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10:予期せぬ出来事

約束通り次の冬には公爵ご夫妻とフィンがベロムの地に滞在された。

初めて夫人にお会いしたのが7歳の夏だったから2年半ぶり、もちろん公爵様にお会いするのは初めてのこと。


お2人は未の息子の相手だからなのか、私が幼すぎるからなのか、良くも悪くも私の全てに対して寛大でいらっしゃった。それはもう赤ちゃんが初めて立った時のように、何から何までお褒め下さってこそばゆくなるほどだったわ。


まだ9歳の私に指輪は相応しくないだろうからと、公爵家からは美しいブローチをいただいた。

公爵様とフィンの瞳の色と同じ、緑色の石が眩く輝く大変豪奢なブローチだ。とても普段使い出来るようなものではなくて、いただいて以降は机の上に飾っている。でも毎日丁寧に磨いているのよ。


フィンはますます私に優しくなって、私も少しずつフィンのことを異性として意識するようになってきた。

それでもやっぱり冬は暖炉の前でゲームに夢中になるし、夏が来ればそこらじゅうを駆け回って遊んでいたのだけれど。



そしてフィンが14歳、私が11歳の夏が来た。

そろそろミシェルとアレン様が正式に婚約を交わす頃だ。ミシェルの女学校もあとは卒業を迎えるばかりだろうし、きっと季節のいい次の春辺りに2人は式を挙げるんだろう。


来年王都に戻るには、私にとっても都合がよかった。だって女学校に通える歳になるのですもの。

女学校に通って、ゆくゆくは看護の道に進んでそして。

フィンが王都に向かうのは私よりきっと後になるわね。そうすると何年かは会う機会もなくなりそうだけれど、平気よ。私は手紙を書くのが大好きだし、返事を待つ間の時間も同じくらい大好きだから。


そう思っていたのにフィンはどう言ったと思う?

「無理、全然無理。絶対無理。僕は王都の学校に編入するからね。モニが王都に帰るなら僕も王都に行く。当然でしょ?」

ですって。当然?なの?


クスクスと笑っている私の横で口を尖らせて怒って見せるフィンだったけれど、我慢できずにフィンも笑い出した。ふふ、あなたのご両親は末っ子のあなたに甘いですもの。きっとお許しになるのでしょうね。



そんな呑気ないつもの年と変わらない夏を過ごしていたある日、王都の家族から手紙が届いた。いつもより薄い封筒だった。これ!いよいよ婚約の知らせかしら!ミシェルとアレン様が婚約した知らせね!


急いで封を切り中の手紙を取り出すと、そこに書いてあったのは期待とは全く別の言葉だった。

手紙の送り主はお父様。


~ミシェルが倒れた。ずっと手紙がないと気を揉むだろうから送るが、今は落ち着いているから心配しなくていい。モニクはベロムで過ごしていなさい。~と。




私への手紙には多くは書いてなかった。

けれど、おじい様宛の手紙には詳細が記されていて、おじい様はそれを全て見せてくれた。


ミシェルはある朝ひどく疲れた顔をして食堂に降りてきたそう。お父様もお母様もその日は女学校を休むよう言ったのだけれど、ミシェルは平気だから行くと言って、でも朝食にはほとんど手もつけず学校へ向かおうとしたのですって。

お父様と一緒に邸を出る時になって、ミシェルは酷く咳き込んでそのまま倒れてしまったというの。咳をしすぎたからだろうと書いてあったけれど、最後は血まで吐いたそうよ。


それから3晩ほど意識が戻らなかったなんて、一体どうしたのミシェル。

今は意識を取り戻したそうなの。でも喉が腫れてほとんど声も出せないのですって。


同じよ!それ私が罹っていた病と同じじゃない!

どうして・・・


それからの毎日は上の空で、何をやっても上手くいかなかった。

フィンは気を使ってくれているのだと思う。何日か私を1人にしてくれたから。ごめんね、そしてありがとう。今はミシェルのことで頭がいっぱいで、けれどどうすることもできなくてひたすらもどかしかった。


お父様からの手紙が届いて何日後だっただろう。1週間も経たないうちに今度は速達が届いたの。これは間違いなくミシェルの字。ミシェル本人からの手紙が着て、私は取るものもとりあえず夢中で封を切ったわ。


ミシェルはお父様が私のところへ手紙を寄越したことを知っていて、驚かせてゴメンね、もうなんともないから安心して。と、元気でやっていることを強調する文面が続いていた。

ミシェル、ちっとも大丈夫じゃないのね。私たち、今までどれだけ手紙を交わしてきたと思う?あなたの字くらい簡単にわかるの。文字が震えているじゃない。いつものあなたの字と全然違うわ。


読み続けるとさらに辛いことが書かれていた。

倒れたのが婚約の2日前だった、目が覚めたら婚約は延期になったと聞かされた。でもね、どうやら破談になったみたい。お父様もお母様もすぐに話を逸らしてしまうから、察してしまったわ、と。


どうして?

ミシェルもベロムに来ればいいわ!その病はきっと王都にいるから罹るのよ。王都だけの病なの。ここで暮らせばすぐに良くなるわよ。そうしたら、その後はー


ミシェルは結婚してオベールを継いでくれる方を迎えなくちゃならない。王都を離れることができないの。頭の中がグルグル回ってしまってどうしたらいいのかわからなくなった。


どうしてミシェルばかり辛い目に遭うのだろう。

以前の私は婚約直後に妹に突き落とされた。

今のミシェルは、婚約目前に病に倒れてしまった。


どうしてー



会いたいな。


人恋しさのその瞬間頭の中に浮かんだ相手は、家族ではなくてフィンだった。


明日はどこかに連れ出してって言ってみようかしら。

私がふさぎ込んでいたってミシェルが快復するわけじゃないもの。ミシェルの為にも私は元気でいなくちゃいけない。だって、私が辛かった時いつだってミシェルは元気いっぱいの笑顔を見せてくれたのだから。


翌日、フィンと私は馬に乗って少しの遠出をすることになった。

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