1人で馬に乗れないのだもの。


敷物を広げて、私は小さなバスケットの中から2人分の水筒を取り出した。それからお昼に食べなさいと持たせてくれたサンドイッチ。何種類かの焼菓子まで入っていて、ちょっとしたピクニックだ。


それらをテキパキと並べていると、フィンは敷物が飛ばされないように四隅に拾ってきた石を置いたりと、同じくテキパキ動いていた。


「モニ、久しぶりに笑ってくれたね。」

フィンがとんでもない宝物を見つけたみたいな顔で喜ぶものだから、私もつられて笑ってしまった。あれ?フィンは私が笑ったって言ったから、私の方が先に笑っていたのかしら。


「ありがとうフィン。あのね、私ずっと毎日不安でたまらなかったの。それでね、昨日ふと誰かに会いたい、会って話がしたいと思った時あなたの顔が浮かんだの。」

正直に言いすぎちゃったかな。でもそれは本当のこと。いつしか私の中でフィンは家族と同じ位大切な人になっていたのだから。


石を置いて屈んだままだったフィンがつかつかと回り込んできて、ドカッと隣に腰を下ろしたかと思うと、何度か指を開いたり結んだり、かと思ったら急に抱きしめられて。


「ごめん、すごく嬉しい。ー」

その後も何か言いたげな様子だったけれど、言葉が続くことはなかった。私もキュッとフィンのことを抱きしめ返してみる。


どれくらいそうしていただろう。きっと時間にすればほんの僅かだったのだと思う。けれどそれはとても満たされる大切な時間で。


どちらからともなくそっと手を離した。なんだか恥ずかしくてまともに顔が見れない。

「モニのお姉さんが大変な時に、不謹慎って思われそうで言えなかった。でも言いたい。僕今すっごく幸せだよ。モニが辛い時最初に浮かんだ顔が僕だったことがとても嬉しくて。」


私の方こそあなたに感謝の気持ちでいっぱいなのよフィン。

半年もの間離れていて、ようやく会いに来てくれて、それなのに私は別のことで頭がいっぱいで。

それなのにあなたは私の気持ちが落ち着くまで待っていてくれた。フィン、あなたのような素晴らしい人と出会うことができて私も幸せよ、とっても。


「昨日ね、お姉様から手紙が届いたと言ったでしょう。まだ弱々しい文字ではあったけれど、起き上がって手紙を書けるだけ回復したのですもの。きっと良くなるわ。もうじき結婚するのですもの。」


1本の水筒をフィンに差し出す。

「さあ昼食にしましょうよ。私たちはこの夏のひと時を精一杯楽しまなくちゃ。今からでも間に合うかしら。」


水筒を受け取ったフィンが私の水筒にコツンとそれをぶつける。乾杯の合図ね。

「もちろん間に合うさ。夏はこれからだよ。ベロムで最後の夏を楽しもう。」


最後の夏という言葉にはっ!とする。

そうか、ここでこうして会うのはこれが最後なのね。冬にはきっとまた会えるだろうけれど、春が来たら私は王都へ帰るつもりでいる。そうすれば再びベロムへ来ることは難しい。だってオベールの家は馬車を持っていないのですもの。それで何年も家族と会えていないのだから。


「そんな寂しい顔しないでモニ。次の夏は王都で会うのさ。僕は王都を知らないし、モニも詳しくはないだろう?2人でいろんな場所を見つけに行こう。きっと楽しいはずさ。」


「ふふ、そうね。そうだったわね。来年の今頃は私たち王都で暮らしているのかな。」


「かな、じゃなくて暮らしているんだよモニ。」


言葉のひとつひとつが砂糖細工のように甘くて、表情もとろけるように甘い。

こんなに幼い私たちでもこれが恋人、なのかな。

ミシェルの頃には知らなかった感情だった。


サンドイッチや焼菓子をすっかり平らげると、私たちは近くを散歩した。馬はのんびりと草を食み、それに合わせるようにキツツキが木を突く音が聞こえる。この穏やかで優しいベロムが大好き。



日が暮れ始めいよいよ帰る時間になっとき、同時に同じことを言い出した。

「明日も遠乗りしようか。」

「明日も馬に乗せてもらえない?」


一拍置いてくすっと笑い出す。

「決まりだね。」

「そうね。」


「明日は僕が昼食を用意してくるよ。」

言いながら私を馬の上に乗せてくれる。





邸に戻ると、今日も王都から手紙が届いていた。昨日に続いて今日の手紙も速達だ。

文字はやっぱりミシェルのもので、私は急いで手紙を取り出す。


その手紙を読んで私は泣いてしまった。それは嬉しくて。


昨日届いた手紙を速達で送るよう侍女のロザリーに託した後、オベールの邸にアレン様がいらしたのですって。

ミシェルは急いで身支度を整えてアレン様と会ったそうなの。


ミシェルは一切知らされていなかったけれど、ミシェルが倒れたと知らせを受けた日から1日と空けずにアレン様はオベールにお見舞いに通って下さっていたのですって。

未婚の娘の寝ている姿を見せるわけにはいかないと、面会はお母様がお断りしていたそうよ。

そうよね、私がミシェルだったとしても寝ている姿を見られたくはないですもの。お母様が断って下さってよかったと思うわ。


ミシェルに会うことができなくても毎日通い続けて下さるなんて、やっぱりアレン様はミシェルのことをとても大切に想って下さっている。それが知れてよかったわ。今度こそアレン様と幸せになるのよミシェル。


アレン様は小さな花束を持っていらしていて、ミシェルの快復を待っていた。結婚の意思は変わらないと言って指輪も贈って下さったのですって。

アレン様がお帰りになってから、改めて自分の部屋を見渡すと、たくさんの花が飾られていたことに気がついたと書いてあったわ。毎日毎日花を携えて見舞いに来て下さったのね。その中で1つだけ大層豪華な花が、一番大きな花瓶に活けられていて、それは婚約の日に贈るつもりだったそうよとお母様がおしえてくれた時には、感動で胸がいっぱいになったって。ミシェルも花が大好きですものね。


その後は先走って私宛に破談になったと書いてしまったことを後悔したと書いてあるわ。それで急いで速達で送ってくれたのね。

指輪を受け取ったのですもの。2人は正式に婚約したのね。嬉しいわ、おめでとうミシェル。



1日前の私とは別人のように気持ちも晴れて、幸福がじわじわと湧き上がってくるのがわかる。

ミシェルの文字も昨日の手紙よりは幾分しっかりとしていた。後はこのままぶり返すことなく完全に快復することを願うばかりね。


ミシェルならきっとすぐに良くなるわ。だってとっても健康だったのですもの。ミシェルだった私が言うのだから安心していいわ。

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