第29話 ニュー・ビギニング
伊忌島にての、最初の一晩が明けた。
ヒヅルは、身体検査のためにカンナギ内の救護室に呼ばれることとなった。
その道中、何やら機械をいじくっているウォルノの姿が目に映った。
「おっ、こりゃあスゲェや。
こんなモンがありゃあ、戦闘指揮も格段に効率が違うだろうなァ」
カンナギ内のドックに座り込みぶつぶつ言っている。
「何してるの?ウォルノ」
「うぉっ、ヒヅルか!こいつの最終調整だぜ」
そう言って差し出したのは、両手に収まるくらいの球体であった。
「こいつァ、感情を持った超高性能AIだ。
いや、まぁ……そうなる予定のアンドロイドか?
そんなとこだ」
AI、か。すごく優れたコンピュータなのだろうが、その上感情まで持つとは驚きだ。
「この子がいりゃあ、アクセス権のある機体は同時並行で戦局に合わせて、最適化された動きができる……かもしれねぇってシロモロよ。
それを艦長とフィリスに頼まれて作ってるってワケさ」
鼻を親指で擦りながら誇らしげにウォルノが語る。
「え、なんでフィリスが?」
「そいつァ簡単な話、発案があの仮面女だからだ」
フィリスがマシーン類の開発に明るいとは、意外であった。
しかしもっと意外なのは
「なるほどね、でも意外だね。
ウォルノがAIやアンドロイドに詳しいなんて」
その言葉にウォルノの誇った笑みが固まる。
そして背を向けて
「……まぁな。少しだけ、な」
と短く返した。
意外と思われたのを気にしたのだろうか。
「ま、これからちったぁ戦いやすくなるって訳だ。
期待しとけよ!」
ウォルノの朗らかな笑顔が眩しい。
「そっか、ありがとう!
じゃあ僕は、検査の方行ってくる。
そのAIは任せたよ!」
元気な足取りで去るヒヅルを見つめるウォルノ。
彼はぽそりという。
「……。ヘッ、アンドロイドか。
今の俺をみたら、お前はどう思うだろうな」
カンナギ内の救護室は、設備がよく行き届いている。
人員が貴重な世界、損失を回避するためにはやむを得ない設備投資だ。
とはいえ、それでも脳波検査器具をはじめ一部は過剰かもしれない。
「これは…ある種研究施設では」
ヒヅルも、そう感じる1人であった。
「あら、来たわね。
ヒヅル・オオミカ君。早速血液検査と脳波……それから」
いきなり現れた女性にぐいと二の腕を掴まれる。
「うわっ、なんですか!?」
「アタシかい?この研究室の長、ジェーン・シーマさね。
よく覚えておきな、坊や」
メスのような切れ味鋭い目つき。
濡れっぽい瞳に長いまつ毛。
細くくびれた腰。
女豹、という言葉がよく似合う白衣の女性だ。
「フィリスから話は聞いてるの。
上玉じゃないの、アナタ……早速この紙に記入しなさいな」
「あ、あの……なぜ僕だけ身体検査を?」
年齢や出身を記入しながら疑問に思ったことを真っ直ぐ問いかける。
「あら、アナタ何も聞いてないのかしら?
あの爆発的な戦闘能力と思考力。
その原因はアナタの体か、精神かのどちらかが発揮されたもの。
それを探るために、データを取るのが目的よ」
ジェーンの目の奥がキラリ、と光る。
エムルを倒したあの時の戦いが、そんなに重要だったのだろうか。
照明が目の前の女性をこんこんと照らし出して尚のこと妖艶に映し出す。
「アナタはまだ。
あの太極図システムという神秘の箱、その特異性に気づいていないようね」
「えっ、それはどういう……!」
「その答えは……お楽しみの後で、ね?」
恍惚の表情を浮かべるジェーン。
ヒヅルはここでたっぷりと、検査で体をいじられるのであった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:なしw 今回はナシ!ww
2 キャラクターについて
・ジェーン・シーマ→ジェーン・ドゥより。
シーマ(研究や論文の題目)と併せた名前。




